勅使川原三郎振付「音楽の捧げもの」@荻窪アパラタス
バッハの「音楽の捧げもの」によるダンス作品。最近の勅使川原三郎作品には音楽作品を基にした作品群と小説や戯曲など古典作品に材を取った作品と大別して2つの系列の作品がある。今回の新作「音楽の捧げもの」は典型的な前者の作品だが、短いパッセージが次々と並び、その音楽も緩急や使用楽器もチェンバロ、ストリングスなど次々と入れ替わっていくという構成に合わせて、男女のデュオというミニマルなパフォーマンスなのにも関わらず、曲が変わるごとに勅使川原のゆっくりとした動きのソロ、佐東利穂子のすばやく激しい動きのソロ、二人のミディアムテンポのデュオなどと曲想に合わせるかのようにダンスの構成が変化していく。
作品を見ていて最初に感じたのは佐東利穂子のダンサーとしての素晴らしさである。彼女の動きが勅使川原を受け継いでいることは間違いないし、特にこの作品などは勅使川原の振付作品であるがゆえにそれを体現していること間違いないが、それでも佐東の方が上半身の動き、特に腕の動きがなめらかかつ柔らかく、身体の特性の違いにより二人の動きのニュアンスはかなり大きく異なり、それは佐東の魅力となっているのは確かだ。特にこの作品でも腕を動かしながら激しく旋回するような動きは勅使川原の動きを数段凌駕するように見える。
ゆっくりとした微細な動きに込めるきめ細かなニュアンスではまだ勅使川原の一日の長があるが、ダンサーとしての動きの魅力についていえば佐東がいることは振付家、勅使川にとって大きな武器となっている。
この日の演目では個々の動きに演技的な意味を込めるという意識はおそらく、希薄だが佐東の持つ大きな魅力は優れたダンスアクトレスであるということ。「白痴」での好演は記憶に新しいが次回作「オフェーリア」はまさにそうした魅力が発揮できそうな演目でいわゆる「オフェーリア狂乱の場」を佐東がどのように演じるのか。今回のダンスもよかったが全く違ったよさも見られそうで楽しみである。