下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

よく分からない。「パワハラ」じゃないのではないか。

よく分からない。「パワハラ」じゃないのではないか。

劇作家協会の「パワハラ」の件だが、あれが本当にパワーハラスメントに該当するものなのか。いくつか大きな疑問があり、そうではなかったのではないかと思い出している。

パワーハラスメント和製英語: power harassment)とは、職場内虐待の一つ。職場内の優位性を利用した、主に社会的な地位の強い者(政治家、会社社長、上司、役員、大学教授など)による、「自らの権力や立場を利用した嫌がらせ」のことである[1]。略称はパワハラ。当初のパワハラの定義は、社会的な強者による「権力や立場を利用した嫌がらせ」のことであったが、パワハラの用途が変化しており、より広義な意味では「地位や権力」などに必ずしも対応したものではなく、上司などからのいじめに近い概念としての理解に変わってきた。
加害者は暴力を振るえば「傷害罪」や「暴行罪」、精神的に攻撃をすれば「名誉毀損」や「侮辱罪」に問われる可能性もある。民法不法行為労働基準法違反も成立することがある。加害者を雇用している企業がパワーハラスメントを放置した場合、職場環境調整義務違反に問われ、加害者やその上司への懲戒処分などが求められる。加害者に自覚がなく指導と思いこんでいるケースが多く、対処法としては、記録を残し、行政機関など外部への告発が有効とされる。

以上がウィキペディアにおけるパワーハラスメントの定義である。素人なので法律に詳しい人がいれば教えてほしい*1が、果たして劇作家協会のワークショップにおけるそれがパワハラの定義に当てはまるものなのか。上記の定義にあるように職場ないし場合によって学校なども当てはまる*2とは思うが、劇作家協会のWSでのそれがパワハラに認定されるものなのかどうか。被害者が被害を訴えるだけでパワハラが成立すると考えている人がいるようだが、そうではなく職場内でのあるいは組織内での優位性を利用した嫌がらせのこととされていて、立場の下の人間がそれを避けることはできにくい場合のことをいうのではないか。例えば企業への問い合わせの電話や接客において不愉快な経験をしたとしてもそれは企業や店へのクレーム案件であってパワハラではないだろう。WSはどうだろう。WSの生徒と講師は同じ組織の人間ではないし、WSはサービスの一形態だから気に入らなければいつでも離脱することができる。その意味で社会的な地位の強い者(政治家、会社社長、上司、役員、大学教授など)による、「自らの権力や立場を利用した嫌がらせ」とはいえないのではないか。もちろん、その過程で講師側に生徒に対し非礼と思わせるような言動があったあれば人としてその旨を謝罪するのは当然だが、だからと言ってそれでパワハラを認めたとはいえないはずだ。だから、谷も認めているからパワハラがあったことは大前提だとはいえないはず。

 谷氏は「劇作家協会からは今回の件は私の抗議を受けて10日近く議論した末、ハラスメントとは判定も裁定もしないと(中略)メールで通達を受けた。ハラスメント案件ではない」と主張している。これが正しいのなら劇作家協会による組織としての公式なパワハラ認定はなかった、つまり「パワハラはなかった」ことになる。そうであるのに劇作家協会の一部理事(主として瀬戸山美咲氏、あと付随して長田育恵氏)が「ハラスメントがあった」ということを前提とした発言を再三行ったのは明らかに谷氏の名誉を棄損しているのではないか。なかんずく谷氏の事案についての説明について「二次被害を招く、つまりセカンドハラスメントだ」と決めつけている。そしてそれを前提として無関係の第三者二次被害を起こすからこの問題のことをあれこれ書くなというような言説も生まれている*3。上記の前提を持ってすれば谷氏と被害者とされる人物のやりとりのなかで「受講者に対して高圧的な態度で接し、受講者の尊厳を傷つける場面があった」としても、それを持ってパワハラという概念の要件を勘案せずに勝手にパワハラと断ずるのはどうかと思う。そもそも、パワハラの認定は本来、法的な根拠に基づいて専門家によってされなければならないはずだが、理事会による会議というのがそういう手順を踏んで正当に行われたのかというと到底そうは思えないのだ。一部の理事が「許せない」という感情にまかせて暴走したということはなかったのか。第三者委員会が入るなら谷と被害者とのやりとりだけでなく、その後の劇作家協会の理事会でのやりとりも綿密に検証する必要があると思う。
 Xと呼称されている被害者が自分の受けた被害について怒りとともに訴えたことには問題はない。そのことにおいてXは正当な主張をしている。ただ、そのことと劇作家協会がそれをパワハラだと認定として、谷の状況説明を「認知の歪み」があり、「二次被害を生むから発言をやめろ」と圧力をかけるのは話が違う。これは明らかに谷への棄損行為だ。パワハラ加害者のレッテルを張られることで谷の受ける損害は計り知れない。
 いろいろ考えてみると今回の問題の本質はそこにあるような気がしてきた。もちろん、谷の行為が第三者の判断によってパワハラだと認定される可能性は完全に否定はできない。ただ、これまで書いてきた根拠から法的な要件を満たしてパワハラと認定される可能性はあまりないんじゃないかと思えてきた。そして、その場合、劇作家協会は当然谷への謝罪にとどまらず谷を不当に誹謗したという理由で当該の理事に対し、処分をすることも必要ではないか。
 そもそも劇作家協会には顧問弁護士もいたはずだが、法的顧問として今回のパワハラを認定しているのだろうか?劇作家協会は第三者委員会の結果を待たずに一部理事の主張が劇作家協会の総意なのかどうかをできるだけ早く表明すべきであろう。その場合、パワハラではないという連絡を受けたという谷氏の発言が虚偽なのかどうか事実関係も明らかにすべきだろう。

下記のリンクは笑の内閣の高間響氏の劇作家協会で起こった一連の事態への見解。これも興味深い論点を含んでいると思う。
www.facebook.com

 X氏が閉じられた自分が責任を持つ場でそのような主張をするのであれば、まだ表現の自由の範疇ではあるが、劇作家協会主催のワークショップ中にそのような内容の発言がなされたというのは、非常に問題である。そこは開かれた場所であり、実際にネットで配信もされていたのだ。
 「江戸しぐさがあった」なんつっても下らないことではあるが、「福島で健康被害があった」という福島差別は、多くの福島の人を傷つける明確な差別発言である。それを(しかも戯曲を読むワークショップで必要な事ですらない)参加者相手とはいえ、即座に止められなかったというのは、運営者でありながら、人権侵害を止められなかったというとてもまずい対応である

 高間氏は今回の劇作家協会の対応についてX氏の被害に対して対応したことには評価するが、X氏がワークショップ中で「福島で健康被害があった」という福島差別の発言をしたとすれば「運営者でありながら、人権侵害を止められなかったというまずい対応である」としている。私もいぶかしく思っているのはこの福島についての言説は両論並び立つようなものではない。谷氏に行き過ぎはあったかもしれないが、根拠としてのデータのない話はしないでほしいと伝えた中でこの問題が起こったことも確かだ。ここで出てくるのは劇作家協会の内部にX氏のこの問題についての見解に同調しているものがいるのではないかという疑いである。そういうことがなければいいが、もしその人もワークショップで述べた谷氏の見解に異論があり、そのことがハラスメント認定の判断にバイアスがかかっている可能性はあるのではないかということだ。私がこの問題は「福島問題」が根底にあると考えていると以前から再三書いたのはそういうことだ。もし劇作家協会があくまで谷氏をハラスメント(的な行為)で追及するというのであればそれとは別の問題として、X氏による人権侵害を止められなかったということで、他の参加者に対して謝罪すべきではないか。そういうことはX氏へのセカンドレイプになるからできないという類のことではないと思う。パワハラ問題とセカンドハラスメントを強調する論者ほどこちらの問題をパワハラと比べると些細なことと主張するきらいがあるようだが、X氏の発言に対して憤慨しているワークショップ参加者も複数いるようで、そのひとりは私のブログに以下のようなコメントもくれた。

WS中に参加者の女性が酷い差別的発言をしたのですが、なぜか咎めた谷氏がパワハラと言われたり、劇作家協会が谷氏を守らずに謝罪した事に怒りが収まりませんでした。福島出身の私も深く傷つきましたので、女性を叱ってくれた講師には感謝しております。

X氏が被害者であろうがWS運営管理者の劇作家協会として放置していい問題ではないはずだ。

*1:法律の専門家の人で法的に見て私の考えがまったく間違っている場合にはコメントがほしい。すぐに考えを修正するから。

*2:その点を勘案すると地点の三浦基の件や早稲田大学で起こった事案はパワハラであることは明確だと思う。

*3:その人にはその人なりの正義はあるのだろうが、ここまで書いてきた理由から私は削除の要求などにいっさい従うつもりはない。