下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ロロ「夏も」@SNAC

【脚本・演出】 三浦直之
【出演】 板橋駿谷、亀島一徳、篠崎大悟、望月綾乃、呉城久美(悪い芝居)、小橋れな、島田桃子
【衣裳】 森本華
【宣伝美術】 玉利樹貴
【制作助手】 幡野萌
【制作】坂本もも
【協力】悪い芝居、こりっち舞台芸術、Knocks、範宙遊泳
【企画製作】ロロ【公演スケジュール】

 脚本・演出を手掛ける三浦直之に以前話を聞いた時に次回作は涼宮ハルヒの「エンドレスエイト」をやりますと言っていたので、それを少し期待して行ったのだが、どうやら途中で路線変更したようで、今回は大林宣彦の「転校生」であった。男女の身体が入れ替わっちゃう話はほかにもいろいろあるけれど、作中に「転校生」のそのまた原作である山中亘の「おれがあいつであいつがおれで」という表題がセリフとして登場するからこれは間違いないところだろう。
 「エンドレスナイト」とは直接の関係はないけれど、この「夏も」も少年少女たちの「ひと夏の物語」である。これまたロロらしくなんの説明もなく、少女の心の中に住んでいて彼女にだけ見えるらしい妖精とか、エヴァンゲリオンロンギヌスの槍のごとく物干しざお(のような棒)で貫かれて片隅に釘付けになっている男とか人間ではないキャラクターが次々と登場する。このあたりを違和感なく受容できるかどうかが、見る人によって評価が激しく分かれるこの劇団を楽しめるかどうかのひとつの境界線になりそうなのはこれまでの通り変わらない。
 ただ、この物語の場合、2人の男女が入れ替わるあたりから、うさぎ穴の落ちた後の「不思議の国のアリス」のように現実と回想場面、そして妄想(幻想)が渾然一体となって白昼夢のような混合物(アマルガム)として展開されていく。ファンタジーの要素の強い物語というのはなにもロロのようなポストゼロ年代劇団の専売特許というわけではなくて、日本の小劇場演劇ではむしろ普通のことだった時代もあるから、「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校」のようにデフォルメされているけれど普通に小学生同士の恋愛を描いているかと思ったら唐突に、宇宙人のようなキャラが出てくるというようなものよりは世代の離れた観客にも受け入れやすいかもしれない。 
 大林は「転校生」を2度映画化しているのだけれど、入れ代った後、結局片方が消えてしまうという物語の展開からして、下敷きとなったのは2007年リメイク版ではないかと思う。映画としては小林聡美らが出演したことで知られる1982年版の方が断然傑作ではあるのだけれど、幕切れのなんともいえないせつなさは2007年版が勝る。このロロの「夏も」もそれと同じような失われてしまう(しまった)ものへの哀惜の念が余韻として残ったからだ。