下北沢通信

中西理の下北沢通信

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恋と革命の青春群像 大正と60年代末と現代重ね合わせ 流山児★事務所「美しきものの伝説」@下北沢小劇場B1

流山児★事務所「美しきものの伝説」@下北沢小劇場B-1



こうした言い方では批評として大雑把すぎることはあえて分かったうえで評すると若さのエネルギーに満ちた素晴らしい舞台だった。「美しきものの伝説」は68年に初演された作品で大杉栄クロポトキン)、伊藤野枝アナーキスト無政府主義者カップルを中心に平塚らいてうモナリザ)ら青鞜社の女性運動家、島村抱月(先生)、松井須磨子小山内薫(ルパーシカ)ら日本近代演劇の始祖らを描いた群像青春劇だ。
 作者である宮本研は日米安保反対闘争に向けて立ち上がった当時の学生運動家らや従来の新劇に飽き足らず運動を起こした演劇人たちの姿を大杉栄伊藤野枝らと合わせ鏡のように描き出したと思われる。それが今回の流山児★事務所の上演(演出:西沢栄治)ではそうしたいずれの革命の季節も過ぎて、鬱屈している現代の若者のイメージと3つの時代を重ね合わせて、時代によって変わるもの、変わらないものを浮かび上がらせて、観客の前に見せてくれている。
 大正の時代を描いてはいるが上の舞台写真を見てくれれば明らかなように出演俳優らは衣装や髪型などは現代のファッション(あるいは時折初演当時の60年代後半)を思わせるものとなっている。そして、彼らの話す話題や口調は実際の著作や彼らが議論していたかもしれない言葉ではあるが、その口調は学生運動の闘士らが熱く語ったような語り口を髣髴とさせるものでもある。
 こうした意識的なごちゃまぜが現代に生きているかのように歴史上の人物をそこに存在させる臨場感を生み出しているのだ。冒頭近くのシーンでゲバ棒を持った白ヘルの運動家を「国葬・反対」のプラカードを持つ人を混在させる導入部はなかなか巧みであった。
 宮本研は新劇畑の人と言ってよく、この「美しきものの伝説」も文学座によって初演されている。そういうこともあって最近も文学座、文化座、俳優座、民芸、青年座、東演、青年劇場の七劇団による新劇交流プロジェクトによる上演など新劇系の劇団による上演が多いが、実は私が最初にこの作品を見たのは演劇祭典・京でのマキノノゾミ演出の上演。阪神大震災からほどない時期に上演されたこの時は最後に松任谷由実の「春が来た」とともに無数の桜の花びらが劇場を埋め尽くしたのが印象的で、まだ記憶に新しかった阪神大震災を本作最後に描かれる関東大震災と重ね合わせたような演出だったのではないかと記憶している。
 実はそれまでつかこうへい作品からの影響が非常に強かったマキノノゾミはこの「美しいものたちの伝説」の演出を手掛けた後に大きく方向を転換。岡本かの子を描いた「KANOKO」や「フユヒコ」、「東京原子核クラブ」など評伝劇的要素が強い群像劇に舵を切り、それに「美しいものの伝説」の上演が大きく影響を与えていることがうかがえる。
さらにいえば平田オリザもこの作品では描かれなかった大杉栄伊藤野枝の最後の日々の日常を淡々と描いた「走りながら眠れ」、大正期の文学者の群像を描いた「日本文学盛衰史」を創作しているが、どちらもこの作品が書かなかったことを描いており、その意味でこの作品を強く意識していることは間違いない。

流山児★事務所 宮本研連続上演第2弾「美しきものの伝説」
2022年10月5日(水)~12日(水)
東京都 小劇場B1

作:宮本研
演出:西沢栄治
音楽:諏訪創
振付:神在ひろみ
出演:田島亮、申大樹、上田和弘、山丸莉菜、春はるか、橋口佳奈、竹本優希、里美和彦、鈴木幸二、佐野バビ市、本間隆斗、十河尭史、諏訪創、荒木理恵、秋保達也、岡崎叶大、立原茉奈春、山川美優