SPAC「顕れ ~女神イニイエの涙~」@静岡芸術劇場
【演出家プロフィール】
宮城聰(みやぎ・さとし)
1959年東京生まれ。演出家。SPAC-静岡県舞台芸術センター芸術総監督。東京大学で小田島雄志・渡邊守章・日高八郎各師から演劇論を学び、90年ク・ナウカ旗揚げ。国際的な公演活動を展開し、同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出で国内外から高い評価を得る。2007年4月SPAC芸術総監督に就任。自作の上演と並行して世界各地から現代社会を鋭く切り取った作品を次々と招聘、「世界を見る窓」としての劇場づくりに力を注いでいる。14年7月アヴィニョン演劇祭から招聘された『マハーバーラタ』の成功を受け、17年『アンティゴネ』を同演劇祭のオープニング作品として法王庁中庭で上演、アジアの演劇がオープニングに選ばれたのは同演劇祭史上初めてのことであり、その作品世界は大きな反響を呼んだ。他の代表作に『王女メデイア』『ペール・ギュント』など。04年第3回朝日舞台芸術賞受賞。05年第2回アサヒビール芸術賞受賞。平成29年度(第68回)芸術選奨文部科学大臣賞(演劇部門)受賞。【作家プロフィール】
レオノーラ・ミアノ Léonora Miano
MIANO leonora, Paris, 20171973年カメルーン生まれ。1991年の留学以来フランスに在住し、フランス語で作品を発表する女性作家。2005年にアフリカ内戦の悲劇を描いた『夜の内側』を発表、その後、アフリカ3部作と呼ばれる『来たるべき日の輪郭』(2006年)『深紅の夜明け』(2009年)を発表する。2013年には、奴隷貿易の淵源を描いた『影の季節』でフェミナ賞を受賞。こうしたアフリカシリーズを通じ作家は、奴隷貿易から植民地支配を経て今日に至る大陸の歴史との関連において、現代アフリカの問題をとらえようとしている。本作『Révélation』は2015年に発表された『青の中の赤3部作』からの一篇。コリーヌ国立劇場とは
フランス国立コリーヌ劇場は、コメディ・フランセーズ、オデオン座、オペラ・コミック座、シャイヨ劇場らパリにあるフランス国立5劇場のうち最も新しく設立された劇場で、現存する劇作家の戯曲とその上演に重点を置いた現代演劇創作のための専用劇場である。
http://www.colline.fr/
アフリカ社会の分断を生んだ奴隷貿易の実態に深く切り込む戯曲を、宮城がその独特の死生観で祝祭音楽劇に紡ぎなおし、俳優たちの声と身体そして音楽が、人間の尊厳を謳いあげる。
現代作家の作品のみを上演するフランス・コリーヌ国立劇場がシーズン開幕作を日本の劇団へ委嘱する、という前代未聞のリクエストに応じ、宮城聰=SPACが新作を発表する。扱う戯曲はアフリカ・カメルーン出身、フランス在住の女性作家レオノーラ・ミアノの衝撃作。2018年9月にパリで世界初演の本作を、2019年1月に静岡芸術劇場にて上演!
作:レオノーラ・ミアノ
翻訳:平野暁人
上演台本・演出:宮城聰
音楽:棚川寛子あらすじ
生命の創造神イニイエは「ストライキ」という新たな困難に直面している。輪廻転生を繰り返す魂が、宇宙の理に反して、人間界で再び肉体に宿ることを拒否しているのだ。イニイエはさまよえる霊魂を召喚し、その原因を問う。そこには「奴隷」として代々、過酷な生を授けられた魂たちの嘆きがあった。イニイエは原因となった魂の「審き」を開始する。
キャスト
鈴木陽代、美加理、阿部一徳、本多麻紀、
寺内亜矢子、石井萠水、山本実幸、大高浩一、
永井健二、吉見亮、横山央、たきいみき、
大石宣広、加藤幸夫、牧山祐大、大道無門優也(登場順)
アフリカ出身の作家レオノーラ・ミアノが奴隷貿易の当事者、被害者に就いての歴史的出来事を基に神話的なテキストを製作、SPACの宮城聰がフランス・コリーヌ国立劇場の委嘱により演出、演劇作品に仕立て上げた。
アフリカの歴史的事実に基づく神話に基づく作品で、主役格である当地でなくなった人間のすべてをつかさどる女神イニイエ役には宮城演出おなじみの身体所作を担当するムーバーとセリフを担当するスピーカーの2人1役となっているが、ムーバーの美加理はいつもどうりの納得の存在感ではあったが、スピーカーに抜擢された鈴木陽代の「語り」がよかった。これまで美加理がムーバーのときにコンビとなるスピーカーは阿部一徳が務めることが多く、阿部ではない場合でも大高浩一ら宮城の演劇活動のきわめて初期から一緒にやってきた俳優が務めるのが通例であった。今回の鈴木のスピーカー起用はその意味で異例なことであるし、彼女もそれによくこたえて好演していたのではないかと思った。棚川寛子のよる音楽もよくて、通常のSPAC作品よりも音楽劇の要素が色濃く、演劇としても宮城らしい作品だとは思った。
アフリカの歴史についてほどんど基礎となる知識がない日本人の私にはどうもピンとこないことは否めなかった。類似の趣向の作品としてはSPAC「イナバとナバホの白兎」(2016年)があり、アメリカ原住民ナバホ族に伝わる神話について扱っていたクロード・レヴィ=ストロースの著作が原作であったが、これは比較対象として古事記の記述も取り上げており、それは私たちにとっても親しみのある内容だった。おそらく、今回取り上げた旧植民地地域であったアフリカで起こった出来事はアフリカ系移民が多数住むフランスにおいてはある程度以上にポピュラーな出来事なのだろうと推察される。
ただ、海外作品に時折感じることだが、全く自分のとって無関係な歴史や神話、しかもそれが欧州やアジアのことであれば学校教育で学んだりしているが、おそらくアフリカ史については古代の中東・北アフリカを除けば専門家以外が知る機会はほとんどないし、それだとどうしても感想も「そういうことがあったのか」程度のものにとどまることにならざるをえないのだ。