下北沢通信

中西理の下北沢通信

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後期クイーン論に向けた序章として(番外編3)  エラリー・クイーン「Zの悲劇」(角川文庫)

後期クイーン論に向けた序章として(番外編3)  エラリー・クイーン「Zの悲劇」(角川文庫)

 クイーンの作品を最初に読んだのが実は「Zの悲劇」だった。というのはマニア傾向のあるミステリファンにはよくありがちなことではあるが、その時点でネタ晴らしの解説本で「Xの悲劇」「Yの悲劇」の犯人像およびあらかたの内容を知ってしまっていたからだ。そして、そのこともあってミステリにもっとものめりこんでいたある時期この作品は私のベスト・オブ・ベストの1冊となっていたのだ。
 「Zの悲劇」の最大の魅力は名探偵ドルリー・レーンのライバル的存在として、もうひとりの名探偵ペイシェンス・サムを登場させたことであろう。このペイシェンスのキャラ設定がなんとも面白い。バーナビー・ロス名義の作品ではブルース地方検事とのコンビで捜査の陣頭指揮をとるペイシャンス警視はエラリー・クイーンにおけるクイーン警視と同じような役割。だとすれば優れた推理力を持つ名探偵ペイシェンス・サムは探偵エラリー・クイーンの女性版といってもいい存在だ。最初に読んだ時にはまだアニメの萌キャラもラノベも出てくる前だったが、時代をへていま改めて読んでみると現代日本なら確実に浜辺美波が演じるであろうようなキャラクターである。典型的美少女キャラであって、その先駆として魅力を感じたのかもしれないと考えている*1

*1:もちろん、ここで指摘するまでもないが、ここでペイシェンス・サムが出てこなければならなかった必然性は「レーン最後の事件」において明確に判明する。役割を担うべき存在が必要だったのだ。