下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンスなど様々な文化的事象を批評するサイト。

ハナズメランコリー(HANAʼ S MELANCHOLY)「春のめざめ」(東京版・翻案)@渋谷ギャラリールデコ

ハナズメランコリー(HANAʼ S MELANCHOLY)「春のめざめ」(東京版・翻案)@渋谷ギャラリールデコ

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ハナズメランコリー(HANAʼ S MELANCHOLY)の「春のめざめ」はフランク・ヴェデキントの原作に沿い、1881年のドイツを舞台にした新訳バージョンと 2019年の東京に置き換え、再構成したHANA'S MELANCHOLYの完全オリジナルバージョンの2本立てで上演された。
東京版の特色は原作の舞台を直接現代の東京に移したというだけではなく、「春のめざめ」を演劇部公演として上演しようとしている高校生たちという設定を導入したことだ。このことで舞台は稽古場面が劇中劇として挿入される原作の筋立て、登場人物とそれを演じる高校生たちの人物像が二重重ねになるようなメタシアター的な構造となっている。興味深いのはそれぞれが割り当てられる配役は大体は原作のキャラクターと一対一対応するような作りになっているのだが、優等生のメルヒオール(橋岡未浪=写真右)と落第生のモリッツ(岡拓未=写真左)の主役格の二人だけは互いの性格が入れかわったような配役があえて当てられていて、これが作品に重層的な深みを与えている。
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 実は出演俳優の雰囲気が通常の小劇場劇団と比べると少し違うなというのがあって、それが何なのかよく分からなかったのだが、この日の配役を少し調べてみると、橋岡は東京芸大声楽課の出身、岡も直近でミュージカル公演で主演を務めているようだ。以前の公演でもバレエ経験者らが出演していたが、このあたりの人脈の広がりもユニークさの源泉のひとつかもしれない。キャストはオーディションで選んだようだが、これだけミュージカル俳優が多いのは劇団四季がミュージカル版を上演していたからかもしれない。
 東京版を観劇して確信したが、ハナズメランコリーの最大の魅力は漫画的リアリズムではないかと思う。そして、翻訳版「春のめざめ」では萩尾望都竹宮惠子の名前を挙げたが、東京版でまず連想したのは吉田秋生である。もちろん、吉田秋生には演劇をやる女子高生を描いた普及の名作「櫻の園」があるが、ここはそちらではなくて男の子同士の友情を描いた「夢みる頃をすぎても」「カルフォルニア物語」や「BANANA FISH」を思い起こした。今回の舞台、吉田秋生に漫画にしてもらいたいと思ったほどだ。

夢みる頃をすぎても〔小学館文庫〕 (1)

夢みる頃をすぎても〔小学館文庫〕 (1)

BANANA FISH(20) (フラワーコミックス)

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少女漫画に言及したのは当時彼女らの作品が当時「少年愛」と呼ばれていた同性愛をモチーフとしていたことで、これは現在に至って「BL(ボーイズラブ)」と呼ばれている普及しているジャンルの源流といえる。もちろん、同性愛はキリスト教的な規範に支配された19世紀末のドイツ同様に当時の日本では大きなタブー(禁忌)であり、そして、昔と比べるとLGBTなどマイノリティーの権利が求められている現代日本でもマイノリティーへの差別は大きな問題であり続けている。ハナズメランコリーはそうした背景を考慮したうえで、この作品を選び、そしてそれを作品発表当時の問題劇的な意味合いだけでなく、現代日本のエンターテインメントの文脈にも落としこんでいるのが面白い。
 漫画家ということでいえば私は最近の漫画事情にそれほど詳しくないので分からないのだが、最近、青春映画的な文脈で映像化されているようなもっと若い少女漫画作家の方がイメージが合うのかもしれない。
 ハナズメランコリーのメンバーは海外生まれで留学経験がある劇作家(一川華)や東京芸術大学の美術専攻の演出家(大舘実佐子)などアカデミックを思わせる経歴の持ち主ながら、妙にオタク系女子の好みに合いそうな大衆性(ポピュラリティー)も感じるのが魅力だ。面白い立ち位置で人気面では大化けする可能性ありだと思う。

◆スタッフ
作:一川華(HANAʼ S MELANCHOLY)
演出:大舘実佐子(HANAʼ S MELANCHOLY)
照明:松田桂一
音響:きみどり
広報美術:松島遥奈
スチール撮影:北村尚
制作:徳丸ゆいの


◆キャスト
B班​ 東京ver.

橋岡未浪 岡拓未 松下芽萌里 山川大智 都竹悠河 簑手美沙絵 本多彗 伊藤友惠 浅見臣樹 佐護舞衣

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