下北沢通信

中西理の下北沢通信

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戦前の政府・軍部による思想、文化活動への弾圧と昨今の日本の文化軽視の政治圧力が二重重ねに 青年団第96回公演「日本文学盛衰史」@吉祥寺シアター

青年団第96回公演「日本文学盛衰史」@吉祥寺シアター


青年団日本文学盛衰史*1の5年ぶりの再演。初演はつい先日のように記憶していたが、その間に青年団の本体は豊岡に移転、コロナ禍もやってきて、初演時に雄姿を見せていた志賀廣太郎氏が物故されていることなどを考えるとずいぶん時間が経過したというようにも思われた。
 明治時代の部分はキャストの変更を除いておおかた前回公演の時と同じだが、現代とのつながりの部分は最近起こった時事的な出来事を取り入れて大幅に書き換えられている。そして、この部分からは「老成の人」と受けとられている平田オリザだが、あいちトリエンナーレ表現の自由の問題、東京五輪を巡る問題、コロナ禍の自粛にかかわる演劇バッシング(そして、そのうちのかなりの部分が平田自身に向けられたものでもあった)などここ数年に起こった出来事がいかに腹に据えかねるものだったかがよく分かって、この人が実は熱血の人だというのが良く伝わってくる。そして、重ね合わせというのが平田の得意技といってもいいのだが、ここでは直接描かれることはないが、この中でも迫りつつある空気感がうかがわれる戦前の政府・軍部による思想、文化活動への弾圧と昨今の日本の文化への政治的な圧力が二重重ねになっているのだ。

この二重重ねというのは観客の思考のトリガーとなるきっかけにもなっている。樋口一葉チェルフィッチュの「三月の5日間」ようなセリフ回しで「大つごもり」を演じるのはまずは口語表現への新たなアプローチの問題にかかわる共通点があるからだが、都市部の若年層の貧困をモチーフとして選んだことに岡田利規樋口一葉には共通項があると考えたからではないか。
宮崎賢治がラップを歌うのも彼が日本語の詩が韻を踏むということの意味合いを考えて続けた詩人であったからだ。
ミルクボーイの漫才の形式を模した幸徳秋水の「おかんが思い出せない○○主義」という新ネタとして入ったが、これも知的でかつ笑いもとれていたし、この手のものとしては非常に秀逸だった。幸徳秋水自身は「アナーキスト無政府主義者)」を名乗っていたと思うのだが、そういうのはどうでもよくて、こういう細かいことは打ち捨てて「共産主義」を持ってきたインパクトは正解だろう。
ペンライトの演出も健在。これはモノノフ(ももクロのファン)以外には何だか分からないかしれないが、「幕が上がる」以来のつながりを今でも大事にしてくれているのファンとしてはとても嬉しい。

原作:高橋源一郎  作・演出:平田オリザ
吉祥寺公演 2023年1月13日[金] - 1月30日[月] 
伊丹公演 2023年2月2日[木] - 2月6日[月] 
文学とは何か、人はなぜ文学を欲するのか、

人には内面というものがあるらしい。
そして、それは言葉によって表現ができるものらしい。
しかし、私たちは、まだ、その言葉を持っていない。
この舞台は、そのことに気がついてしまった明治の若者たちの蒼い恍惚と苦悩を描く青春群像劇である。

高橋源一郎氏の小説『日本文学盛衰史』を下敷きに、日本近代文学の黎明期を、抱腹絶倒のコメディタッチでわかりやすく綴った青春群像劇。初演時に大きな反響を呼び、第22回鶴屋南北戯曲賞を受賞した作品の待望の再演となる。笑いの中に「文学とは何か」「近代とは何か」「文学は青春をかけるに値するものか」といった根本的な命題が浮かび上がる、どの年代でも楽しめるエンタテイメント作品。

[上演時間:約2時間20分(予定)・途中休憩なし]

原作:『日本文学盛衰史』(講談社文庫刊)

高橋源一郎の長編小説。『群像』に1997年〜2000年にかけて連載。
日本近現代文学の文豪たちの作品や彼らの私生活に素材を取りつつ、ラップ、アダルトビデオ、伝言ダイヤル、BBSの書き込みと「祭」、たまごっち、果ては作者自らの胃カメラ写真までが登場する超絶長編小説。第13回伊藤整文学賞受賞作。

原作者:高橋源一郎

1951年広島県生まれ。作家。明治学院大学名誉教授。
1981年デビュー作、『さようなら、ギャングたち』で第4回群像新人長篇小説賞優秀作受賞。
1988年『優雅で感傷的な日本野球』で第1回三島由紀夫賞受賞。
2002年『日本文学盛衰史』で第13回伊藤整文学賞受賞。
2012年『さよならクリストファー・ロビン』で第48回谷崎潤一郎賞を受賞。
著書に『今夜はひとりぼっちかい? 日本文学盛衰史 戦後文学篇』、『これは、アレだな』、『失われたTOKIOを求めて』他多数。


©︎ igaki photo studio

吉祥寺公演伊丹公演
出演
山内健司 松田弘子 永井秀樹 小林 智 兵藤公美 島田曜蔵
能島瑞穂 知念史麻 古屋隆太 石橋亜希子 井上三奈子 大竹 直
髙橋智子 村井まどか 長野 海 村田牧子 山本裕子 海津 忠
菊池佳南 緑川史絵 佐藤 滋 串尾一輝 中藤 奨 田崎小春

スタッフ
舞台美術:杉山 至
舞台美術アシスタント:濱崎賢二 
舞台監督:武吉浩二(campana)
照明:西本 彩 三嶋聖子
音響:泉田雄太 櫻内憧海[伊丹公演]
衣裳:正金 彩
衣裳製作:中原明子
衣裳アシスタント:陳 彦君 塚本かな 原田つむぎ
演出部:原田香純 たむらみずほ
小道具:中村真生
演出助手:小原 花
宣伝美術:工藤規雄+渡辺佳奈子 太田裕子
宣伝写真:佐藤孝仁
宣伝美術スタイリスト:山口友里
制作:太田久美子 金澤 昭[吉祥寺公演] 赤刎千久子 込江 芳
制作補佐:三浦雨林
タイトルロゴ制作資料協力:公益財団法人日本近代文学館
協力:(株)アレス