下北沢通信

中西理の下北沢通信

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松田正隆の愛弟子の関田育子 松田の引力圏抜けだし新たなスタイル模索 関田育子「雁渡」@BASE THEATER

関田育子「雁渡」@BASE THEATER


関田育子「雁渡」@シアターグリーンBASE THEATERを観劇。最近の若手作家の特徴としていわゆる現代口語演劇の形態を取らない作風の作家が上げられるが、その代表格が関田育子といえるだろう。
立教大学出身の関田育子は同大学教授でもある松田正隆率いるマレビトの会にも参加していたから、そこから受けた影響は強いと思うが、この作品などを見ると演出や演技でマレビトの会とは明確に異なる特徴が露わになってきており、松田の強力な引力圏を抜け出して、作家として演出家として、そして集団としていかなるスタイルを構築していくのかというのが楽しみだ。
関田の特長のひとつはそれぞれの俳優の配置が空間的に一種の構図のように構築されており、例えば俳優が会話を交わすときにお互いに向き合わずに正面をむくなど、現実世界とは明らかに異なる形で演じながら、それぞれの演技をあたかも映画のフレーム割りの脳内で再構築すると舞台上でそれが実際に行われるわけではないが、それなりにリアルな表象が浮かび上がってくるようになっていることだ。
 さらに「雁渡」ではこれまでの作品のように関田育子がすべて戯曲を担当するということはなく、パフォーマーでもある4人がそれぞれ筆致の異なる言語テキストを提供。テキストごとに異なるスタイルの演技、演出を振り当てて、関田育子の表現様式の幅を広げていこうという意図が感じられた。
 この複数の作家がテキストを提供するというやり方は関田が参加していたマレビトの会が「福島を演劇する」などで行っていたことに似ているのは確かであり、そういう経験を関田が意識しているのは確かだが、実際のアウトプットを見てみると演技・演出と言語テキストの関係性にはマレビトと関田ではかなりの違いがあって、そしてその違いは今後より大きくなっていくのではないかと感じさせられた。
 今回の作品はまだ試作品の趣きが強いが、今後それがどのような着地点に向かっていくのかは非常に楽しみなスタートにはなっていたのではないか。

2023年11月17日(金)~19日(日)
東京都 シアターグリーン BASE THEATER

クリエーションメンバー:久世直樹、黒木小菜美、小島早貴、佐藤瞳、下地翔太、関田育子、長田遼、林純也、横山媛香、吉田萌、我妻直弥