下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

範宙遊泳「その夜と友達」@横浜STスポット

範宙遊泳「その夜と友達」@横浜STスポット

ちょうどボブディランがノーベル文学賞を受賞する頃、とある住宅街を目的もなく散歩していた時、どこかの家の換気扇の排気口から漂う晩御飯の匂いに触発されてこの演劇を着想した。それは嗅覚を次の四ツ辻まで奪い去るような筑前煮の甘辛い匂いだった。べつにポトフの匂いだったとしてもおそらくこの演劇をつくることになったと思う。でもきっと筑前煮でなければ「その夜と友達」というタイトルの演劇にはならなかった。この演劇には2人の男と1人の女が登場する。2人の男と1人の女といえばその常套手段として三角関係を描くのか、と思いきや今作はそれを本意とするものではなく友情の話である。友情といえど残念ながらいわゆる「青春」にはならない。青春だと感じる余裕もなく、ただそこでのそのそと生活する人々のちょっと風変わりな話だ。これは壁(排気口)の向こうの時間と匂いについての物語である。
山本卓卓

作・演出:山本卓卓
出演:大橋一輝(範宙遊泳) 武谷公雄 名児耶ゆり

スタッフ:
音楽|涌井智仁 アートディレクター|たかくらかずき 映像|須藤崇規
美術|中村友美 照明|富山貴之 衣裳|藤谷香子(FAIFAI) 舞台監督|櫻井健太郎
演出助手|藤江理沙 デザイン|金田遼平 広告写真|齊藤翔平
当日運営|田中亜実 制作助手|川口聡 制作|柿木初美 制作統括|坂本もも

協力|プリッシマ FAIFAI ロロ 急な坂スタジオ 森下スタジオ ローソンチケット
助成|芸術文化振興基金 公益財団法人セゾン文化財
共催|STスポット
企画制作・主催|範宙遊泳 さんかくのまど====

  範宙遊泳の舞台の最近の充実ぶりには目を見張るものがある。範宙遊泳は映像やプロジェクターによる文字列の映写などを俳優の演技と組み合わせるようなある種実験的な手法を試みてきて、これまでは手法や表現の斬新さに目が向くことが多かったのだが、最近はそうした手法を空気のように身にまといながら語られる内容の方に観客がフォーカスできるような巧みなストーリーテリング(語り方)を身に着け、表現の水準を一段階上げた。 「その夜と友達」は過去と現代の語り手を自在に交代させた語りを交錯させながら旧友とその喪失を描いた芝居だが村上春樹の小説「風の歌を聴け」を最初に読んだときのようなせつなさを感じさせた。