ニブロール新作公演・芸劇dance「悲劇のヒロイン」@東京芸術劇場
2019年2月 7日(木)- 2月10日(日)
振付・演出:矢内原美邦
映像・美術:高橋啓祐
音楽:SKANK/スカンク出演:笠木泉、川田希、光瀬指絵、皆戸麻衣、望月めいり
わたしはひとりぼっちです
ただ世界のあちらこちらに散らばっているだけの現象で
わたしはセカイとは無縁ですここからならあなたのことがよく見えます
セカイが歪んでいるのがよく見えます
本当にホントにあなたがなにを思っているのか
教えてほしいと思うウロ覚えの台詞で
買ってもらったばかりの花を床に叩きつけ
そのフテ腐れた体のままでだらしないダンスを踊って
彼女たちが流した血について
どっかの誰かが見当はずれに語り出し
始まったばかりの劇が二次元に収束されてしまうのを
私はずっと見届けますそれでもここに悲劇はありません
ただ私の体が血を流しているだけなのです
矢内原美邦は演劇のミクニヤナイハラプロジェクト、ダンス・マルチメディアパフォーマンスのニブロールという2つの顔を持ち、これまでそれを使い分けて活動してきた。
今回の舞台を見て最初に考えたのはしっかりとした戯曲があって、セリフも多いこの舞台をなぜニブロールの作品として上演したのだろうかということだった。
今回は初期のニブロール作品にも出演していたが、最近はミクニヤナイハラプロジェクトに出演することの多かった笠木泉、川田希、光瀬指絵ら普段は主として女優として活動しているキャストを選んだこともそうした印象を強めているのかもしれない。
ミクニヤナイハラプロジェクトじゃないかと最初に感じたのは舞台上で膨大な分量のセリフを出演者(女優)たちが速射砲のようなスピードで語りまくるのだが、それがミクニヤナイハラプロジェクトの最初の公演である「3年2組」を吉祥寺シアターで見た時の印象と重なり合うところがあったからだ。
とはいえ、「悲劇のヒロイン」には舞台を降板することになった女優がいたという設定があったほかは、マッチ売りの少女や打ち上げ花火をみんなで見たかったと語り合う少女たちなど断片的なイメージの連なりはあるが、そうしたイメージは演劇として演じられたり、セリフによって語られたりはするけれども、そうした断片が舞台の後方に置かれた4対の箱状の装置とそれにリアルタイムで映し出される映像と交錯することで言葉にはしずらい「何か」を具現している。
NIbroll ニブロール 『悲劇のヒロイン』
これをダンスと呼ぶか、演劇と呼ぶかはもはやそれほど大きな問題ではないのかもしれない。
舞台が終わった後、印象と残るのは衣装の赤とそれをまとった出演者たちが醸し出す「赤」の残像であったりする。いかにも謎めいた「悲劇のヒロイン」という表題がどういう意味であるのかはいろいろ考えてみることはできるかもしれないけれども、実はそれさえもそんなに重要ではないのかもしれない。