下北沢通信

中西理の下北沢通信

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妊娠および出産を模倣し疑似体験する習俗を演劇化 したため「擬娩」@こまばアゴラ劇場

したため「擬娩」@こまばアゴラ劇場


したため「擬娩」@こまばアゴラ劇場を観劇。「擬娩」とは妊娠および出産を当事者でない第三者(主として夫を想定か?)が模倣し疑似体験するという習俗。ブルタニカ国際大百科事典によれば「男子産褥ともいう。妻の出産に際し,妻の産褥時にとる行動と同様のことを夫がまねる習俗。フランス語 couver (孵化する) に由来する語で,元来 E.タイラーが 1865年に著書で用いた。南アジア,インドネシアメラネシア,インド,北アメリカの平原地帯,南アメリカなどの民族の間に行われる」ともあり、本来文化人類学等の研究対象となるべき行為といえるが、和田ながらはこの演劇的行為と演劇との関連性に興味をいだき演劇作品に仕立て上げて上演した。
 非当事者である私のような男性にとっては触れてはいけないというか、実感を持って理解することが困難との思いがこの舞台を見終わっても残るため、この作品についてああだこうだと語ることに難しさを感じるのだが、それが楽しめるかというとそうは言い切れないもどかしさはあるものの作者の作品へのアプローチには共感できるところも多く、そこには現代美術の良質な作品に感じるのと類似した知的な楽しみを感じた。
 そうした作品全体の質感には作者である和田ながらの表現者としての資質があるのはもちろんだが、作品の舞台美術を現代美術家の林葵衣が手掛け、それが単にオブジェや美術として舞台上にあるというだけにとどまらず作品そのものにかかわってくることも作品の質感を決定する大きな要因となっているのではないかと思う。

演出:和田ながら 美術:林葵衣
「擬娩」とは、妻の出産前後にその夫が妊娠にまつわる行為を模倣し、時には出産の痛みさえ感じているかのようにふるまうという習俗。この、あまりに奇妙で、あまりに演劇的な習俗に倣って、妊娠・出産を経験していない俳優たちが、妊娠・出産を愚直にシミュレートする。
2019年の初演、2021年のKYOTO EXPERIMENTにおける再創作を経て、和田ながら/したための代表作が待望の東京再演。分断に取り囲まれたわたしたちに残された手立ては、想像力の再起動だ。


京都を拠点に活動する演出家・和田ながらのユニット。日常的な視力では見逃し続けてしまう厖大な細部を言葉と身体で接写する、あるいはとらえそこないつまづくさまを連ねるように作品を制作する。主な作品に、作家・多和田葉子の初期作を舞台化した『文字移植』、妊娠・出産を未経験者たちが演じる『擬娩』など。和田は2018年、こまばアゴラ演出家コンクールにて観客賞を受賞。



出演
石原菜々子(kondaba)、岸本昌也、中筋和調(うさぎの喘ギ)、三田村啓示

スタッフ
美術:林葵衣
照明:吉田一弥
音響:甲田徹 林実菜
舞台監督:北方こだち
演出助手:堀井和也
制作:渡邉裕史(ソノノチ)
フライヤーデザイン:岸本昌也
制作助手:永澤萌絵
フライヤーデザイン:岸本昌也 林葵衣
フライヤー写真:守屋友樹
芸術総監督:平田オリザ
技術協力:黒澤多生(アゴラ企画)
制作協力:蜂巣もも(アゴラ企画)