下北沢通信

中西理の下北沢通信

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横浜ダンスコレクション コンペティションI(2日目、最終日結果発表)@横浜赤レンガ倉庫

横浜ダンスコレクション コンペティションI(2日目、最終日結果発表)@横浜赤レンガ倉庫

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 今年のグランプリは横山彰乃「水溶媒音」と1日目のVon・noズの争いかなと予想していたのだが、思わぬ伏兵として2日目にラウル・エル・ラキティコ・ジュニアソン・ユンジュが現れた。
 横山作品は参加作品のうちで唯一上演を見たことがある作品でその時の舞台は2019年ダンスベストアクト*1の一本に選んだ秀作。それゆえ、以前から横山のことを高く評価していたことも合わせて期待の候補であることは間違いない。ただ、もともとの舞台は横山以外の3人の女性ダンサーによるトリオ作品と横山のソロの二本立てで、一応別作品とはいえ、横山得意の群舞が多用されたトリオと横山のソロが合わさってひとつの作品になるようなところがあった。
 横山のよさは振り付けや演出だけでなく、音楽や舞台美術も自ら手掛けトータルコーディネートできる多才さであり、このソロ作品もそうしたよさが発揮されてはいた。ペットボトルを壁に大量に吊るして、そこに仕込んだLED照明で、舞台の色調を変えていく、舞台美術・照明が非常に効果的だった。
 唯一不満を挙げるとするとダンスの動きそのものが圧倒的なインパクトを持つというところまでは行ききってなかったことかもしれない。(結果的には彼女が審査員賞を受賞)。
 それに対し伏兵に挙げた2作品は作品のコンセプトは全然理解できないのだけれど、それなのに舞台から伝わってくるいわく言いがたいインパクトを感じた。ラウル・エル・ラキティコ・ジュニア『Transacting Comfort』は男性デュオだが、パワフルなダンスが目を惹きつけた。一方で小道具として金属製の自動巻取り機能のついたメジャーを空間構成に多用していたのだが、これがチープでおかしい。明らかに変だ。作品自体のコンセプトは別にあるのだろうが、このちょっと他では見たことがないアイデア(そのために作品的にはちょっとおかしくなってしまっているバカバカしさも含めて)が気になって、目が釘付けになった。
 ソン・ユンジュ『Pillar of Mind』も韓国の伝統的なモチーフにまつわるらしいコンセプトはよく分からなくて???だったのだが、パワフルな男女デュオは勇壮さに溢れていて魅力的だった。 
 逆にリン・チュンウユの作品は巧みに作られた作品でダンスのレベルも高いけれど、モダンダンス的な動きの予定調和に既視感がある気がした。得体の知れない新奇な面白さはなかった。
 敷地理の作品は美術的なパフォーマンスに近い。フランス大使館賞を受賞したが、フランス人とは好みが違うとしかいいようがない(こういうことはこのコンペで往々にして起こる)。美術のインスタレーションとしては洗練されているが、パフォーマンスとして突出しているという風には感じることができなかった。

2.9 [sun] 15:00 ※上演順未定
リン・チュンウユ『A Pillow Song』
ラウル・エル・ラキティコ・ジュニア『Transacting Comfort』
敷地 理『happy ice-cream』
ソン・ユンジュ『Pillar of Mind』
横山彰乃『水溶媒音』

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http://p.yafjp.org/storage/documents/0/370/1550189353.pdf

審査結果
コンペティションI
審査員賞 横山彰乃
奨励賞 ラウル・ラキティコ・ジュニア Von noズ
フランス大使館賞 敷地理
キャンピング2020賞 横山彰乃
MASDANZA賞 リン・チュンウユ
シビウ国際演劇祭賞 ソン・ユンジュ

コンペティションII
最優秀新人賞 橋本ロマンス
奨励賞 山下恵実(青年団演出部)
ベストダンサー ヤマグチリオ NISHIMURA KAIYA

 審査結果は以上のようなものとなった。概して言えばコンペティションIは予想通りの結果となったが、コンペティションIIはまったく私の評価と異なる結果となった。これも毎度のことで驚きはしない。とはいえ、コンペティションIIの審査員のひとりが現時点の完成度より、将来への期待と判断基準を語っていたから、そのせいもあるかもしれない。橋本ロマンスは確かに一晩もののもう少し長い作品を見てみたいとは感じた。

*1:2019年ダンスベストアクト simokitazawa.hatenablog.com