下北沢通信

中西理の下北沢通信

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公益社団法人日本劇団協議会 新進演劇人育成公演 演出家部門「不思議の国のアリス」(別役実作・スズキ拓朗演出・振付)@下北沢ザ・スズナリ

公益社団法人日本劇団協議会 新進演劇人育成公演 演出家部門「不思議の国のアリス」(別役実作・スズキ拓朗演出・振付)@下北沢ザ・スズナリ

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公益社団法人日本劇団協議会 新進演劇人育成公演 演出家部門「不思議の国のアリスを観劇。別役実の「不思議の国のアリス」といえばルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」のキャラクターがそのまま登場する円こどもステージの「 《不思議の国のアリス》の『帽子屋さんのお茶の会』」*1が有名で、こちらはいろいろな上演主体によるものを何度か観た記憶がある。スズキ拓朗の演出・振付ということで、これをどのように料理するのかと楽しみに劇場に出掛けたが、これが完全に勘違い。まったく別の作品だった。
 スズキ拓朗の演出・振付だから別役実の脚本をどこまでそのまま上演しているのかは分からないが、アリスが主人公という以外はキャロルの「不思議~」とはまったく無関係な筋立てである。スズキの演出で見るとむしろ黒テントの音楽劇を彷彿とさせるようなところもあって、「別役実はこういう作品も書いていたのか」と驚かされた*2
 作品で描かれているのは砂漠の片隅にあるらしいサーカス一家の物語。団長でピエロの父親をはじめ、母親、姉、兄はいずれもサーカスの団員でアリスはそこの末娘。そこに突然「共和国は解散になり、王国が復活した」と女王の軍隊が踏み込んできて、コメディアンは世の役に立たないから全員逮捕して処刑するとして父親は連れ去られてしまう。
 笑いに対する弾圧というのがモチーフの背景となっており、1970年という時代背景を考えると政府に対する批判は清水邦夫らのように直接的なものではないが、別役実らしいアイロニーがあると思う。とはいえ、これは当時よりも現代の文化行政の在り方を考えるとより皮肉に感じられる部分があるかもしれない。
 別役がこの物語の主人公になぜアリスと名付けたのかは分からないが、物語自体はルイス・キャロルの作品とはほぼ無関係というのは分かってもらえるだろうか。別役戯曲の上演記録を調べてみると「不思議の国のアリス」は1970年に俳優小劇場で上演されている。創作期間が長い別役の中では時期的には初期作品に含まれてはいるが代表作のひとつであったといっていい演劇企画集団66「スパイ物語 へのへのもへじの謎」の直後であることを考えると、活動初期の若書きというには当たらず、別役実が自らの作風を確立した後の作品と言っていい。それゆえ、あえて言えば群像会話劇を特徴とする別役作品の中では異色作だったのかもしれない。
 今回の上演では別役実が作詞を手掛けたことで知られる六文銭「雨が空から降れば」*3が幕間の部分で出演者らによって歌われるが、この歌はもともと「スパイものがたり」の劇中歌として作られたもので、それゆえもとの上演でこの歌が歌われたことはありそうになさそうに思われるが、青山演劇フェスティバルの別役実特集で上演された「スパイものがたり」にも六文銭が出演して歌ったのは見ており、それは明らかに音楽劇の色彩が強い印象があったから、この作品ももともと音楽劇だったのかもしれない。
「アイ・アム・アリス」という作品も1970年に俳優座劇場で上演されており、同じ作品かもと考えたが、その舞台を観劇した人の「共和制と王政の混在する国で、アリスは、反乱の名目で、そのどちらからも追放されてしまいます。そこで、アリスは、もう一度、自分自身を『アリス』として発見することで、『アリスであるもの』になり、そのことを、『アイ・アム・アリス』という電報で、発信する」などという感想内容から考えると「姉妹編」とでもいうべき別作品のようだ。アリスに関しては説明からして同一のキャラクターのようでもあり、別役実がキャロルのアリスのような少女を主役にした物語を書きたかったから生まれたのだろう。
 今回の上演はキャロルの原典との関係性など面倒なことを考えなければ気軽に楽しむことができるし、そういう風にスズキ拓朗も演出しているのだが、戯曲に関して言えば、反復(リフレイン)されるような部分が何度も出てくるせいで退屈なところもあるのは否定できない。だが、それは意図的された退屈さという側面もあり、悩ましいところだ。
 配役ではアリス役に月蝕歌劇団やVoyantroupe、新宿梁山泊などアングラ演劇を中心に出演している紅日毬子が配されている。これが全体の印象にアングラ臭を感じる最大の要因となっているが、その割には舞台が砂漠ということもあってか、唐十郎の舞台から感じるようなアングラ劇特有の湿気のようなものは薄くて、別役のテキストにもドライかつモダンな印象がある。アリス役に実際そのまま少女に見えるようなキャラの女優を配するか、それとも主演の紅日毬子に合わせてもう少しどろどろしたような演出にするかどちらでも成立すると思うが、その両者がミスマッチなのがどうにも座りが悪い感覚がある。それが完全に微妙な線を狙いすました確信犯なら脱帽したいが、どうもちぐはぐにも感じるもどかしさもあった。 

【webサイト】

不思議の国のアリス

別役実

演出・振付
スズキ拓朗(CHAiroiPLIN)

主催
文化庁
公益社団法人日本劇団協議会

キャスト
アリス:紅日毬子
父:イワヲ
母・女王陛下:森ようこ
姉・兎・王女:山丸莉菜
兄・虎・王子:小林七緒
叔父・ライオン・公爵:田村龍成
叔母・公爵夫人:清水ゆり
従兄・いたち・近侍:山下直哉
委員会の男・看守:佐野陽一
兵隊・死刑執行人:丸山厚人
探偵X:伊藤俊彦
郵便配達:チカナガチサト
歩哨:橋口佳奈、松永将典、本間隆斗
キャラバンの男:諏訪創

スケジュール

2月23日[水] 19:00
2月24日[木] 19:00
2月25日[金] 14:00/ 19:00
2月26日[土] 14:00/ 19:00
2月27日[日] 14:00

※受付開始:開演45分前 開場:開演30分前

*1:www.na2.co.jp

*2:日本劇団協議会のプロデュースだが上演主体が流山児★事務所の流山児祥がプロデューサーというを考えると「らしい」作品だったとは思った

*3:www.youtube.com