下北沢通信

中西理の下北沢通信

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DULL-COLORED POP 福島三部作 第二部『1986年:メビウスの輪』@アーカイブ配信

DULL-COLORED POP 福島三部作 第二部『1986年:メビウスの輪』@アーカイブ配信

アーカイブ配信で観劇。谷賢一の「福島三部作」はいずれも優れた作品だとは思うが「福島の悲劇」という主題で考えると中でも第二部は谷賢一渾身の傑作なのだということを今回の上演を見て改めて感じた。ここでは原発反対派のリーダーだった三兄弟の次男、穂積忠がなぜいわば信念を曲げ「転向」して原発推進派の双葉町長になっていったのかが語られる。
第二部は演劇としては全体が「歌舞伎仕立て」になっている。クライマックス場面では隈取をしたメイクをして「日本の原発は安全です」と忌野清志郎の楽曲に乗せて、ロック歌手さながらに連呼する。重い主題と裏腹にこの第二部はコミカルな作りになっていて、初演の時にはあまりそこまでは意識してなかったのであろうが、俳優のセリフのやりとりは明らかに「半沢直樹」を思わせるような過剰なまでの「芝居仕立て」になっているのだ。
その一方で舞台の冒頭で前作を受け継ぐように人形劇仕立てで演じられる愛犬モモの死が語られ、第二部の物語全体がすでに死んでいるモモが現世を俯瞰して眺めたかのように一人称で語るという作りにもなっている。死者の眼からこの世界を俯瞰するという構造は明らかにソーントン・ワイルダーの「わが町」を思わせるものであって、この第二部でそれは直接触れられることはないけれど、この物語で起こった出来事のすべてが2011年3月にここで起こる悲劇に必然的につながり、その先のいまここにいる私たちともつながっていることを暗示しているようにもみえるのだ。

 作・演出:谷賢一[DULL-COLORED POP]
 美術:土岐研一 照明:松本大介 音響:佐藤こうじ[Sugar Sound]
 衣裳:友好まり子 映像:松渾延拓 舞台監督:竹井祐樹[StageDoctor Co.Ltd]
 演出助手:美波利奈 制作:小野塚央
 国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2021

 出演:宮地洸成[マチルダアパルトマン/DULL-COLORED POP]、岸田研二、
 木下祐子、椎名一浩、藤川修二[青☆組]、古河耕史、百花亜希

福島で生まれ、原発で働く技術者を父に持つ谷賢一が、2年半に渡るリサーチを経て書き下ろし、1960年代以来の日本の小劇場の様々なスタイルを取り入れてまとめあげた合計約6時間の三部作。2018年に第一部を先行上演、2019年にいわき、東京、大阪で三作品を一挙に上演し1万人以上を動員、2020年の岸田國士戯曲賞を受賞した。再演不可能と言われた大作を、東日本大震災福島第一原発事故10周年の開催となるTPAM2021で再訪する。

福島第一原発が建設・稼働し、15年が経過した1985年の双葉町。かつて原発反対派のリーダーとして活動したために議席を失った<穂積 忠>(<孝>の弟)の下に、ある晩2人の男が現れ、説得を始める。「町長選挙に出馬してくれないか、ただし『原発賛成派』として……」。そして1986年、チェルノブイリでは人類未曾有の原発事故が起きようとしていた。実在した町長・岩本忠夫氏の人生に取材し、原発立地自治体の抱える苦悩と歪んだ欲望を描き出すシリーズ第二弾。