下北沢通信

中西理の下北沢通信

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青年団第94回公演「ソウル市民」(2回目)@こまばアゴラ劇場

青年団第94回公演「ソウル市民」(2回目)@こまばアゴラ劇場


  
青年団第94回公演「ソウル市民」@こまばアゴラ劇場を観劇。舞台の印象については前回の劇評で書いたから、今回は少しこの作品の構造について分析してみることにする。
 「ソウル市民」ではひとつの流れを持った起承転結のある物語が展開されるということはなく、複数の登場人物による小さなエピソードが併置されてそこに「来る/来ない」「消える/現れる」などの二項対立が提示されるような構造が配置されている。
 二項対立というのは例えばこうだ。「来る/来ない」についていえば物語の途中で日本から男がこの篠崎家に訪ねてくるというこことが繰り返し語られるが、やってくるという男は実はふたりいて、ひとりは篠崎家の末娘(名古屋愛)の文通相手。家族の言葉に否定はしていても妹はプロポーズとまではいかなくても何らかのアクションが相手からあるのではないかと期待しているのだが、結局彼は「現れない」。
 代わりに日本からやってきてこの家に「現れる」のが奇術師/千里眼を名乗る謎の男。明らかにその振る舞いからしてコミックリリーフの役割を担わされた男の存在は彼が来たことを待ち人の登場と勘違いした末妹が何度もがっかりさせられるという役割も担っている。この奇術師はこの篠崎家の書生の幼なじみとされているのだが、彼がこの家を訪れた時に書生は留守で、戻ってくる前にどこかに「消えて」しまう。つまり書生と幼なじみの間にもすれ違いが起こり、今度はこの二つの「消える/現れる」の二項対立はともに「会えない」という共通項により結び合わされる。そして、物語の後半になると今度は消えたマジシャンの代わりにその助手だと名乗る謎の女が「現れる」が、彼女とマジシャンもすれ違いにより会うことができない。
 このように「ソウル市民」ではほとんど事件らしい事件も起こらないような日常的な描写のなかに実に多くの小さな出来事が起こり、そうした出来事は共通項と対立項が繰り返されることで、それぞれがそれぞれの変奏のような役割を果たしながら、時間は進んでいくのだ。

作・演出:平田オリザ
人が人を支配するとは、どういうことなのか。
日本の植民地支配下に生きるソウルの日本人一家を通して、植民地支配者の本質を明晰確固と描き、現代口語演劇の出発点となった、1989年初演の平田オリザ代表作。

1909年、夏。
日本による韓国の植民地化、いわゆる「日韓併合」を翌年に控えたソウル(当時の呼び名は漢城)で文房具店を経営する篠崎家の一日が淡々と描かれる。押し寄せる植民地支配の緊張とは一見無関係な時間が流れていく中で、運命を甘受する「悪意なき市民たちの罪」が浮き彫りにされる。


出演
永井秀樹 天明留理子 木崎友紀子 太田 宏 田原礼子 立蔵葉子 森内美由紀
木引優子 石松太一 森岡 望 尾﨑宇内 新田佑梨 中藤 奨 藤瀬のりこ 吉田 庸
名古屋 愛 南風盛もえ 伊藤 拓


【出演者変更のお知らせ】
出演を予定しておりました松井壮大は、体調不良のため降板いたします。
松井に代わり、尾﨑宇内が出演いたします。

スタッフ
舞台美術:杉山 至
舞台美術アシスタント:濱崎賢二
舞台監督:中西隆雄 三津田なつみ
照明:三嶋聖子
衣裳:正金 彩 
衣裳製作:中原明子
衣裳アシスタント:陳 彦君
宣伝美術:工藤規雄+渡辺佳奈子 太田裕子
宣伝写真:佐藤孝仁
宣伝美術スタイリスト:山口友里
制作:太田久美子 込江 芳
協力:(株)アレス

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