下北沢通信

中西理の下北沢通信

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夏菜子支える本広、宗本、ANNAと岡田美音の存在。百田夏菜子ソロコンサート「Talk With Me ~シンデレラタイム~」(2日目)@さいたまスーパーアリーナ(渋谷HUMAX=LV)

百田夏菜子ソロコンサート「Talk With Me ~シンデレラタイム~」(2日目)@さいたまスーパーアリーナ(渋谷HUMAX=LV)

2日目は渋谷HUMAXのLV(ライブ・ビューイング)で鑑賞。前日の現地観覧では分からなかった演出的工夫がここでは分かった。演出の本広克行は映画監督だから、この日のLV中継やあるいはこの日の収録映像を基に再編集して制作するであろう映像版「Talk With Me ~シンデレラタイム~」のことも頭にあっての今回の演出なのだろうということがはっきりしたのも今回のLVの収穫だ。
前日の現地ではセンターステージのサイドのスタンドから見たので分からなかったのだが、この日の映像を見て分かったのは映像は左右のカメラから巨大モニターを背景にして夏菜子を抜いた映像が多用されていて、こういうアングルだとまるでCG合成のように背景に見える映像の世界の中に夏菜子が存在しているように見える。さらにサイドのスタンドからは夏菜子のパフォーマンスに集中すると左右の映像は同時には完全には把握しずらかったのだが、いつも左右ともに同じ映像が映されているわけではなく、違っていることもあった。その意味合いは会場では分からなかったが、左右の撮影カメラをスイッチングすることで、カットによってまるで違う場面のような効果を持たせることもしていたのだ。
 終了後、ZOOM感想戦をやって際には知人からは「さいたまスーパーアリーナのような大規模会場でのライブでは現地の人を重視すべきで、現地では分からない演出はだめで、これは本広監督のライブ演出への不慣れから起こったことだ」の意見もあったが、私の見地からすればライブもパフォーミングアートであればどこの客席であっても全貌が見えないのが前提であり、それも含めてのライブだと思うので、こういう演出もありだと思っている。先の意見はテレビ関係の仕事をしている人の意見なので、分かりやすいということにプライオリティーは置かれている意見で、こういう意見はあっていいと思うが、私の好みからすればもっとももクロライブでは「5TH DIMENTION」のライブ(映像でしか見ていない)のようにむしろ情報過多のようなものの方が好みなので、今回のライブは分かりやすすぎるのが欠点と思っている*1
 映像の使用はあったが、ライブ自体はバンドの生演奏(おそらくアレンジは宗本康兵)と二人のダンサーとの共演(振付はANNA、出演も)との共同制作であり、演出の本広も含めてこの組み合わせは明治座の舞台を制作するはずだった組み合わせで、夏菜子の意向も汲んでのことだろう。ももクロの最大の強みはももクロと近しいところにこういうトップレベルの表現者を持っていること。それも実は複数の集団がそこには絡んでいる。ソロコンだけを取ってみても佐々木彩夏のソロコンは佐々木彩夏の総合演出のもとに現地指揮を佐々木敦規が担当。音楽監督ダウンタウンももクロバンド’(DMB)のギターを担当する佐藤大剛がアレンジなど音楽的なところを監修しており、高城れにのソロコンにはその時のライブの音楽性に合わせて毎回異なるメンバーでのバンドも構成されている。そのため、今回のバンドに佐藤がいないのは(スケジュールの関係だとは思うけれど)それぞれのバンドメンバーを重ならないように意識しているということもあるかもしれないと思っている*2
夏菜子の場合は自身が作詞したソロ曲「それぞれのミライ」「ひかり」の2曲の作曲を担当し、ピアノの先生的役割も果たしたと思われる岡田美音の存在も大きいのではないか。今回のピアノ演奏のアレンジを岡田が担当したか、宗本が担当したのかははっきりとは分からないのだが、宗本には各ブロックをつなぐ楽曲をすべて作曲したほか、バンドのアレンジ、Overtureのピアノ独奏という難題もこなしているので、ピアノブロックの夏菜子へのピアノのアレンジ、演奏指導は岡田がした可能性が強いと思っているのだが、どうだったのだろうか?
ANNAの出演・振付によるダンスもよかった。ダンサーはANNA自身も含めて二人が登場したが、ANNAが米国のショー的な要素の強いビート感のあるダンスを踊るのに対して、もうひとりのダンサーがおそらくバレエ経験者でバレエテクニック的なものが得意とする人だったことも振付のバリエーションを多彩にすることにつながっているのではないかと思う。もっとも印象的だったのは「リバイバル」のダンスでここでのANNAを見ているとアメフラっシのメンバーがまだ子供の時から手塩にかけて育ててきたんだというのがよく分かる。ももクロとも最近一緒に仕事することが増えているが、ここでデュオのユニゾンで踊る夏菜子を見ていると動きの切れ味が鋭く、石川ゆみがクリエートしてきたももクロのダンスとは一線を画した振付家としての持ち味が彼女にはあることも分かる。

百田夏菜子ソロコンサート「Talk With Me ~シンデレラタイム~」セットリスト

M1 魂のたべもの
M2 D’の純情
M3 キミノアト
M4 太陽とえくぼ
M5 愛、おぼえていますか(飯島真理
M6 それぞれのミライ
M7 夢の浮世に咲いてみな
M8 リバイバル(ANNA先生とダンスデュオ)
M9 強がり(戸田恵子
M10 The Show
M11 赤い幻夜
M12 タキシード・ミラージュ
M13 ひかり(百田夏菜子作詞、新曲)
M14 白金の夜明け
アンコール
overture(宗本康兵によるピアノ独奏)
M15 イマジネーション(宗本康兵によるピアノ独奏のみの伴奏)
M16 わかっているのに(新曲)
M17 渚のラララ
エンディング(映像)
2021年10月16日(土)・17日(日)
さいたまスーパーアリーナ
2 DAYS


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*1:映画でもテレビドラマでも最近は分かりやすいことが前提のようなので、そこが好みでない私は演劇やダンスのような単純に言葉では説明でいないジャンルが好きなのかもしれない。だから、演劇でもベタに感じるものは苦手。本広演出の舞台では最初に上演された「転校生」が生の舞台とその場で映された映像を複雑に組み合わせてて好みであり、ああいうものを期待しているところがあったかもしれない。

*2:ちなみに有安杏果のソロコンもオリジナルメンバーで構成されており、一部は独立後の現在までつながっている。