下北沢通信

中西理の下北沢通信

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Perfumeとももクロのパフォーマンスについて 配信ライブを中心に(その2)

Perfumeももクロのパフォーマンスについて 配信ライブを中心に(その2)

ももクロは配信ライブの新たな可能性について挑戦的な試みを続けてきた*1が、これまでの試みを踏まえての決定版ともいえるライブ配信「PLAY!」(2020年11月)だったのではないかと思う。VR技術を駆使した新曲の「PLAY!」の初披露から始まった。今回の配信ライブが凄かったのはPerfumeの配信ライブなどでも駆使されたVR(仮想現実=バーチャルリアリティー)など最新のデジタル技術を活用した場面をまず最初に提示しながら、デジタル技術だけに頼らないでシーンごとに様々な映像に関するアイデアを盛り込んでいっていることだ。

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以前書いたももクロ論ではももクロの魅力の本質を限界を超えた動きがオーバードライブしていくことから生まれる一種のダイナミズムにある(つまり一般的に全力パフォーマンスと言われていたものの内実)と論じ、配信でも「ももクロ夏のバカ騒ぎ2020 配信先からこんにちは ペイパービュー」などはそうした特徴を前面に押し出して作られていたと言ってもいいと思うが、「PLAY!」は同じ配信ライブでありながらそれとはまったく対極的な作られ方をしている。

Perfumeメディアアートなパフォーマンスが成り立つ前提としてPerfumeがあらかじめ決められた動きをミリレベルの精度で何度でもリピートすることができるという高度な身体制御能力を持つということがある。Perfumeの配信作品ではコンピューター上でデータとして構築された映像と彼女たちのリアルタイムでのパフォーマンスが寸分たがわずシンクロ(同期)する場面が何度も出てくるが、それができるのも彼女たちの実力があってのことだろう。
ももクロの生のライブはむしろそういうシンクロを完全にはしないことが特徴で、そこから来るグルーブ感がライブのダイナミズムを生み出していくという構造があった。ところが「PLAY!」でなされたのはそれとは真逆の映像とシンクロしてそのなかに融け込んでいくような能力で、ここでこうしたことが可能になるのはPerfumeのように同じ動きを繰り返して寸分たがわぬように遂行する能力も現在のももクロには対応が可能なのだという事実であると指摘したい。
とはいえ、両者には違いはやはりある。現在のところのももクロのオリジナル最新アルバムである「MOMOIROCLOVER Z」が「ロードショー」で始まり「SHOW」で終わるように最近のももクロが目標としているイメージはブロードウエーやラスベガスで上演されているような丹念に作りこまれたショーやミュージカルではないかと考えている。配信ライブの「PLAY!」にはおそらくふたつの意味が込められていて、ひとつは「遊ぶ」ということだが、もうひとつは「劇」あるいは「演劇」。実は一般の人にはそこまでは知られていないかもしれないが、最近の演劇では映像を活用したプロジェクション技術も舞台美術のひとつとして演出に組み込まれていて、冒頭曲の「PLAY!」は生配信とはいえ映像だからライブよりもハードルは低いだろうけれど、将来は現実のライブでもこれを再現したいという野望がももクロ陣営にはあるんじゃないかと思う。
 Perfumeの配信ライブはライゾマティクスリサーチの真鍋大渡との共同制作によるメディアアートであるのに対し、ももクロの「PLAY!」は4人の映像クリエイター(多田卓也、河谷英夫、スミス、ZUMI)との共同制作になっており、表題曲「PLAY!」のようにVR、CG、プロジェクションなどを駆使したXR技術をフル活用した場面もあれば、映像や舞台に従来から使われているアナログ的なノウハウをアイデアとして組み合わせている場面もある。

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上記の「ゴリラパンチ」はミニチュアの舞台美術を生かした特撮技術を活用しているが、これはリアルにそういうものを利用するというよりは「遊び」というモチーフに合わせて日本の怪獣映画へのオマージュの要素を取り入れ「特撮で遊んでみた」趣旨が強く感じられる。さらに映像を見て再確認してみると意図的に書き割りを思わせる美術を用いるなど特撮映画というよりもむしろきわめて演劇の舞台を思わせる演出なのである。

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ミュージカルの舞台のような演出という意味では巨大な月を描いた背景の前で幻想的に展開される劇場版「美少女戦士セーラームーンEternal」の主題歌「月色Chanon」は生の一発配信でありながら作りこまれたMVを思わせるような完成度の高さ*2だ。ちなみに以前にも指摘したがここでの彼女らのダンスはユニゾンではない。個々のメンバーの腕の動きが完全には同期していないが、それは意図的なものであって、動き自体についていうとジャズダンスやヒップホップ系のダンスのようにカウントで踊る「音嵌め」ではなく、そこから歌の感情に合わせるようにそれぞれの体感に基づき、微妙にずれながらそれでいて全体としてはバラバラにはならず調和も持たせている。あえて、ダンスで分類するならばコンテンポラリーダンス的と言ってもいいかもしれないが、それがある種のグルーブ感を生み出している。ももクロのダンスをミュージカル的と言ったのは彼女らの現在のダンスはそういう非同期のダンスとがちがちにカウントで踊るようなダンスを自在に組み合わせているところにあるかもしれない。


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一方、次の「DECORATION」はももクロ曲のなかでもジャズダンス的なリズムとの同期を重視した振付が特徴。これは「あんた飛ばしすぎ!」からのつながりでヤンキー風高校生(玉井詩織のみ生徒会長風優等生)に扮したような衣装となっているのだが、廊下のようなような部分を移動していく部分の移動撮影がマジカルな出来ばえ。メンバー4人を2人づつに分けて、そこにやはり2人づつプロのダンサーを配しているが、ダンサーと一緒に踊っても群舞でけっして引けを取らないのがこの種の振付を踊らせた時のレベルの高さがはっきりと感じられる場面としても貴重である。
(その3)
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*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:コメントで音を修正しているなどとことさらに指摘している人がいるが、初期のライブ映像のようにはずれた音を直すという類の修正はなく、マイクのバランスなどを調整している程度。ほぼ生配信もこのまましていたと言っていい。