渡辺源四郎商店第40回公演なべげん太宰まつり 渡辺源四郎商店『逃げろセリヌンティウス』@下北沢ザ・スズナリ
なべげん太宰まつりの第三弾。渡辺源四郎商店『逃げろセリヌンティウス』@下北沢ザ・スズナリを観劇した。太宰治の『走れメロス』を下敷きとしたいわばパロディー色の強い作品だ。暴君である王に親友セリヌンティウスを身代わりの人質としてとられたメロスが決められた故郷で行われる妹の結婚式に出て、期限までに戻ってくるためにあらゆる困難に打ち勝ちながら全力で走るというのが『走れメロス』の筋立てだが、『逃げろセリヌンティウス』はそれではメロスを待っている間にセリヌンティウスと王ディオニスはどうしていたのかを描いていく。
演劇作品としてうまく工夫されていたのはこの王ディオニスが単に暴君であるというだけではなく、その一方でアテネのディオニュシア祭で自分の書いた悲劇を上演したいという野望を持っている。こういうメタシアター的な仕掛けで『走れメロス』の持ついわば直線的な物語をより複雑な構造に変容させようと試みたのである。
メロスが約束の時間には間に合わずセレヌンティウスが処刑されてしまう悲劇を演出することで、それをモデルに悲劇作品を仕立て上げようというのが王のたくらみだが、そのことは最初から明らかにされているわけではなく、物語は牢でメロスを待つセレヌンティウスとなぜだか彼にちょっかいを出しながら「メロスは来ないのではないか」と疑心暗鬼を掻き立てようとする王とのやりとりが描かれる。
渡辺源四郎商店
『逃げろセリヌンティウス』
原作:太宰治『走れメロス』より 作・演出:畑澤聖悟2025年5月3日(土・祝)〜5月6日(火・振替休) ザ・スズナリ(東京)
2025年5月17日(土)〜5月19日(月) 渡辺源四郎商店しんまち本店2階稽古場(青森)出演:髙坂明生、山上由美子、工藤良平、音喜多咲子、小舘史、三津谷友香(以上 渡辺源四郎商店)、三上陽永(ぽこぽこクラブ)