下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

劇団ジャブジャブサーキット番外リハビリ公演『サワ氏の仕業・特別編〜「研究員Cの画策」ほか怪しい短編コラボ〜』@こまばアゴラ劇場

劇団ジャブジャブサーキット番外リハビリ公演『サワ氏の仕業・特別編〜「研究員Cの画策」ほか怪しい短編コラボ〜』@こまばアゴラ劇場

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「サワ氏の仕業」はこれまで劇団ジャブジャブサーキットが本公演とは異なり短編オムニバスのような形で上演してきた企画公演である。

 ジャブジャブサーキット「サワ氏の仕業III」(7時〜)を観劇。今回は短編集という触れ込みだったのだが、ミステリ劇なのでここではひとまず詳しい話は避けておくが、単なるオムニバスの短編ではなくて、相互に関連のある3つのストーリーからなる連作短編集の形式を取っている。ミステリ劇としては過去のはせひろいちの作品と比べるとかなり分かりやすい構成になっていて、そこに逆に説明しすぎじゃないかと不満も持ったりしたのだが、その分、ミステリに慣れていない人でも楽しめるということはいえるのかもしれない。謎として隠された部分のうちどこまでをさらして見せどこまでを暗示にとどめて、観客の想像に託したり、真相を直接提示することはしないで論理的な推論をすれば分かるという範囲にとどめておくべきなのかというさじ加減はこの手のミステリ劇では永遠の課題といえなくもないのだが、実際のところどうなんだろうか。もちろん、分かりやすすぎと私が感じたこの舞台でもおそらく全部見終わってもテレビの2時間ドラマのように犯罪と真犯人が全て明かされるというわけではないので、ちんぷんかんぷんで分かりにくいという観客がある程度というか相当数いるだろうということは否定できないのだけど、実際のところどうなんだろうか。

 この芝居ではジャブジャブの劇団以外の俳優も何人か出演していて、それぞれいい味を出しているのだが、中でも目立つ存在だったのが、少年王者館の黒宮万理である。しかも彼女の場合、どうも王者館では見たことがないと思っていたら、王者館に所属はしているがまだ公演には出演した経験がなくこれが初舞台だと聞き、ちょっと驚かされた。王者館の舞台での彼女をまだ見てないのでなんともいえないのだが、この舞台を見る限りは王者館よりジャブジャブに向いているのじゃないかと思ってしまったのだが(笑い)。とにかく、またひとり、期待の女優を見つけたという感じである。
 物語は今回の場合はひとつの長編と見まがうほどに融合してしまっているので、もともとどこからどこまでがひとつの独立した話であったのかは切り分けることができないほどだ。

 「サワ氏の仕業」については2000年12月に上記のような観劇感想を書いている。その時から20年以上の年月が経過しているわけだが、「短編集という触れ込みだが、ミステリ劇で単なるオムニバスの短編ではなくて、相互に関連のあるいくつかの物語が組み合わさっている」というような特徴は今回の作品にも受け継がれている。
 今回の『サワ氏の仕業・特別編〜「研究員Cの画策」ほか怪しい短編コラボ〜』は山奥の研究所から老婦人が失踪するエピソード、どこかの研究室で謎のウイルスを開発されているエピソード、漫画「LIAR GAME 」あるいは「カイジ」のように架空のゲームの対戦で勝ち抜いていくエピソードの3つから構成されている。
 ただ、前述したようにこれらのエピソードはただ並列されているのではなく、最初の老女失踪のエピソードで発見される謎のDVDに収録されているのがウィルス研究所でのやりとりを演じた演劇の一部分であるという風に関係づけられている。これらの場面は互いに別々の世界のはずだが、物語の進行とともに互いの場面に共通して出ている人物は同一人物ないしはそれに準ずる人物と関係づけられるなど複雑に絡み合った構成物となっている。いかにもはせひろいちらしい作劇であり、コロナ禍の中で劇団活動を2年近く休止していただけに、ひさびさの公演となり「番外リハビリ公演」と題したが、健在ぶりをしっかると示してくれたといえよう。
 実は最近、若手の演劇作家の中に生と死の中間領域を好んで描く作家が増えてきていて、はぼ現実世界にその関心がとどまっている平田オリザ岩松了らと対比するときはせひろいちや松田正隆は「現実と彼岸」の境界線を描くという意味で、

作・演出:はせ ひろいち


7月名古屋、9月大阪(舞台映像上映)での発表を終え、いよいよ今年の総決算です。「短編コラボ」などと嘯きながら、いろんな不条理要素が絡まった、一本の風変わりなミステリーに仕上がっています。ウイルスの研究所、終末医療の施設、会員制のギャンブル会場などを、9人の役者陣が行ったり来たりします。久しぶりの出演になる「咲田とばこ」「コヤマアキヒロ」らの在京演者に加え、話題を呼んだ劇団初の某吹奏楽器による「生演奏コラボ」にもご期待くださいませ。

劇団ジャブジャブサーキット

岐阜市のアトリエを拠点に、名古屋~大阪~東京の旅公演を長年継続。観客との想像力共有を信じ、演劇に残されたリアリティーと知的エンターテイメントを追及する。’93年池袋演劇祭優秀賞、’95年と’97年にシアターグリーン賞。’01年と’06年に名古屋市民芸術祭賞など。代表のはせひろいちは、過去3回、岸田國士戯曲賞の最終候補。現在、日本演出者協会にて理事を務める。

出演

栗木己義、咲田とばこ、荘加真美、空沢しんか、髙橋ケンヂ、林優花、コヤマアキヒロ(フリー)、後藤徹也(フリー)、片羽(虚無女)

スタッフ

照明:福田恒子 
宣伝美術:石川ゆき 
上記以外の全スタッフ:劇団ジャブジャブサーキット、JJC工房