げんこつ団30周年公演『ファクト・リ』@駅前劇場
5年前の25周年記念の公演「四半世紀の大失態」*1でこんな風な感想を書いた。
「四半世紀の大失態」は表題通りにげんこつ団の25周年記念公演である。一言で25周年というが、これはある意味驚くべき事だ。「純度の高い笑いだけを追求し続けるのは難しい。関西の雄、ベトナムからの笑い声が活動を休止したいま、なんの意味もなくただ笑いだけを追い求めるげんこつ団の存在は一服の清涼剤といっていい」と書いたのは何年前のことだろうか? ましてやげんこつ団は女性だけをメンバーとしている。作演出以外の旗揚げメンバーはすべて入れ替わり劇団が継続する例はあるがこの劇団は脚本・映像・音響・演出の一十口裏、振付・演出の植木早苗ら中心メンバーが健在であり、こうした形で25年続けてきたというのは稀有な例であろう。
ここにそのまま引用することにしたのは「四半世紀の大失態」を「ファクト・リ」、「25周年」「25年」をそれぞれ「30周年」「30年」と差し替えればそのまま今回の公演にも当てはまる。さらに「四半世紀の大失態」のレビューでは続いてこんなことも書いたが、これもそのまま現在のげんこつ団にもそのまま該当する。
内容はもちろん公演ごとに変わるが、形式は内容によって変わることはない。冒頭の映像の後で本編がはじまるが、それは大抵会社のオフィスであったり、家族のいる茶の間であったりする。そこでは芝居ごとにそこで起こっている状況に合わせて突然おかしなことが起こり、それが次々と連鎖していくが、その途中でニュースの映像が挿入され、いま何が進行中なのかが解説される。
笑いとしてはそのシチュエーションのラジカルさやシュールさに真骨頂がある。先ほど挙げた笑いの劇団にはモンティ・パイソンに強い影響を受けたところが多いのだが、全体の構成や映像の使い方といい、ネタが持つ政治的な揶揄といいげんこつ団はもっとも正統的にそれを受け継いだスタイルといっていいだろう。
ただ、その一方で実際に笑いにつながる部分には女性が背広姿、場合によっては禿げづらを着けてサラリーマンや親父を演じる馬鹿馬鹿しさもあり、それはもっと単純におかしい。女性版のザ・ドリフターズといってもいいかもしれない。
それはある意味マンネリズムともいえるかもしれず、猫ニャーの極端なラジカリズムと比較すると物足りなく思った時期もあったが、この分かりやすいエンタメ性が長続きした理由なのかもしれない。
「ファクト・リ」では即席めん(カップめん)を製造している工場が大爆発を起こして吹っ飛んでしまった冒頭からスタートする。普通に考えるとその爆発原因を探すという展開になりそうだが、げんこつ団ではそうはならない。爆発して吹き飛んだらしい従業員の身体の一部(○○さんの膝頭とか)が人格を持った存在として登場したり、部長は全ての原因は私にあるといいながら、肝心の理由は話そうとしない。事故の原因を突き止めるとして現れる会社側の人間がなぜか丹頂鶴で、空に飛んでいってしまったり、次々と正体不明のキャラが入れ代わり立ち代わり現れては消えていく。事故原因の究明など本来は本筋と思われる物語は進まずに脱線に脱線を重ねる。最近の若いせっかちな観客が「意味が分かりません。要するにどういうことですか?」などと聴いたとしてもそこへの答えはない。それが30年前からシーラカンスのように進化することなく続いているとするならば、げんこつ団はもはや現代には不要な「過去の遺物」なのかもしれない。物語の最後に30年前に竜宮城に行ったまま姿を消していたのが、現代に帰ってきたもはや不要の長物となった「かつての政府の人たち」が登場するのだが、これがげんこつ団の戯画化された自画像になるのかもしれない。
それでも30年間変わらぬ姿を見せてくれていることは嬉しい。旗揚げ公演近くから見続けてきた人間としては年に1回程度の恒例行事、クリスマスや正月のようなものなのだ。げんこつ団公演を今後も可能な限り継続してほしいと思う。今回は30周年記念を祝って池谷のぶえ(ex猫ニャー)、千葉雅子(猫のホテル)、新井友香、澤田育子ら同世代の女性演劇人や過去にげんこつ団に出演した俳優らが映像出演して、エールを送っており、それも懐かしかった。
脚本・演出・映像◇一十口 裏
出演◇植木早苗 春原久子 河野美菜
池田玲子 三明真実 丹野 薫
三枝 翠 天笠有紀 藤岡悠芙子
映像出演協力(敬称略)◇池谷のぶえ 千葉雅子(猫のホテル) 新井友香(劇団宝船)
澤田育子(拙者ムニエル|good morning N°5〉
藤田記子(カムカムミニキーナ|good morning N°5)
舘智子(タテヨコ企画)遠藤弘章(東京タンバリン)菊川朝子(Hula-Hooper)
秋月三佳 伊藤美穂 工藤史子 川端さくら(乙女装置)辻崇雅(10・Quatre)
しじみ 大場靖子 武輪加奈子 久保田琴乃 中山裕康 古川万城子 加島愛▼公演特設サイト▼
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