下北沢通信

中西理の下北沢通信

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毛皮族「あのコのDANCE」@ザ・スズナリ・配信

毛皮族「あのコのDANCE」@ザ・スズナリ・配信

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毛皮族が2000代を代表する注目の若手劇団であった*1ことは間違いないが、最近は主宰であった江本純子個人の活動のことを耳にすることはあっても毛皮族の名前を聞くことはなかった。本来は東京五輪の年にその裏側でというような意図で準備していた毛皮族設立20周年記念公演だったようだが、毛皮族としては6年ぶりの公演となったようだ。
残念ながら現地で観劇することはできなかったが、最終日を配信により何とか見ることができた。会場のザ・スズナリは通常客席側となる部分に舞台空間が設営されており、出演者は全員がマスクかフェイスガードをつけて、感染症予防装備での出演となっていた。
前半の舞台は開演するとすぐに江本純子と高山のえみが客席側に座り、観客側の設定で舞台上で進行する芝居(パフォーマンス)のあれこれに「ああだ、こうだ」とコメントを入れ始める。途中でこの舞台の主題は「バラバラだけど一緒」ということではないかと考え始めたのだが、特に最初の方は個々のパフォーマーが次々に出てきて、意味不明なパフォーマンスをするということが続く。正直に言えばそれが特に面白いというわけではないので「私はいったい何を見せられているのだろう」という感じなのである。
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 アングラ演劇風の匂いがあることは確かなのだが、ここには状況劇場黒テントにあったような物語性はない。あえて、意識している存在があるとすれば舞台でも「書を捨てろ街に出よう」など、そのテキストが参照されている寺山修司かもしれない。そのように考えてみると最初はバラバラすぎて、脈絡がないと思われたものの中に隠れているつながりのようなものが見えてくる気がした。
 毛皮族は以前から「ネオアングラ」などとも呼ばれることもあったが、劇中に必ずあったレビューなど江本純子の宝塚やミュージカル好きが反映されている分かりやすいエンタメ性が前面に出ていたように記憶している*2
 今回の「あのコのDANCE」はそういうものではなくて、物語や単純なショーの要素が希薄ということもあって、前衛的とも思われるような印象が強くて、驚かされたのだが、よく考えてみたら、芝居の中に取り込まれた下北沢の街頭からの生中継の映像をリアルタイムで取り込んでいく手法なども寺山修司の街頭劇やメディア利用のようなものをオマージュしていたのかもしれない。
 残念であったのはこの舞台は後半になると音楽に合わせて狂騒的に踊ったりするというような場面が増えてくるのだが、配信映像ではそこでの音楽がおそらく著作権の関係ですべてミュートされて、無音となっていたために疎外感があった。これは劇場での演者、観客のある意味での一体感と配信観客の疎外感を意図的に提示して分断させる演出的な意図もあるのかもとも考えさせられたが、それでも劇場にいてこの舞台を一緒に体験したかったとの感を強く持ったのである。

毛皮族2020Tokyo「あのコのDANCE」(上演時間1時間半)
行動日程
2020年9月2日(水)~7日(月)
場所
ザ・スズナリ
族仲間
高山のえみ
遠藤留奈
間瀬奈都美
石井エリカ
松之木天辺
小林麻子
金子清
小早川俊輔(遠隔出演)
小川紘司
吉村元希
川上ルイベ
美館智範
金子実怜奈
森下紀彦
秋成絵美
加藤ちか
伊藤 孝
相本美樹
加藤 温
遠藤瑶子
高木阿友子
鈴木ちなを
柿木初美
花澤理恵
樋口一
平野由紀
千木良悠子(遠隔応援)
笹野鈴々音(遠隔応援)
光瀬指絵(遠隔応援)
羽鳥名美子(遠隔応援)
twominutewarning
rhythmicsequences
神藏美子
木下京子
江本純子

※演出とコロナ禍での都合上、「劇場」には登場しない遠隔での族仲間がいます。
毛皮族、始動に際してのお知らせ
かつての毛皮族メンバーが集結するのかと期待される方もいるかもしれませんが、かつてのメンバーは、新しい毛皮族では集結しません。
かつての毛皮族は2014年1月の時点で、解散、、というか離散しました。
はっきりとみなさまにお伝えすることなく、時が経ってしまい、申し訳ないです。
新しい毛皮族は特定の人によるグループ・劇団ではなく、
誰もが関われる場として考えています。場っていうか、族。
観客の皆さんにとっても、誰にとっても公平に開かれている。そんなコレクティブ。っていうか族。
つまり、いつだって「族仲間、募集中」なわけです。
毛皮族として、改めて社会に介入していきます。どうぞよろしくお願いします。

2020年7月7日 江本純子

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