下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ヌトミック 『それからの街』(TPAM2020フリンジ STスポットセレクションvol.3参加作品)@横浜STSPOT

ヌトミック 『それからの街』(TPAM2020フリンジ STスポットセレクションvol.3参加作品)@横浜STSPOT

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それからの街
 ヌトミック(というか額田大志)の作品はテキストや舞台の構成に音楽的な構造を持たせるという大枠での構えは共通していても作品ごとにスタイルが大きく変容してきた。それゆえ、その舞台から青年団チェルフィッチュ維新派少年王者舘などに感じたような固有のスタイルやそのために独自に確立された演技上の技法を感じることはこれまでなかったが、この舞台での深澤しほと原田つむぎの演技にはそうして蓄積され、深まっていくかもしれないヌトミック独自の演技スタイルの規範の萌芽が感じられた。
「それからの街」の背景にあるのは東日本大震災の体験ではないかと思う。「思う」と書いたのは作品の本文中にははっきりとは書かれていないからだ。作品で描かれているのは都市近郊の団地に住む3人の若い女性で、そのうちの二人は団地の一戸をシェアして暮らしている。もうひとりは両親とその近くに暮らしていたが、近く外国(スウェーデン)に移住してしまうことになった。それは両親がここでは安心して暮らし続けていけないと考えたからだ。実は引っ越しているのは彼女だけではなく、団地からはどんどん人がいなくなっている。近所の公園のブランコは撤去されることが決まり、彼女らが住むB棟の隣のA棟も近く取り壊されることが決まった……。以上が物語の設定だ。舞台には彼女ら2人(原田つむぎ、深澤しほ)のほか海外に引っ越す友人(坂藤加菜)と彼女とバイト先が一緒の男(串尾一輝)の4人が登場する。
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 ヌトミックの発話(戯曲)の特徴は複数の発話の系列が並列に同時進行していくことだ。多くの場合は左右2列に分かれているが、写真で紹介した部分は3列(3段)になっている。
 額田はこれを音楽の楽譜に準(なぞら)えているが、実は平田オリザの段組みされた戯曲に影響を受けたことも明らかにしている。
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 実は戯曲の音楽的構造と言えば、こちらは少年王者舘天野天街による脚本だが、書式はまったく異なるが、複数のセリフ系列が同時に進行しながらところどころでシンクロするという基本的な構造には額田とも共通項がある。そして戯曲と発話の関係ということを考えていくと、こういう形式では音楽同様に勝手気儘にフレーズを歌えばずれていき、調和が取れなくなるので、発話のリズム感と調子をどのように行うのかというのは最大の重要事項となってくるわけだ。
 音楽的と感じたのにはもうひとつ理由がある。これは4人のうち原田つむぎ、次に深澤しほの演技に感じたのだが、彼女らの発話ではセリフで繰り返しがある時に強く大きな声で発話したり、小声で言ったり。一度ずつ細かく言い回しを変化させていたことだ。これが単純に感覚的なことなのか、何かはっきりした原理があるのかは定かではないのだが、それが舞台の流れにグルーヴ感を生み出すことになっていたのは間違いない*1。 
 もうひとつは、作品の中段辺りで見せた俳優らの身体所作である。冒頭辺りでは繰り返しの言い回しが多く、唱和に近かったのが、途中で会話のフェーズに入った時には現代口語演劇的なリアルさの感じられる演技に変わる。その後、ブランコの場面では今度はマイム的な約束事が抽象化されたような演技体。もっとも特徴的なのは4人とも登場して舞台の中央あたりを、中心に会話し合う場面でここはセリフを発しながら、それとは直接は結び付かない片足を浮かせて、身体を斜めに傾けたり、両手をぶらぶらしたりする。やはり、ここはチェルフィッチュのことを強く連想させるのだが、それを行う目的は違うのではないかとも感じた。
 

2020年2月7日(金)-2月11日(火・祝)


Nuthmique“The Town Thereafter” English information (click here!)
This performance is a new staging of one of the signature works of Masashi Nukata, who is both a theater director and also the leader of the 8-piece band Tokyo Shiokoji. This piece of theater is composed using the methodology of modern minimalist music to depict the daily lives of four young people in Japan living in an apartment complex. Recipient of the 2016 Aichi Arts Foundation Drama Award.

[Written and Directed] Masashi Nukata

[Cast] Kazuki Kushio (Seinendan/Group NOHARA), Kana Sakato, Tsumugi Harada(TokyoDeathlock/Nuthmique), Shiho Fukasawa(Nuthmique)

[Venue] ST Spot

[Date] 2020.2.7(Fri.) – 2.11(Tue.)

[Time]
2/7(Fri.) 20:00
2/8(Sat.) 14:00 / 19:00
2/9(Sun.) 14:00 / 19:00
2/10(Mon.) 14:00
2/11(Tue.) 12:00 / 17:00

[Running Time] approx. 70 min.

[Language] Japanese (Subtitled in English)

[Admission]
Adv General ¥3,000
Adv U-29 ¥2,700
Door General ¥3,500
Door U-29 ¥3,200
TPAM Registrant Benefit: ¥1,500 (TPAM Pass required/※Before the period of TPAM Fringe 2.7 Fri 20:00)
Please make reservation from the TPAM. https://www.tpam.or.jp/program/2020/en/?program=st-spot-selection-vol-3
In-cooperation with ST Spot Subsidized by Arts Commission Yokohama Organized by Nuthmique

[Contact] https://nuthmique.com/
nuthmique@gmail.com

Nuthmique A theater company established in Tokyo in 2016. Nuthmique’s work starts from the question, “What is performance?” With scripts and direction that incorporate Artistic Director Nukata Mashishi’s background in music, Nuthmique creates work that expands the boundaries of the performing arts. Major awards include the 2016 Aichi Arts Foundation Drama Award and the Komaba Agora Director’s Competition Grand Prize.


演出家であり、8人組バンド・東京塩麹のリーダーとしても活動する作曲家、額田大志の代表作が4年ぶりの再演。 日本の団地に住む4人の男女の日常を、現代音楽を作曲するかのようなメソッドで描いた演劇作品。 同作は2016年に「第16回AAF戯曲賞」の大賞を受賞した。


作・演出:額田大志

出演: 串尾一輝(青年団/グループ・野原)
坂藤加菜
原田つむぎ(東京デスロック/ヌトミック)
深澤しほ(ヌトミック)

日程:2020年2月7日(金)-2月11日(火・祝)
7日(金)20:00
8日(土)14:00★/19:00★
9日(日)14:00/19:00
10日(月)14:00☆
11日(火・祝)12:00/17:00
※上演時間は70分を予定。途中休憩なし
※未就学児はご入場いただけません。

★アフタートーク −終演後30分程度−
2月8日(土)
14:00開演の回 細田成嗣 (ライター / 音楽批評)
19:00開演の回 岡田智代 (振付家 / ダンサー)
登壇:ゲスト、額田大志

☆「上演後にやる」リハーサル −終演後1時間程度−
2月10日(月)14:00開演の回 終演後
演出:篠田千明(演劇作家/演出家/イベンター)
出演:額田大志、有志の観客の声

参加方法:
当日『それからの街』本編をご観劇された方はそのままお席でご参加いただけます

リハーサルのみ観覧 500円(限定10名・予約不可)
15:00 受付開始。本編が終演次第ご入場いただきます
満席の場合はお立ち見の可能性がございます

料金:
一般 3,000円
U29 2,700円
*当日券は各500円増し
TPAM参加登録者特典 1,500円(2/7は対象外)

予約:
https://ws.formzu.net/fgen/S73284667/
TPAM参加登録者はTPAMウェブサイトよりお申込みください。 https://www.tpam.or.jp/

スタッフ:
舞台監督:黒澤多生(青年団
照明:松本 永(eimatsumoto Co.Ltd.) 佐々木夕貴(eimatsumoto Co.Ltd.)
舞台美術:渡邊織音
ドラマトゥルギー:朴建雄
翻訳:クリス・グレゴリー
宣伝美術:三ッ間菖子
制作:河野 遥
協力:青年団、グループ・野原、バストリオ、東京デスロック、みんなのひろば
助成:アーツコミッション・ヨコハマ(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
提携:STスポット
企画・製作・主催:ヌトミック

ヌトミック: 2016年に東京で結成された演劇カンパニー。 「上演とは何か」という問いをベースに、音楽のバックグラウンドを用いた脚本と演出で、パフォーミングアーツの枠組みを拡張していく作品を発表している。 主宰の額田大志はこれまでに第16回AAF戯曲賞大賞、こまばアゴラ演出家コンクール2018最優秀演出家賞を受賞。

お問合せ:
[MAIL]nuthmique@gmail.com
[WEB]https://nuthmique.com/

*1:定かではないと書いたが額田の音楽の作り方を考えれば、これは一言ごとに細かな調子、高さ、間などの厳密な指定があるに違いないと考えている。