下北沢通信

中西理の下北沢通信

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寺山修司の処女作をミュージカル仕立てで上演 初演した劇団四季のヒット作「キャッツ」も意識か  日本の演劇人を育てるプロジェクト 新進演劇人育成公演演出家部門『血は立ったまま眠っている』(寺山修司作・三上陽永演出)@SPACE早稲田

日本の演劇人を育てるプロジェクト 新進演劇人育成公演演出家部門『血は立ったまま眠っている』(寺山修司作・三上陽永演出)@SPACE早稲田



『血は立ったまま眠っている』*1寺山修司作・三上陽永演出)@SPACE早稲田を観劇。寺山修司のデビュー作を青森出身で寺山の出身高校(青森高校)の後輩にも当たる三上陽永(ぽこぽこクラブ)が演出した。この作品などの上演を見るのは初めて。初演は劇団四季に書きおろしたもので、そのせいもあってか、天井桟敷などで後に寺山が自らの手で上演された作品群とはかなり異なる印象を受けた。当時の劇団四季の上演、浅利慶太による演出がどのようなものだったかは分からないが、今回の三上陽永による上演は俳優全員による群舞の場面なども含むロックミュージカル仕立てになっているのが面白かった。劇団四季が初演したといっても当時の劇団四季は「キャッツ」(1988年日本初演)の大ヒットロングランでミュージカル劇団としてのイメージが定着するより、前のことでこの作品を音楽劇として上演したのかどうかも定かでないが、猫殺しの子供というキャラが出てきたこともあって、作品にも猫のイメージが出てくるという理由はあるにせよ、群舞の場面で女優がセクシーな衣装に猫耳をつけて踊っているのは明らかに「キャッツ」を本歌取りしたものとも思われたからだ。
初演された当時の時代の背景を考えると左翼組織の暗躍やそれに利用されテロを決行しようとする若者たち、一方ではリンゴの横流しで利益を一攫千金を目論む愚連隊と互いに独立した動きが同時進行していく。
処女作だけあって、エネルギーには満ちているが、並行して進むテロリストたちの物語と愚連隊の話が最後まで交わらず、ほとんど接点なく終わるのは物語の筋立てとしては物足りなさを感じたことも確かだ。
そのためにどちら側の登場人物も人物像がもう少し深掘りできたのではないかとの不完全燃焼感が残るのだ。
ただ、そうした問題が戯曲にはあるのにも関わらず、舞台そのものは面白く見ることができた。ひとつは最初に書いたミュージカル仕立ての演出などの娯楽性の高さ。そして、そうした面における女優陣(内田敦美、木村友美、竹本優希)の魅力である。
一方、男優ではテロリスト、灰男を演じた渡邊りょうが男の色気というか性的魅力も感じられよかった。

舞台芸術分野の優れた新進演劇人で発表の機会に恵まれない者に、発表の機会を提供することにより 新進芸術家の育成を図る事業です。

寺山修司
演 出
三上陽永(みかみ ようえい)

1983年青森県生まれ。寺山修司の母校:青森高校出身。
東京経済大学を経て鴻上尚史の「虚構の劇団」(2022年解散)に所属。
2013年、杉浦一輝、渡辺芳博らと演劇ユニット「ぽこぽこクラブ」結成、三上陽永:演出でオリジナル作品を上演、結成9年目の2020年、杉並演劇祭大賞、日本演出者協会・若手演出家コンクール2020最優秀賞受賞と高い評価を得て、演出家としての将来が注目されている。
「一つの価値観や方法論に拘らない、自由な演劇で人の持つ全ての感情が劇場空間に満ち溢れる演劇」を目指している。
スタッフ
音楽/オレノグラフィティ
振付/スズキ拓朗
舞台美術/山下昇平
照明/横原由祐
音響/島猛
衣裳/竹内陽子
舞台監督/渡辺芳博
絵画提供/北村悠
宣伝美術/坂本健
舞台写真/横田敦史
プロデューサー/流山児祥
アシスタント・プロデューサー/米山恭子
制作協力/流山児★事務所


あらすじ


なぜ、国家には旗がありながらぼく自身には旗がないのだろう?

戦後、焼跡の若者たちの反抗を描く青春群像劇。
様々な異議申し立てが噴出した60年代後半の小劇場運動の原点がここにある。
演劇における社会性、実験性、集団性、変革への希求を浮かび上がらせる。
この作品はいわゆる「新劇」の変形であり、演劇への疑いを指し示す世界の鬼才=テラヤマの「演劇と革命」のバイブルである。
寺山修司没後40年認定記念認定事業


キャスト
灰 男(テロリスト)   渡邊りょう
良(その仲間)      新垣亘平
夏 美(詩を書く少女)  伊藤麗
男(雑誌社の男)     藤原啓児(スタジオライフ)
子 供(猫殺しの趣味あり)本間隆斗(流山児★事務所)
床 屋          甲津拓平(流山児★事務所)
ペギー(ずべ公)     内田敦美
葉っぱ(ずべ公)     春はるか → 木村友美(MeiMei所属)
君 子(ずべ公)     竹本優希(流山児★事務所)
釘(麻薬中毒のボクサー) 神原弘之(劇団1980)
陳(朝鮮人ドラマー) 坂本健(ぽこぽこクラブ)
張(その兄) 
 → 陳または張と呼ばれる男(朝鮮人)  申大樹(深海洋燈)
南小路(靴紐売)     渡辺芳博(ぽこぽこクラブ)
そばかす(前科者)    杉浦一輝(ぽこぽこクラブ)

*1:1960年、浅利慶太演出で、劇団四季により上演。