下北沢通信

中西理の下北沢通信

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【演劇批評としての玉井詩織ソロコンレポート】玉井詩織ソロコンサート🤍 「Maison de Poupée」@日本武道館

玉井詩織ソロコンサート🤍 「Maison de Poupée」@日本武道館


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―30th Anniversary―SHIORI TAMAI SOLO CONCERT「Maison de Poupée」
玉井詩織ソロコンサート🤍 「Maison de Poupée」@日本武道館を見た。玉井詩織のソロコンには第一回のライブとしての完成度の高さから注目はしていたのだが、正直にいうと会場が日本武道館だということを知り、まだソロライブをそういうところでやれるんだということに一種の安心感を持つとともにあれ以上のクオリティーのライブが続けてできるものなのだろうかという若干の危惧も覚えていた。
そうした疑念が一気に吹き飛んで期待感が広がったのは音楽監督武部聡志と一緒に演出にウォーリー木下*1の名前を見つけた時であった。これまでももクロは数多くのライブを多くの演出家と手掛けてきたが、その多くは本広克行佐々木敦規ら映画監督や映像作家、テレビプロデューサーであった。「幕が上がる」の平田オリザら演劇作家がプロジェクトに参加することは珍しくなかったが、それは原作や脚本担当としてであり、演劇の演出家がライブ演出を担ったことはなかった。
 その一方で高校演劇をモチーフにした映画「幕が上がる」*2、オリジナルミュージカル「ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?」*3明治座の舞台など演劇との親和性は極めて高く、過去には「5TH DIMENSION」、『MOMOIRO CLOVER Z』SHOW at東京キネマ倶楽部など演劇的な要素の極めて強いライブも開催しており、個人的にはこの二つは過去のライブすべての中でも傑出した出来栄えだと考えている。
 一方、ウォーリー木下は関西に本拠を持つ劇団☆世界一団(後にsundayと改名)時代からその作品を見ていた演出家であり、平田オリザや鈴木聡志、高城れにの舞台を作ったロロの三浦直之のように作家性の強いタイプの演劇作家とはいえないが、ウォーリーの最近の代表作である「ギア-GEAR-」の映像*4を参照していただくと分かりやすいが、エンタメ性の高いショーの作り手としてはきわめて優秀だと考えていたからだ。
 では実際のライブはどうであったか。玉井詩織ソロコンサート🤍 「Maison de Poupée」はいわゆるライブというよりは演劇的な設定と構成を持つシアトリカルライブ、ミュージカルコンサートとでも称したくなるものだが、いかにもウォーリーらしいポップな魅力に溢れた舞台であり、そのなかで女優、玉井詩織は見事な輝きを見せてくれていた。
 「Maison de Poupée」とは6人の女性(AMI、SIHO、HIROMI、TIRI、MAI、RIO)が住むドールハウスで、舞台では玉井自身により、それぞれ玉井の分身といってもいい女性を歌にのせて次々と演じ分けていく*5

 実はこうしたファンタジックな空気感のある舞台は佐々木彩夏(あーりん)の得意とするところで、雰囲気の似た部分もあるのだが、大きな違いはあーりんの舞台は登場するのが何であっても(怪盗あーりんでもアーヤカ姫でも)あくまでキャラクターとしてのあーりんであるのに対し、今回の舞台の女優、玉井詩織はセリフやしぐさのみならず、歌もそれぞれの役柄に合わせて演じ分けていることだ。ここの演技の部分などには演劇の演出家であるウォーリー木下のかなり細かい演出が入っているのではないかとも感じたが、それに見事に対応している玉井からも舞台女優としての確かな実力を感じた。さらにいえば舞台での立ち姿からして目が惹かれる、いわゆる華があるのを何度も感じた。かつて、平田オリザももクロのメンバーのうち舞台女優としての才能を一番感じるのが玉井であると発言したが、さすがの眼力だったあらためて感心させられた*6
 実は気になったのは今回の舞台の振り付けはだれがやったのかということ。ももクロ関係の振り付けは現在はANNA先生が手掛けることが多い。彼女は手数が多いのが魅力で、ミュージカルもできるのではないかと以前から感じていたのでそうかもしれないが、舞台を見ての印象ではだれかウォーリー木下の関係の近しいだれか*7の手が入っていたのではないかとの感じもあったからだ*8
 ミュージカルコメディー的な舞台としてはとても完成度の高かった今回の舞台だが、実は玉井詩織としてもももクロとしても到達点はここではないとの気持ちを改めて感じたのも確かだ。
simokitazawa.hatenablog.com

 それは演劇評論家として私がウォーリー木下の舞台に向かい合った時にも感じられたのだが、それはももクロにはやはり唯一無二の作家性を持つ演出家といつか舞台をやってほしいという願望である。以前の論考でナイロン100℃KERA劇団☆新感線いのうえひでのりの名前を挙げたがさらに二人を付け加えたくなった。それは上海太郎西田シャトナーである。上海太郎*9は元そこばこまち座長で壮大なる構想のダンスパントマイム作品を得意とする演出家、西田シャトナーは伝説的な劇団、惑星ピスタチオ*10の作演出であり、近年は舞台版「弱虫ペダル」の演出も担当、同じく神戸大学出身のウォーリー木下の兄貴分的存在でもある。

2025年5月6日(火・休)
会場:日本武道館
特設サイト:https://www.momoclo.net/poupee

▼セットリスト
M1. Maison de Poupée
M2. 日常
M3. 宝石
M4. Eyes on me
M5. 手紙
M6. ベルベットの森
M7. まわるきもち
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M8. HAPPY-END
M9. 君に100個言いたいことがあんだ
M10. 追憶のファンファーレ
M11. Sepia
M12. Brand New Day
M13. momo
M14. Spicy Girl
M15. スローモーション
M16. マリンブルー
M17. Another World
M18. We Stand Alone
M19. 暁
<ENCORE>
M20. 涙目のアリス
M21. 泣くな向日葵
<W ENCORE>
M22. オレンジノート

▼セトリプレイリスト
https://shiori.lnk.to/30thAnniv

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:simokitazawa.hatenablog.com

*3:simokitazawa.hatenablog.com

*4:
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*5:それぞれの人物名は舞台下手側に据え付けられたモニターに表示されるが、これらがすべてTAMAI SHIORIから採ったアルファベットの組み合わせであることから、玉井詩織の分身的な人物であることが暗示される。

*6:私個人の見解ではメンバーそれぞれに才能はあるが、その方向性が違うと考えている。役になりきってしまう憑依型の才能では百田夏菜子、優れた感覚を持つ繊細な演出家に細かな指示を与えられるとそれを体現できるのが高城れに、周囲を圧倒するスターの輝きを持つのがあーりんだが、どんな役でもそれはあーりんでしかない。

*7:いいむろなおきの可能性も少しだけある。

*8:振り付けはAOIとNaoのふたりで、調べてみるとAOI=松尾葵はsunday時代からのウォーリー木下の知人で一緒に仕事をしてきたことは分かった。Naoはいまのところ不明だが、ANNA先生周辺で名前を見たことがあるような…

*9:simokitazawa.hatenablog.com

*10:simokitazawa.hatenablog.com