下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

青年団若手自主企画vol.86 宮﨑企画「忘れる滝の家」@アトリエ春風舎

青年団若手自主企画vol.86 宮﨑企画「忘れる滝の家」@アトリエ春風舎

 宮崎玲奈(宮崎企画)の作劇の特徴は基本的には会話劇的な演技様式を維持しながらも、時空を超えて短い場面を無造作につなぎながら物語が展開していくことだ。こういう形式は桃歌309の長谷基弘ら以前からあった。けれども、細かいディティールの描写を積み重ねていくというよりは無造作に投げ出して、その解釈は観客に自由に委ねていくような形になっているのが新しい。「忘れた滝の家」もそうした作りになっている。若いカップルが暮らす(現代と思われる)部屋と母と娘がいる今から30年前の家が交互に出てくる。この二つの話は互いに交差することなく並行して進んでいく。
 若いカップルと母娘の会話はそれぞれ平田オリザ流の現代口語演劇のスタイルを踏襲しているが、こうした日常の描写にカップルの娘だと名乗る謎の女や幼馴染だと名乗る男も現れるがその両者が実は未来人だという謎の設定がほとんど何の説明もないままに導入される。このように日常と非日常が地続きのように隣り合って描かれるのももうひとつの特徴である。こうした作劇は最近の五反田団やうさぎストライプとの共通点も感じられる。
 ここまでは先行する作家との共通点を指摘して、彼女がどういう文脈に所属する作家なのかを分析してみたが、そうした先輩作家との最大の違いは描かれている部分以外に描かれていない余白が非常に多いことだ。長所として取れば観客にとって想像力を働かせる余地が多いともいえるが、説明不足と捉える人も出てくるかもしれない。
 省略されている部分が多すぎて、全体像の復元がかなり困難であるという問題も抱えているからだ。より単純な表現をすれば要するに分かりにくいのだ。
 この作風には直接描かれていない部分を想像も交えて再現するためには、通常以上に描かれている部分でのディティールを汲み取る集中力が必要。私個人のことを言えばこのコロナ禍でのマスクを付けたままでの観劇では私には呼吸が苦しくて散漫になり細部を汲み取ることはかなり困難になってしまった。

作・演出:宮﨑玲奈
遠ざかっていくニホンを海の上から見ていた〈姉妹〉を見ていたカモメ
連絡が来たから付いていくことにしたのが運の尽き、辿り着かないでいる山もしくは森の中の〈二人〉が漕いでいたカヌー
そのへんの棒で叩いた〈わたし〉を変えたヘビ

恥とはなにか。恥と孤独は関係するのか、孤立や寂しさは関係するか、また、愛とはなにか。境界を超えていく、つぎはぎの中で、わたしはそれを、再生したい。


宮﨑玲奈
劇作家・演出家・ムニ主宰。1996年高知生まれ。2017年カンパニーメンバーを持たない形で、演劇の団体「ムニ」を立ち上げ主宰。無隣館三期演出部を経て青年団演出部に所属。過去作に大学卒業制作『須磨浦旅行譚』、宮﨑企画『つかの間の道』など

出演
天明留理子* 新田佑梨* 黒澤多生* 西風生子* 南風盛もえ* 山村麻由美* 藤家矢麻刀  *=青年団

スタッフ
空間設計:渡辺瑞帆*
照明:緒方稔記(黒猿)
音響デザイン:SKANK/スカンク(Nibroll
舞台監督:黒澤多生*
衣装:坊薗初菜*
宣伝美術:出版社さりげなく
制作:河野遥(ヌトミック)
制作補佐:赤刎千久子*
総合プロデューサー:平田オリザ
技術協力:大池容子(アゴラ企画)
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)