下北沢通信

中西理の下北沢通信

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浪江女子発組合「浪江発立川へ 秋」@TACHIKAWA STAGE GARDEN

浪江女子発組合「浪江発立川へ 秋」@TACHIKAWA STAGE GARDEN

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1日3回公演で全て違う内容。<第1回>「第6回定期大会」と<第2回>「第1回ギリギリ公演」を会場で生で観戦。<第3回>「ハロウィン♡かわいい選手権♡」は配信で観た。
新曲2曲が初披露された<第1回>、メンバーによるハロウィンの仮装が予告された<第3回>と比べ、<第2回>は「第1回ギリギリ公演」とあるが始まるまでは詳しい内容は不明。3回回しとはいえ、新曲も最初の披露と比べると新鮮さが薄れるだろうし、どうなんだろうと思って見始めたが、このライブをアイドル界を代表する演出家が演出しているということを失念していた不明を恥じなくてはならないだろう。この日のメインディッシュは<第2回>だったと言ってもいいだろう。あーりんにしかできない演出上のサプライズが用意されていたからだ。
ただ、それが何だったかを紹介する前にまずは<第1回>のことから振り返るべきかもしれない。冒頭にも書いたようにこの回では新曲2曲が初披露された。
そのうち1曲目が「つながる、ウンメイ」。「あの日に(津波に襲われて)切断されてしまった線路がまたつながる。あの日一緒にいた人と一緒にまた春の花火を見にいこう」というような内容の楽曲で、震災時に不通になったままだったのが、十年近い歳月をへて再び鉄路が繋がった常磐線のことを歌っている。とはいえ、ここで歌われた春の花火はコロナ禍のためにおそらく中止になって今年は行われなかったのだが、歌詞から考えて、おそらくこの楽曲は本来コロナで来年に延期になったももクロの「春の一大事」に向けて関連の何かで初披露するために制作準備をしていた楽曲ではないのだろうかというのが私なりの推測。いろんな意味で胸が熱くなっていつのまにか涙が出ていた。楽曲的にも切ないというか、ドラマチックなところもあって、そのままこの歌をモチーフにしたドラマが作れそうな感じなのだ。
 もう1曲の新曲は曲名が聞き取れなかったのだが(「また君と。」だったようだ。)、「皆で踊れる曲を」とライブ中に話していたようにコールができない今の状況でも観客と一体で盛り上がれる曲をとあーりんが発注した曲ではないかと思う。この回には浪江町で開かれてきたいつもの定期大会同様に町の担当者も姿を見せ、町の現況を映像を交えて紹介した。
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 ライブ育ちのスターダストプラネットのアイドルの臨機応変さと底力を見せつけたのがライブで毎回歌うことでいまやJA浪江の楽曲になりつつある「あの空に向かって」の時に起こったアクシデント。この曲はももクロのライブなどでエンディングでMCなどのBGMとして使用されることが多いのだが、おそらくその時のバージョンがかかってしまって、最後の落ちサビにいかずにその前のところが無限ループしてしまったのだ。そして、結局、二番を二回歌った上で落ちサビにはいかずフェードアウトしてしまいグダグダになってしまったのだが、この後の即座の対応が素晴らしかった。
 あーりんが「こういうことはライブでは往々にしてある」とももクロの東京タワー前のライブで突然伴奏が止まったが、結局そのまま歌い続けた映像が動画サイトにアップされて話題になった話などでつなぎ、川上マネージャーが「もう一度歌います」と割って入り、あーりんが今日のことはぜひ事故映像としてネットにアップしてくださいなどと阿吽の呼吸を見せた。

[20201031] 浪江女子発組合 1部 「あの空へむかって」 1回目 エンドレスバージョン

[20201031] 浪江女子発組合 1部 「あの空へむかって」 2回目 リトライ
 <第2回>「第1回ギリギリ公演」に話を戻そう。このライブは新曲「つながる、ウンメイ」から始まり、MCなしにパフォーマンスを展開。ガチンコライブを思わせるタイトな雰囲気で始まった。
 その後、最初のMCではあーりんに対してメンバーが「どこがギリギリなんですか?」と疑問を投げかけるが、それには直接答えることはなく、「私たちはまだ持ち曲も少ないので、今回は今後曲が増えたらできないようなユニットでカバー曲を歌う演出をやります。曲はももクロ、B.O.L.T、アメフラっシの曲を披露します」との宣言に続き、カバー曲ブロックが始まった。この時点ではまだこの後の展開は予想もしていなかったのだが、1曲目はなんとももクロカバーと言うからアメフラっシがすでにカバーしている「笑―笑」か「あんた飛ばしすぎ」あるいは定番の「走れ!」「怪盗」あたりをやるのかと思っていたら、なんとももいろクローバーでの初期曲「MILKY WAY」を「ももいろパンチ」の衣装で披露。ここまでですでにわくわくして、さすがあーりんと思ったのだが、それはまだまだサプライズに向けての序章に過ぎなかった。
 2曲目のカバー曲はアメフラっシの「フロム・レター」を愛来高井千帆が歌ったがこの曲はアメフラっシの楽曲ながら愛来以外の3人で歌っているから、普段は彼女が参加していない楽曲。それでも歌のうまさと安定感はさすがのもので、特にいつもは小島はなが「自分の見せ場だ」と自負しているラップ部分は抜群の出来栄えだった。舞台袖で聴いていたと思われるはなはへこんでいたんじゃないかと思ったほどだ。高井千帆も以前のようなピッチの不安定さが影をひそめて、歌唱力が上昇しているなと改めて思った。
 次は佐々木彩夏小島はなが何とパジャマ姿に枕をかかえて登場。「寝具でSING A SONG」を披露したのだが、今度は逆に小島の歌のうまさに舌を巻かされた。ここも良くて、帰りの電車の中でB.O.L.Tファンである知人との会話で「これは言ってはならないことだけど」との前置きを置きながら、「本家よりいいんじゃないか」との話題で盛り上がったほどだ。
 そして、この後が最初に触れたサプライズ。ユニットで3曲が終わったので、浪江女子発組合の衣装に戻ってくると予想していたら、昔見たことがある3Bjuniorの青い衣装で出てくるとそのままファーストポジションを取り「勇気のシルエット」を歌い始めた。

「勇気のシルエット」2020.10.31浪江女子発組合

勇気のシルエット 浪江女子発組合

2020.10.31/浪江女子発組合/勇気のシルエット
 衣装の段階で会場は元3Bファンを中心にすでにざわつき始めていたが、それでこの歌を歌うというのが分かった瞬間声を上げられない状況でありながら、何かが爆発したような反響が会場を駆け巡った気がしたのである。 
「勇気のシルエット」はすでに解散したスタプラ内の育成グループ3Bjuniorのアンセム的な楽曲。3Bjuniorなき後はほとんど歌われることがなく、ファンの間では名曲という定評もあり、現状を憂えていた旧3Bファンの思いを代弁するかのようにメンバーのうちあーりんを除く全員が旧3B出身である浪江女子発組合が歌ったということにファンにとっては胸熱な背景があったのである*1

<第3回>「ハロウィン♡かわいい選手権♡」は一転して浪江女子発組合のメンバー全員がかわいいハロウィンの扮装(ふんそう)を披露するという企画だった。バラエティー色が強いし、JA浪江のコンセプトを考えても本来は<第2回>を最後に持ってくるべきで、この順番は違うのではないかと考えていたのだが、翌日のニュース報道を見て自らの不明を恥じた。やはり、佐々木彩夏には抜群のプロデューサーとしての才覚がある。報道で使っていた写真がほとんどすべて、ハロウィンの写真でしかもそれはアイキャッチとしても目を惹く。ファン目線でばかり考えてみれば「勇気のシルエット」を巡る顛末は外部の人にとっては言い方が難しいが所詮他人事なわけだ。そして、コアなファンを満足させながらもこういう目配りができるのが佐々木彩夏なのだと思い知らされたのである*2

日程:10月31日(土)<第1回>「第6回定期大会」
open 11:30 / start 12:50<第2回>「第1回ギリギリ公演」
open 14:50 / start 16:10<第3回>「ハロウィン♡かわいい選手権♡」
open 18:10 / start 19:30
■会場:TACHIKAWA STAGE GARDEN(https://www.t-sg.jp/access/)

*1:このままJA浪江のレパートリーにしてしまえとの声がネット上にはあったが、個人的にはそれには反対。3Bの楽曲はアメフラっシが受け継いだということになっているので、やはり本来はアメフラっシが歌うのが筋だと思っている。ただ、ユニットによるカバー曲のブロックの一部で歌った今回の流れはそうした問題を避けるための天才的なアイデアと思った。

*2:扮装について言えばるんぱんの「チロちゃん」が反則的な可愛さ。とはいえ、これで浪江の歌を歌うのはどうしても違和感がある。