エラリー・クイーン「青の殺人」(原書房)
エラリー・クイーン「青の殺人」(原書房)を読了。エラリー・クイーン名義だが、作者は短編小説の名手として知られるエドワード・D・ホック。クイーンの作品と考えれば重厚さが足りないなどの評はうなずける部分もあるけれど、クイーン(フレッド・ダネイ)の監修をへて、エラリー・クイーン・ミステリマガジンなどを通じて弟子筋*1のエドワード・D・ホックが割とまっとうなフーダニットを書いたということになると興味深い作品といっていい。
ホックのアイデアかさらなる原案があるのかははっきりしないのだが、探偵の設定がハードボイルド仕立てとなっていて、出てくるモチーフが芸術的なポルノグラフィー映画であるとか、それを撮った映画監督を探しにきたハリウッドのプロデューサーが殺されるなどの筋立てはクイーンが好んで書いたものとは異なるが、かといってエドワード・D・ホックの短編作品も描かれた世界の多くは牧歌的で、この物語に登場するような組合による労働争議や女権論者らによるポルノ反対のデモ行為なども出てくるが、取り扱い方はルース・レンドルや米国の現代ハードハードボイルド作家がそうであるように現代社会を描く一環というほどのリアリティーは感じられないのが物足りなくもある。
ミステリとしては犯人を絞っていく過程がオーソドックスな消去法となっていて、論証過程でのツイストもある。ただ、スプライズドエンディングというほどの仕掛けはないので、どうしても短編的なアイデアなのは否定できないが、犯行現場にいたという推論がなされた人物が実は犯人ではなくてというプロットはクイーン的と言えなくもない。とは言え、犯人がつかまった後に探偵が明らかにする事件の背景のところでのアナグラムを使った推理が一番クイーンぽいのかもしれない。
一部のファンの間では伝説と化した映画『ワイルド・ニンフ』を残して二十年前に失踪した映画監督の行方を追っていた映画プロデューサーが、何者かに殺害された。州知事の命を受けた特別捜査官マイカ・マッコールは現地に赴いたが、『ワイルド・ニンフ』に関係していたと思われる人々は一様に口を閉じ、捜査は難航する。その映画には何が封じてあったのか。被害者はその封印を解いてしまったのか。そして失踪した映画監督の正体とは誰なのか…。「巨匠たち」がおくる熟練の本格長編。