下北沢通信

中西理の下北沢通信

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旬の10人をいま選べば(2020年版)コロナ禍の「いま」

旬の10人をいま選べば(2020年版)コロナ禍の「いま」

雑誌「Art it」の企画「旬の10人をいま選べば」に触発されて、このサイトでも「旬の10人」を選んで*1みたのが2005年のこと。それから15年の歳月がたち、10年ひと昔という言葉を援用するなら、1・5昔ということになるわけだが、再び「旬の10人」(2020年版)を選んでみることにした。
 対象は以前のものもそうだが、将来有望な気鋭の作家ということから岸田國士戯曲賞の受賞者ははずして考えている。とはいえ、逆に2005年版では選んだ10人のうち、3人がその後、岸田國士戯曲賞を受賞している。
 今回まず最初に選ぶことにしたのはキュイ(青年団演出部)綾門優季だ。若くしてせんだい短編戯曲賞を連続受賞、彼らの世代の演劇作家のトップランナーに躍り出た。劇作家として以外にもコロナ禍では吉祥寺シアターが企画した「吉祥寺からっぽの劇場祭」*2チーフ・キュレーターも務め、演劇の世界において平田オリザ岡田利規の後の世代における代表的な論客の地位を占めつつあるのではないか。
 一方、コロナ前なら才能ある若手作家のひとりというのにとどまっていたのだが、ここに来てZOOM時代劇「信長のリモート」2部作*3を配信し、リモート演劇に新風を吹き込むなど劇作家としての実力とともにその発想力、企画力に脱帽させられたのが笑の内閣高間響である。躁鬱病の療養のため帰省していた北海道の自宅からすべてネットを介してコロナ禍でかかわる舞台が中止となっていたラサール石井*4を含め、大勢の俳優を集め、稽古中も一度も会うことなくリモート稽古のみで本番に漕ぎ着けた。それはいかにも「いま」だし、そのバイタリティーには脱帽せざるをえない。
 ポストゼロ(2010)年代の演劇作家としては代表的なひとりであるロロ三浦直之もこのコロナ禍の下、一層の存在感を示した。自粛期間初期の4月中旬にビデオ電話で交流する人々を描く連作短編通話劇シリーズ ロロ『窓辺』を配信。これは連作として3回にわたったが、二人の登場人物がリモートの画面で双方向の対話をしていく中で徐々にそこには直接は描かれていないフレームの外側の世界が立ち現れてくるというものだ。これはZOOM画面というビジュアルを使ってはいるけれど、直接は描けないものを見る側の想像力を喚起することで提示するという手法はまさに「演劇の力」の活用だと思う。
 こうした手法は三浦がこれまで手掛けてきた「いつ高シリーズ」の連作でも試みられてきたことをZOOM演劇に応用したとも考えられるが、そのシリーズの最新作を今度は配信だけではなく、観客を入れてKAATで上演。これも屋上を舞台に大スタジオの広い空間を使用し、作品上演中につねに送風機による風が舞台上を吹き続けるなどコロナ対策にも配慮した作品となっていた。

simokitazawa.hatenablog.com
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*1:岡田利規チェルフィッチュ)/三浦大輔ポツドール)/前田司郎(五反田団)/明神慈(ポかリン記憶舎)/土屋亮一(シベリア少女鉄道)/山中正哉(トリのマーク)/青木秀樹クロムモリブデン)/江本純子毛皮族)/田辺茂範(ロリータ男爵)/畑澤聖悟(弘前劇場

*2:
[吉祥寺からっぽの劇場祭] Digest movie

*3:
信長のリモートから1週間 役者アフタートーク

*4:明治座志村けんの舞台を演出するはずだった。