下北沢通信

中西理の下北沢通信

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横浜ダンスコレクション・コンペティションII 新人振付家部門(1日目)@横浜にぎわい座 のげシャーレ

横浜ダンスコレクション・コンペティションII(1日目)新人振付家部門@横浜にぎわい座 のげシャーレ

甲斐ひろな 『プリティ・ヴェイカント』
荒俣夏美『春が落ちてきた』
Nishi Junnosuke『隣人の』
青柳万智子『うたかた』
三田真央『reincarnation』
古薮直樹『!-Exclamation point』



振付家としての活動を目指す25歳以下の新人アーティスト38人から映像・書類審査を経て、選ばれたファイナリストによる作品上演

■ファイナリスト(五十音順、年齢=2018年7月20日応募締切時点)                                       
振付家名 年齢 出身地 作品タイトル
青柳 万智子 21     東京都 うたかた
荒俣 夏美 24 千葉県 春が落ちてきた
大森 瑶子 22 神奈川県     三角コーナーに星がふる
甲斐 ひろな 23 東京都 プリティ・ヴェイカント
神田 初音ファレル     23 静岡県 社会の窓
Nishi Junnosuke 24 鹿児島県 隣人の
藤本 茂寿 24 福岡県 off body
古澤 美樹 22 神奈川県 あたしら、ほんとはあたしなの
古薮 直樹 21 兵庫県 !-Exclamation point
本城 祐哉 21 兵庫県 react
三田 真央 24 埼玉県 reincarnation
横山 八枝子 24 東京都 silence

□審査員(五十音順)
伊藤千枝(珍しいキノコ舞踊団主宰・振付家・演出家・ダンサー)
ヴィヴィアン佐藤(美術家)
柴幸男(ままごと主宰・劇作家・演出家)
浜野文雄(新書館「ダンスマガジン」編集委員

横浜ダンスコレクションのコンペティションにはこの企画がまだ横浜ソロ&デュオと呼ばれていた頃から見ていたのだが、応援していたダンスカンパニーがこのコンペを卒業して以降は断続的にしか見ていなかった。
 ところが最近は若手の作品が見られるダンスショーケースも少なくなり、トヨタコレオグラフィーアワードも終了となったため一昨年からできるだけ全日程に参加し、見たものにはできるだけコメントすることもしようと合わせ決めた。
 もっとも、過去2年にも書いたように私の評価は実際の受賞作品とは大きく食い違っているので、ここで私が正直に厳しい感想を書いたとしてもあまりネガティブには受け取らないでほしい。
 この日見た6作品の中で一番のセンスのよさを感じたのが三田真央の「reincarnation」であった。このコンペには毎年いろんな大学の卒業生、現役学生が参加してくるのだが、それぞれにアーティスト個人の個性を超えて校風のようなものが感じられるのが面白い。どうしてもダンサーそれぞれの自己表出やテクニックを見せてしまいがちなダンス作品の中で、ダンサー個々の持つ確かな技術は前提としながらもさりげなく集団としての動きから立ち上がってくるものをみせていく。こういう感じはどこかで見たことがあると考えてみたら、それは彼女らの大学(日本大学芸術学部舞踊専攻)の先輩でもあり、今回このコンペの審査員も務めている伊藤千枝の珍しきキノコ舞踊団の作品なのだった。
 作品としてはもちろんキノコとこの作品ではかなり方向性が違うし「reincarnation」すなわち輪廻転生・生まれ変わりという主題でひとりのダンサーだけの衣装を脱がしてしまうような表現の直接性には創作ダンス的な匂いも感じてしまいダンスそのものの軽やかさを損ねているのではないかとも不満も感じたもののこの日のノミネート作品から1本挙げるなら私はこの作品と感じた。

『be』

 一方、対照的に作風ながらサービス精神たっぷりで楽しませてもらったのが古薮直樹によるデュオ作品。大阪体育大学在校生で大学ダンス部に所属しているという古薮との男女デュオは体育大学らしく次から次にアクロバティックな動きを繰り出して来るが、そういうなかでもコミカルな表情を見せてくれるのが関西出身らしい。これまでの活動領域はほぼ大学ダンスの世界にとどまり、コンテンポラリーダンスのイベントに参加したのは初めてらしい。
 彼らのキャリアから考えて直接影響関係があることは考えにくいものの、関西にはヤザキタケシ、北村成美らエンターテイメント性と芸術性、動きの追求を兼ね備えたダンスの系譜があり、これは東京のダンス界からは受け入れられにくいような部分があるのだが、彼らがそれを継ぐような存在になっていくことも大いに考えられるところだ。
  Nishi Junnosuke『隣人の』は女性ダンサーによるソロ作品だが、踊っている久保田舞は実は翌日、藤本茂寿『off body』という作品でも踊っている。そちらの作品を見ると相当に踊れる人だというのは分かるのだけれど、実はこの日の作品は照明が真っ黒でちらちらとしか踊りが見えないためにどういうダンスなのかがよく分からなかった。作者のNishi Junnosukeはダンスの振付家というわけではなく、京都造形大学出身の映像作家で、このダンスコンペでもすでにおなじみの田村興一郎が率いるダンスカンパニーにスタッフとして参加しておりその縁でやはり田村の作品に出演経験があった久保田(彼女は大東文化大出身で東京在住)と知り合い作品を作ったという。照明を含め、全体の空間構成を重視した作品で作品としてはあるだとも思うが、見えないのではダンスコンペ向きの作品ではないと感じた。
  甲斐ひろな 『プリティ・ヴェイカント』は女性のソロダンス作品として応募してくるものにはありがちなのだが、ダンサーが音楽に合わせてただ踊っているということを超える世界観なり、踊られているもののキャラクターの強さに欠けている。ただ、彼女はお茶の水女子大の出身であり、あそこの傾向としては「ダンスについて学究的に考えてみた」結果の作品であることが多いので、コンセプトのようななにかがあったとしてもそれを私が捉えそこなったということはあったかもしれない。
  ダンスデュオである荒俣夏美「春が落ちてきた」もダンスとしてはよく踊られていたと思うが、このコンペはダンスコンクールではないので「もう少し何か」と思わざるをえなかった。
  青柳万智子「うたかた」もやはり音楽にあわせて踊ったという作品だが、最初の「カルメンのハバネラ」、次はピアソラないしそれ風のアルゼンチンタンゴ、最後がピアノ曲とそれぞれ曲想の異なる音楽を表現したダンスパフォーマンスとしてはなかなかよかった。ただ、作品としては途中でブツ切れた印象だし、もう少し続きが見てみたいと思ったのである。
 
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