下北沢通信

中西理の下北沢通信

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シェイクスピア「から騒ぎ」を歌舞伎ミュージカル風の音楽劇に仕立て上演 RAKU創立25周年記念公演『RAKU歌舞伎☆から騒ぎ』@シアター・アルファ東京(恵比寿)

RAKU創立25周年記念公演『RAKU歌舞伎☆から騒ぎ』@シアター・アルファ東京(恵比寿)


シアターRAKUとは流山児祥が率いるシニア劇団。今年で25周年を迎え、これまでカナダ、台湾の演劇祭にも参加するなど国内外で活動を続けてきた。当日パンフに過去の上演記録が記されているが、海外の市場も意識してか、シェイクスピア寺山修司の作品を時代劇ミュージカルにして上演してきた。
 シェイクスピアでは音楽劇との親和性を意識してかこれまでコメディーの代表作である「十二夜」「夏の夜の夢」を主として上演してきたが、今回初めて「から騒ぎ」を歌舞伎ミュージカル風の音楽劇に仕立てて上演することになった。
 流山児祥が手掛ける演劇作品はアングラ演劇と見なされることも多いのだが、むしろ大衆演劇のように演劇の持つ娯楽性を現代演劇の中に復権させようという意図を感じる。シアターRAKUの活動もそうした意思によるもので、ミュージカル風とは書いたもののこの作品の中に何度も繰り返される群舞の部分のイメージを「マツケンサンバ」みたいと評すれば舞台のだいたいの雰囲気は感じ取ってもらえるかなと思う。
 「から騒ぎ」ではケネス・ブラナーによる映画版が有名だが、演劇上演はけっこう珍しい*1のではないかと思う。関西でのいるかHotelによる上演を以前に見ていてその時の劇評がブログで見つかったので一部抜粋してみる。ただ、いるかHotel、シアターRAKUには共通点もある*2

 演出家・俳優の谷省吾が主宰するいるかHotelは「からッ騒ぎ」(大阪芸術創造館)と題し、シェイクスピアの「空騒ぎ」を上演した。こちらはマレビトの会の前衛的演出とは対照的な娯楽性の高い舞台だった。いるかHotelとしては昨年の「間違いの新喜劇」(「間違いの喜劇」)に引き続くシェイクスピア作品の上演だが、どちらも全員女優の配役で、関西弁での上演というのが特徴となっている。
 劇団公演とはいうものの、べネディック役に解散した立身出世劇場の主力であった岸本奈津枝を配したほか、谷の所属劇団、遊気舎や指導をしている劇団ひまわりの関係者ら交友範囲の広さを表す幅広い客演陣、さらにはオーディション募集の若い女優たちとオール女優キャストといいながらもベテランから若手まで取り揃えたキャスティングが巧みだ。
 この物語はクローディオとヒーロー、そしてベネディックとベアトリスの二組の恋人たちが陰謀や計略といった波乱をへて最後には結ばれるという恋物語になっている。ただ、一般には後者のカップルが重視されていて、ケネス・ブラナーの映画「から騒ぎ」でブラナー自身が演じたようにこの舞台の主役はべネディックと見なされている。この舞台の最大の魅力はベアトリスとベネディックスの寸鉄人を刺すとでもいわんばかりの舌戦の軽妙なやりとりにあり、それは変わりはないのだけれど、今回の谷演出ではクローディオとヒーローにより焦点を当て、ドン・ジョンの計略により、ヒーローの浮気現場(と見せかけた侍女マーガレットとドン・ジョンの部下ボラチョの密会)をクローディオらが目撃する場面など原作にないいくつかの場面を追加するなどして、作品のドラマ性に重点を置いた。
 それで演出によってはただ騙されている愚かな男とされかねないクローディオを福田恵(Giant Grammy)がシリアスな演技で自分の愚かさから愛する人を亡くした悲劇の人という風に演じさせるなど芝居としての深みを増した。ドタバタ喜劇だった前回の「間違いの新喜劇」が吉本新喜劇だとすればこちらは泣き笑いの松竹新喜劇の趣きか。ただ終演後印象に残るのはやはりべネディックである。関西弁でしゃべくる岸本のべネディックはいくら男装していても、大阪のオバちゃんにしか見えない。シェイクスピアがこんなにベタでいいのかと最初はひどく違和感があり、ミスキャストではとも考えたが、ベアトリスとのやり取りは彼女がやると夫婦漫才のようにも見えてくる。どうにも可笑しいのだ。オール女優キャストはどうしても宝塚を連想するものになりがちだが、彼女のインパクトの強さはそうした印象を一撃で吹っ飛ばした。全体としてはオーソドックで手堅い職人芸を見せる谷演出だが、こういう「創造的な破壊」もあえてできるのがその真骨頂といえるかもしれない。(5月22日夜・大阪芸術創造館所見)

 映画版もそうだが、いるかHotel版でもベネディック(RAKU版では弁次郎)とベアトリス(RAKU版では松風)の丁々発止のやりとりが場をさらうような最大の見せ場があり、そういう面では少しおとなしく感じて物足りないかもしれない。いるかHotelの感想ではベネディックの吉本新喜劇ばりのデフォルメに違和感を感じたのだが、「夏の夜の夢」のロバのボトム、職人らによる劇中劇、アーデンの森、「十二夜」のいじめの場面のような抱腹絶倒の見せ場があるわけではないので、「から騒ぎ」は喜劇としての笑いの密度は低いと言わざるをえない。そのためには多少はやり過ぎて感じるほどのデフォルメは必要なのかもしれない。
 一方で原作でヒーローに当たる可憐なヒロイン役を演じた原きよは良かったのではないかと思う。

原作:W・シェイクスピア
翻訳=松岡和子 より

2022年6月30日開幕!
シアター・アルファ東京(恵比寿)

演出:流山児祥
振付:北村真実(mami dance space)
作曲:多良間通朗

歌って、踊って、恋をする!RAKU歌舞伎inシェイクスピア!!

戦から凱旋したサムライたち。
もてなしを受けるため寄った館では、
恋に落ちる者、娘との丁々発止のやりとりを楽しむ者。

お殿様は若者たちの仲を取り持ってやろうとしますが、腹黒な弟のたくらみで、事態は思わぬ方へ向かいます。
取り違えたり、だまされたり、悲嘆にくれたり、憤慨したり、、、
ことを首尾よくまとめる神主様の秘策とは、いかなるものでしょうか。

お馴染みシェイクスピアの『から騒ぎ』を、日本の戦国時代に置き換えて、
歌って踊って恋をする!

せかいのどこにもない自由なる演劇をお楽しみください。

『空騒ぎ』(からさわぎ、Much Ado About Nothing)はウィリアム・シェイクスピアによる喜劇。1598年から1599年頃に初めて上演されたと思われる。1600年に出版され、1623年のファースト・フォリオにも収録されている。『空騒ぎ』は名誉、恥、宮廷政治などに関する真剣な考察を含みつつも全体としては非常に陽気で楽しい作品であるため、一般的にシェイクスピアの喜劇の中でも最良の作品のひとつと考えられている。

物語は二組の恋人同士を中心に展開する。ベネディックとベアトリスが策略にかかって互いに対する愛を告白するようになる一方、クローディオが恋人ヒーローを不実だと思い込んで結婚の祭壇で拒絶する。ベネディックとベアトリスは協力してこの間違いを正し、最後は二組が結ばれるのをダンスで祝って終わる。




⦿出演⦿

出田君江
川本かず子
桐原三枝
杉山智子
高野あっこ
辻 洋子
内藤美津枝
永田たみ子
二階堂まり
西川みち子
原 きよ
溝田 勉
村田 泉

後藤英樹(客演)
伊藤裕作(客演)
春はるか(流山児★事務所)
本間隆斗(流山児★事務所)

流山児祥





⦿スタッフ⦿

演出=流山児祥
振付=北村真実(mami dance space)
作曲=多良間通朗
舞台美術デザイン・舞台監督=小林岳郎
舞台監督=山下直哉
照明=横原由祐
音響=島猛(ステージオフィス)
衣裳=堀内真紀子
美粧=木内尚
演出助手=橋口佳奈
舞台監督助手=春はるか/本間隆斗
宣伝美術=やまなかももこ/江利山浩二(KINGS ROAD)
写真=横田敦史
制作=シアターRAKU/米山恭子
制作助手=荒木理恵

*1:一般には蜷川幸雄演出によるものが有名なようだが、見ていないのでここでは触れることはできない

*2:それは二組のカップルをはじめ主な役を女優が演じたことだ。日本の小劇場演劇では少年役を女優が演じるのはお家芸といってもいいほど普通に見られるが、大人の男性まで演じるとどうしても宝塚歌劇が蓄積してきた演じ方のノウハウがあり、宝塚っぽくなってしまうのが課題だ。