下北沢通信

中西理の下北沢通信

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人の体内描く「ヘレン」と「gesuidou」の連続上演 お寿司「ヘレンとgesuidou」@こまばアゴラ劇場

お寿司「ヘレンとgesuidou」@こまばアゴラ劇場



 お寿司「ヘレンとgesuidou」こまばアゴラ劇場を観劇。京都を本拠とするプロデュースユニットの作品である。互いにゆるやかな関連は感じられる2本の作品「ヘレン」と「gesuidou」の連続上演だが、1本目はセリフもあるもののほぼダンスというか身体パフォーマンスであり、2本目は演劇といっていいのだろう。そのためにこの集団の表現の方向性というか枠組みが私には掴みかねている。
 1本目は実は私には一番苦手なタイプの作品かもしれない。椅子を持った女性パフォーマーが次々とひとりずつ登場して椅子に座る。横一列になって今度はひとりずつ食事のメニューのようなセリフを唱え始め、ルールはよく分からないのだが、立ち上がろうとするとブザー音が鳴り、そうするとまた座りなおすようなことが繰り返される。立ってしばらくすると今度は挙手をして、合格みたいな感じになる(このあたりのルールがよく分からない)と椅子を持って上手そでへと去っていく。だんだん、人数が減っていき、しばらくすると戻ってきて、そこから踊りだしてダンスを踊りだす。
 全体としてもダンスみたいな作品と見えるのだが、そうだとするとあまりに身体所作においてあまりに素人っぱさが目立つ。もちろん、ダンススキルを見せるような類の作品ではないことは私にも分かっているし、どちらかというと「ヘタウマ」か「へたへた」を狙ったものなんだろうということも分かる。だが、これは例えば演劇の中にシーンの一部として挿入されている「ダンスが踊れない俳優も踊るダンス」というのとも違う気がするので、どうにももどかしさが勝ってしまったのだ。実は作品が始まる前に出演者のリストを目にしていた。そこで関西を代表するダンサーのひとりである福岡まな実の名前を見つけていたことも肩透かし感を感じた一因があった。一部にはダンサーとして福岡は出てこなかった。
 2部は白の完全防備された防護服の衣装を着けた二人の人物(防護服なので顔は見えない)が棒のような器具を持って床にたまっている液体の部分を撹拌するような作業をしている。こちらはこの状況が何かを示した例え話のような事例だということは分かるが、それが何なのかは分からない。二人は会話をやりとりし、スタイルはダンスやパフォーマンスというよりは普通に演劇である。実は顔は見えないもののこの二人のうちのひとりが福岡まな実だということが分かってくるが、こちらにはダンスシーンはほぼなく前編会話劇でこれが2度目の肩すかしとなる。床にある穴のなかには何かがいるということが物語の途中で次第に分かってくる。
 そして、その正体は最後まではっきりとは明かされることはないが、これは妊娠と出産をメタファーとして描いた物語ではないかというのが朧気ながら分かってくる。そう考えると最初の「ヘレン」の方は人間が食物を食べてからそれが消化されて最後は排泄されるまでの体内で起こったことをメタファー(隠喩)的に表現したものなんだろうということが何となく了解されてくるが、やはりそれだけでは「だからどうなのか」という感を否定しきれないでいる。一部の観客にはひどく受けていたから相性の問題なのだろうと思うが、私にはどうしても積極的に評価をしにくい作品だった。
 
 
 

作・演出・衣装:南野詩恵
「ヘレンと gesuidou」は、「ヘレン」と「gesuidou」2つの作品の抱き合わせです。
別けられ/別れた、混ぜられ/混ざった、対照とされ、存在するもの。
”性別”を容赦なく分断してきたもの、今でも大きく隔てるもの、
2つの分岐点/融合点は、トイレです。

第一部「ヘレン」ではトイレまでの世界を、
〜トイレ休憩を挟み〜
第二部「gesuidou」では流れた後の世界を扱います。

お寿司
2016年旗揚げ。京都府拠点の舞台芸術団体。
作・演出・衣装を南野詩恵が担当し、戯曲、衣装、対話、多方向からのアプローチを重ね、多層に散る事象を再編集する演出手法を用いて、観客と上演時間、場所を共有する舞台作品を創造する。簡単に答えの出ない事態に粘り強く関わり、共に創作する“その人”の生にある超個人的な問題や状況を突き詰めて捉え直すことで“その人”そのものを立ち上げ、社会的応答へと昇華した作品を発表する。

出演
内田賀須茂、大石英史、カトリ4*、斉藤綾子、関珠希、筒井茄奈子、野久保弥恵、福岡まな実、Yumi
東京公演につきましては、カトリ4は映像出演となります。

スタッフ
共同研究:瀧口翔
演出助手・記録と撮影:田中愛美
相談役(一部『ヘレン』):大石英
舞台監督:渡川知彦
照明:渡川知彦
音響:佐藤武
舞台美術(棒):松本成弘
宣伝美術:STUDIO TOOZA
映像:Nishi Junnosuke
制作:沢大洋

技術協力:中條玲(アゴラ企画)
制作協力:日和下駄(アゴラ企画)
芸術総監督:平田オリザ