下北沢通信

中西理の下北沢通信

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ネタバレあり)メンバーの意思感じた有安杏果の映像多用された15周年回顧 ハモりなど新たな刺激的挑戦も MOMOIRO CLOVER Z 15th Anniversary Tour「QUEEN OF STAGE」@武蔵野の森総合スポーツプラザ

MOMOIRO CLOVER Z 15th Anniversary Tour「QUEEN OF STAGE」@武蔵野の森総合スポーツプラザ


プロデューサー役の川上アキラや演出家の佐々木敦規の手を借りず、ももクロのメンバー自身による初めてのセルフプロデュースによるライブツアーがMOMOIRO CLOVER Z 15th Anniversary Tour「QUEEN OF STAGE」である。それゆえ、演出面で今までとは違うどんな新機軸を見せてくれるのかと見に出かけたのだが、後半にこの15周年をそれまでの代表的な楽曲のMVやライブ映像とともに振り返るという演出があり、そこにこそメンバーの強い意志を感じた。これまで、ももクロのライブやテレビ番組では卒業したメンバーの有安杏果の映像をあたかも昔からいなかったかのようにきれいに切り取って見せるということが続いていた。ところが、今回のライブでは15周年の回顧で使用された映像でこれまでも時折はあった映りこんでしまっているようなものではなく、彼女をメインとした歌唱シーンなど完全にはっきりと有安が誰の目にもはっきりと分かる映像が使用されており、さらに過去のライブ映像とともに歌われた「行くぜっ! 怪盗少女」では国立競技場や会場全体が緑のサイリウムで満たされた杏果の卒業ライブの映像も使われていたからだ。
 ももクロ陣営とそこから離脱した有安杏果の関係性は5年を経過した現在もテレビ番組などで当時の映像から有安杏果の存在がまるでいなかったかのように消し去られていることが普通になっていて*1、それが「杏果いじめられていた説」「杏果がメンバーを裏切った」など根拠のないネガティブな印象の温床となっていることもあり、以前から強い不満を抱いていた。実は今回のツアーの前に行われる前の「代々木無限大記念日 ももいろクローバーZ 15th Anniversary」ライブ当日に有安杏果側から設立15周年を祝うツイッターのメッセージが発表されたことがあり、ライブ中で言葉として発言されることこそなかったが今回の映像使用は明らかにももクロサイドからのそれに対するリアクションだと考えることができるからだ。具体的にテレビや各媒体での扱いがどう変わるのか、あるいは変わらないのかは今後しばらく推移を見守ってみないと分からないが、劇的な変化はなくても互いにそれぞれのことを言及することができるような「雪解け」の方向に向かって最初の一歩が踏み出されたことは間違いないだろう*2
 それでは実際のライブの内容はどうだったか。興味深かったのはバレンタインイベントなど本格的なライブではDOME TREK以来にそれぞれのソロ曲が歌われたということ。しかも、それぞれ選ばれた楽曲が 「Another World/玉井詩織」「じゃないほう/高城れに」 「赤い幻夜百田夏菜子」とそれぞれの個人での活動を象徴し、今だからこそ歌えるようなラインナップが選ばれたこと。そして、あーりんはあーりん三部作メドレー/佐々木彩夏(だってあーりん なんだもーん☆→あーりんは反抗期!→あーりんはあーりん♡)をMIXした新アレンジで歌ったこと。確認はしていないが、これは今回新曲「MONONOFU NIPPON」の書下ろしをヒャダインに依頼するに際して同時にお願いしたのは間違いないと思っている。
 ライブ中盤では「バイバイでさようなら」「Guns N' Diamond」「PLAY!」と素晴らしい楽曲ではあるがそれぞれの曲のイメージが強すぎて、今までのももクロの三大コンセプトライブでは出しどころが難しかったものを映像演出と組み合わせて、ひとつのブロックとして持ってきたのが非常に秀逸だった。
 「HAND」「リバイバル」などでのユニゾンではなく、ハモリを多用した新アレンジへの挑戦も刺激的だった。特に「リバイバル」はあまり歌われていないが私は好きな曲で、現在はまだ若干ピッチが不安定な部分も見受けられたものの、10月にはどんな風に仕上がっているのかが非常に楽しみなのである。
 コンセプトとして「15周年の記念」という以上のものが明確に打ち出されていたわけではないが、選ばれた楽曲の一連の流れと新曲「MONONOFU NIPPON」の歌詞に託されたメッセージから考えるとこのライブのメインテーマは「コロナ禍に負けず、そこからの再生と復活を目指す」という宣言ではないかと思った。 「バイバイでさようなら」「Guns N' Diamond」「天国のでたらめ」「GOUNN」など死のイメージを喚起するような楽曲がかなり多く含まれている一方で「PUSH」「ゴリラパンチ」「リバイバル」など「倒れても負けない」をテーマにしたある意味ももクロらしい楽曲群が配され、その中に「MONONOFU NIPPON」がある。そして、ここからはうがちすぎと言われても仕方ないが、「15周年スペシャルメドレー」で杏果の映像を使ったもうひとつの意味として、映像と歌で綴られていくももクロの歴史に映像が砂嵐になりかなり長く中断された時があり、それが2018年の時だったということがある。
このことはこれまでことさらに取り上げられることはなかったが、杏果の離脱が引き金になってももクロ存続の危機がこの時にあったということをひそかに象徴されている年表ではないだろうか。そして、それを乗り越え、さらにコロナ禍も乗り越え、現時点(2023年8月)からも時のカウントがまだまだ続いてカウントされていくという演出には「死と再生」そして「ももクロは続いていく」という力強いメッセージが託されていると感じたのだ。
 ライブの方向性自体はももクロのセルフプロデュースだとしてもこれだけのいろんな要素をまとめるにはそれなりの総合演出がいるはずだと考えていたら嵐のライブの総合演出、振り付けを手掛けていた梨本威温という人がそうだったことが分かった。メンバーがライブ演出に関して嵐を意識しているのは自明の事実だが、本家の人が引き受けてくれるのが分かった時にはさぞ嬉しかったと思う。「ももクロちゃんと!」とかにゲストで呼んで、ももクロメンバーとの対談をやってくれないだろうか。
realsound.jp

出演:ももいろクローバーZ百田夏菜子玉井詩織佐々木彩夏高城れに

オープニング
01 走れ! -ZZ ver.-
02 DNA狂詩曲
03 PUSH
04 笑一笑 〜シャオイーシャオ!〜
MC
05 Another World/玉井詩織
06 じゃないほう/高城れに
07 バイバイでさようなら
08 Guns N' Diamond
09 PLAY!
10 ゴリラパンチ
11 Nightmare Before Catharsis
MC
12 Re:volution
MC:自己紹介
13 HAND
14 リバイバル
15 あーりん三部作メドレー/佐々木彩夏
 (だってあーりん なんだもーん☆
 →あーりんは反抗期!
 →あーりんはあーりん♡)
16 赤い幻夜百田夏菜子
17 天国のでたらめ
18 GOUNN
19 MONONOFU NIPPON
MC
20 15周年スペシャルメドレー
 (2023:いちごいちえ
 →2009:ももいろパンチ
 →2010:ピンキージョーンズ
 →2011:Z伝説 〜終わりなき革命〜
 →2012:サラバ、愛しき悲しみたちよ
 →2013:灰とダイヤモンド
 →2014:MOON PRIDE
 →2015:夢の浮世に咲いてみな
 →2016:ザ・ゴールデン・ヒストリー
 →2017:BLAST!
 →2018:クローバーとダイヤモンド
 →2019:The Diamond Four
 →2021:月色Chainon
 →2022:一味同心
 →2023:いちごいちえ)
MC
21 行くぜっ!怪盗少女 -ZZ ver.-
【アンコール】
ー overture 〜ももいろクローバーZ参上!!~
22 DECORATION
MC
23 吼えろ
MC

*1:今回のことと関係があるかどうかは不明だが、ももクロが出演した「あちこちオードリー」(テレビ東京)では珍しく有安が出演した番組の場面が確信犯的にしっかりと使われていた。

*2:simokitazawa.hatenablog.com