下北沢通信

中西理の下北沢通信

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不老薬と過疎の村 SF的趣向の現代の寓話 第27班「ハヴ・ア・ナイス・ホリデー」@こまばアゴラ劇場

第27班「ハヴ・ア・ナイス・ホリデー」@こまばアゴラ劇場


 埼玉県を拠点とする設立9年目の中堅劇団だが、公演を見たのは初めてだ。不老となる薬が開発された近未来の物語とのSF的設定を知り、SFとしてはちょっと設定が甘いんじゃないかと思ったのだが、SF的趣向といっても例えばイキウメやジャブジャブサーキットのような厳密に組み立てられたものではない。
そもそも不老薬などが開発されたら、この作品に描かれているように過疎の村の過疎化阻止の政策に使われることなどありえないし、一部の金持ちの老人が独占することになるだろう。
 SFとなるとどうしてもそういう細部が引っかかってしまい素直には楽しめないSFファンならではの悪癖があるが、この作品は要するに「ムーミン」のようなものなのだと思えば最初は気になった設定自体の整合性も次第に気にならなくなってくる。
 不妊治療のためにこの村にやってきている若い夫婦など現実の問題との接点はあるけれどその一方で郵便配達からタクシーまでひとりで行っている男とか、自作自演のギターの弾き語りでコミュニティーラジオをやっている男*1、「いつか宇宙旅行に行きたいのでそれまで長生きする」という不思議ちゃんキャラの女性など全体的な雰囲気になんとも寓話的というか、童話的なところがある。そして、何よりそうした人物を演じる役者たちのキャラがなかなか魅力的なのである。
 そういうわけで上演時間約2時間と最近の小劇場系の舞台では少し長めなのにも関わらず最後まで楽しく見られたが、作者のコメントのように「少子高齢化問題について僕なりに考えてみた答え」なのだとしたらその説得性にはやはり疑問を感じるところはある。なぜか突然舞台上に最初の方からいて、モチーフに対する隠喩(メタファー)として存在しているハチがなぜこんな風に仕方で登場するのかというのがなかなか納得できない。最近の若手劇団の場合、こういうわけの分からない存在が何の説明もなく、なぜか舞台上にいる作品が珍しくはないのだけれど。 

作・演出:深谷晃成
飲むと老化が止まる薬が開発されました。病気や事故で死ぬことはあっても老衰することはありません。今の若さをずっと生きることができます。
この国では過疎化した地域に移住する若者に限り、その薬を買うことができます。
永遠を望む若い人々が地方の小さな村に集まってきます。

少子高齢化問題について僕なりに考えてみた答えを文字におこしてみました。
優しくて残酷な僕たちの未来に想いを馳せてみたのでご期待ください。


2013年より埼玉県を拠点に現在7名で活動。
『令和の群像劇団』をコンセプトに現代を生きる人々の苦悩や葛藤、性や愛を題材にユーモアやおセンチを織り交ぜながら会話群像劇を描く。

2020年日本演出者協会主催「若手演出家コンクール2019にて最優秀賞受賞
2021年劇作家協会主催「第27回新人戯曲賞」最終選考ノミネート
2022年王子小劇場主催「佐藤佐吉賞」優秀作品賞受賞


出演
鈴木あかり、佐藤新太、箸本のぞみ、大垣 友、もりみさき(以上、第27班)
藤木陽一(アナログスイッチ)、成瀬志帆

スタッフ
舞台監督:新井和幸
舞台美術:水野谷重謙
照明:若原 靖
音響:滝沢直紀(Forte Sound)
制作:月館 森(露と枕/盤外双六)
制作補佐:河野みか
ビジュアル撮影:大塚太郎
音楽:大垣 友(第27班)
アートディレクター:鈴木あかり(第27班)
芸術総監督:平田オリザ
技術協力:黒澤多生(アゴラ企画)
制作協力:蜂巣もも(アゴラ企画)

*1:どこかスナフキンを思わせる。ここからムーミンを連想したのかもしれない