下北沢通信

中西理の下北沢通信

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KERA・古田新太 CUBE produce『PRE AFTER CORONA SHOW』リーディング『プラン変更 〜名探偵アラータ探偵、最後から7、8番目の冒険〜』@本多劇場

KERA古田新太 CUBE produce『PRE AFTER CORONA SHOW』リーディング『プラン変更 〜名探偵アラータ探偵、最後から7、8番目の冒険〜』@本多劇場

リーディングアクト『プラン変更 ~名探偵アラータ探偵、最後から7、8番目の冒険~』
作・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:古田新太大倉孝二入江雅人・八十田勇一・犬山イヌコ・山西惇 / 奥菜恵

 出演:
 古田新太 :名探偵アラータ、村人、ネギッ子姐さん
 大倉孝二 :教師、司祭、村人、ネルソン、神様
 入江雅人 :教師、偽ジャーノン、村人、山田、博士
 八十田勇一:桜田家の執事、ロバート、村人
 犬山イヌコ:アルジャーノン、村人、ジェニファー
 山西惇  :姫華の父、村人、マクガイヤー、役人
 奥菜恵  :桜田姫華

当日は都合がつかず後日、配信で観劇。7人の出演者がアクリル板で分けられたエリアでリーディングを行う形式、、、と思いきや、キャストは次々に役を変え、衣装を着替え、立ち上がり、時には台本を手にせずに演じている。リーディングの枠を超えた舞台となった。
 表題に名探偵アラータとあるが、思い出せなくて、???となっていたが、2016年に同じ本多劇場で上演された「ヒトラー、最後の20000年〜ほとんど、何もない〜」*1古田新太がこの役を演じていたらしい。もっとも、その舞台はナンセンスの極致とでもいうべき内容だったので、筋立てもまったく思い出せず、ブログ内検索でそのことを確認したのだが、それについての何の記憶もないのであった(笑)。
 今回の舞台もそれがどんな筋立てなのかを説明するのは難しい。物語は政治家の娘である桜田姫華(奥菜恵)がそのせいでクラスメートにほどいいじめを受け、助けを求めて探偵助手のアルジャーノンくんのもとに行くのを不信に思った父親が探偵、アラータを雇い調査を依頼するというところから、始まるがすぐに姫華が人々から魔女狩りに合い、それに対して姫華も魔術を駆使して応酬する……。舞台を見ていれば面白いのだが、物語自体を説明してもその面白さは全く伝わらず、もどかしいことこの上ないのである。

ケラは1985年に劇団健康を旗揚げし、演劇活動を開始するが、彼らが規範としたのは英国のコメディ集団、モンティ・パイソンの過激な笑いであった。劇団健康は緻密に構築された脚本と精密な演出により、それまでの既存の笑いのパターンをある時はずらし、ある時は解体していき、それをエスカレーション(増殖)させていくことで、純度の高い笑いを生み出すところに大きな特徴があった*2。その後92年に劇団健康を解散、ナイロン100℃を発足。それ以降は、笑いは大きな要素ではあるのだが、それだけに特化するということはなく、群像会話劇の手法などを取り入れながらナラティブ(物語)や世界観の体現といった作風に転向していった。
 もっとも、ナイロン100℃になってからも劇団健康時代の代表作である「ウチハソバヤジャナイ」を何度かにわたって再演するなどナンセンスコメディーへの情熱は完全に枯渇したわけではない。この「ヒトラー、最後の20000年〜ほとんど、何もない〜」で改めてケラはナンセンスに対する情熱を見せてくれた。 

 上記は「ヒトラー~」の時に書いた観劇レビューの抜粋だが、今回上演された「プラン変更 〜名探偵アラータ探偵、最後から7、8番目の冒険〜」もやはりナンセンス劇で、しかも出演者も奥菜恵以外の6人は「ヒトラー~」にも出演していたことから、考えて、実質的に続編だと考えてもいい*3古田新太の名探偵アラータ、犬山イヌコのアルジャーノンくん、大倉孝二の神様は「ヒトラー~」にも同じ役柄で登場していたらしい。もっとも、「ヒトラー~」がどんな筋の舞台だったのかが全く記憶にないので、そのことは当時のブログの記録から分かったが、全然記憶はないのだが。つまり、今回同様そういう類の芝居だったということだろう。三谷幸喜は今回のコロナに際し、演劇への熱い思いをぶつけるような芝居を上演した*4が、同じコメディーでもケラはあくまでバカバカしさに徹した舞台を上演した。どちらも喜劇作家としての矜持を示したとも思うが、この違いも作家としての資質の違いを感じさせて面白いと思った。

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:「80年代的“笑い”のラジカリズム」STUDIO VOICE http://d.hatena.ne.jp/simokitazawa/00000104

*3:ちなみに「ヒトラー~」出演者だが、今回は出演していない賀来賢人はどうしたんだろうと考えていたら、すごくよさそうな役柄で「半沢直樹」に出演していた。役者として当然の選択だと思う(笑い)。と考えていたら、古田新太も出ていたわ、「半沢直樹」。

*4:simokitazawa.hatenablog.com