下北沢通信

中西理の下北沢通信

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能や歌舞伎でおなじみの「黒塚」伝説 リリパのわかぎゑふが伝奇ロマンに 流山児★事務所「黒塚~一ツ家の闇」@下北沢ザ・スズナリ

流山児★事務所「黒塚~一ツ家の闇」@下北沢ザ・スズナリ



流山児★事務所「黒塚~一ツ家の闇」を下北沢ザ・スズナリで観劇。峠の一ツ家に潜む鬼を描いた能や歌舞伎でおなじみの「黒塚」伝説をリリパットアーミーわかぎゑふが脚本・演出を担当、アクションたっぷりの伝奇ロマンに仕立て上げた。
中島らもが存命のうちはよく観劇していたリリパットアーミーだが、最近はとんとご無沙汰であり*1わかぎゑふのかかわる作品を見るのもずいぶんひさびさである。わかぎゑふは事前の取材に答えて「今、ウクライナで起きている争いの根源の一つでもある『土地と血』の問題を、日本の戦国時代(という設定)を借りて見つめ直したい」などと話している*2ようだが、実際に観劇しての感想ではそういうことを考えなくても単純に活劇としても面白く見られるし、よく出来た伝奇ロマンだなということだった。
もともとの「黒塚」伝説では陸奥(みちのく)の安達原(福島県)にある一ツ家が舞台で、そこを諸国を回る僧が訪れて鬼に遭遇するが、わかぎはこれを京に近い新庄という在所に「笛吹峠」に変更、交通の要所であるこの場所を巡っての争いを鬼の伝説を重ね合わせた。この変更で鬼と対決するのを陰陽師としたことはやや結末に予定調和の感はあるがアイデアといえよう。
鬼となる老尼には劇団の看板男優、塩野谷正幸が配され、
鬼退治の目的でそこを訪れる若者・月之介に里美和彦、その愛妾には遊妓・十六夜には伊藤弘子が配役され、舞踊や歌唱の場面では柱となって好演した。
もちろん、この種の伝奇的な要素の強いアクションを得意とする劇団としては劇団☆新感線があり、それと比べると殺陣も演技もゆるゆるに見える感じ(笑)は否定できない*3のだが、それこそかつて中華活劇を得意としていたリリパ風味を感じたし、中島らも桂吉朝、コング桑田、ひさうちみちおらのおじさん劇団員連中が稽古にはあまりでなくても勝手気ままに放置され、放し飼いされていたのも、リリパの魅力*4だったし、この日のダンスシーンでユニゾンの動きからひとりだけ立ち遅れていた流山児祥のおじさんぶりを見て、昔のリリパのことを思い出し懐かしくなった*5のである。

脚本・演出 わかぎゑふ

出演
塩野谷正幸 伊藤弘子 上田和弘 甲津拓平 小林七緒 里美和彦 平野直美 木暮拓矢 山下直哉 山丸莉菜 うえだひろし(リリパットアーミーⅡ)

流山児祥

『黒塚〜一ッ家の闇〜』あらすじ
15世紀末。世情の不安定化によって室町幕府の権威が低下し、戦国大名が弾頭しはじめ、領地拡大のために他の大名と戦闘を行うようになった。舞台はそんな戦国時代。新庄という在所に「笛吹峠」と呼ばれている場所があった。そこを超えると京の都への近道のため、長い間土地をめぐる争いごとが絶えない。しかし20年前に起きた悲惨な事件をきっかけに峠は封印。みすぼらしい一ツ家があるばかりなのだが、そこに近づいた者は誰一人帰らず、いつしか「鬼が住む」と怖がられている有様である。見かねた領主、堀兵右衛門は、嫡男月之介に鬼退治を命じる。侍として初めての仕事に張り切る彼に付き添うのは僧兵の正玄と、地頭の京之介。若者達は意気揚々と笛吹峠の一ツ家に住む「鬼」と対面するのだが、そこに待っていたのは20年前からの大きな因縁だった。鬼退治に向かう若武者の前に立ちふさがるものは鬼かヒトか?

*1:解散は発表されてないが公式サイトで調べてみると玉造小劇店配給芝居Vol.20リリパットアーミー30周年記念公演最終公演「天獄界~哀しき金糸鳥」と題して2016年に上演されたものが最後の公演になっているようだ。

*2:朝日新聞の劇評では予想通りにその辺りのことを強調していた。

*3:ただ、そこは否定的な評価をするのではなく、そこにこそ持ち味があると思う。

*4:そもそもダンスや殺陣などはいくら練習させてもうまくできないので、わかぎにとっては苦衷の判断だったはずだ。

*5:いまさら言及するまでもないが、中島らも桂吉朝もこの世にはいない。