下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

ロロ「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校」(2回目)@アトリエ春風舎

ロロ「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校」(2回目)@アトリエ春風舎

緊急事態宣言発令に伴うイベント制限要請により、4月28日(水)・29日(木・祝)の公演が中止に。猶予期間であった27日がこの演目で2回目の観劇ながら最終日ともなった。最近のロロの作品とは作風が異なるもののロロおよび三浦直之の作品としては原点に当たるような作品でもあり、テレビや映画の脚本も手掛けるようになったり、声優や元アイドルらと組んだプロデュース公演でもファンを増やしているであろうことを考えると少しでも大勢の人に見てもらいたい舞台でもあったため、コロナ禍の中でやむを得ないこととはいえ、今回の公演が途中で打ち切りになってしまったことは残念でならない。ただ、今回は配信も予定されているようなので関心を持った人はぜひそちらでも見てほしい。

『いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校』(2010)

出演:亀島一徳(六) 篠崎大悟(八) 望月綾乃(トビ) 北川麗(露島空) 小橋れな(先生) 崎浜純(蜻蛉) 多賀麻美(クリーム) 三浦直之(みうらこぞう)
脚本・演出/三浦直之 照明/板谷悠希子 音響/池田野歩 衣裳/藤谷香子(快快) 舞台監督/鳥養友美 宣伝美術/玉利樹貴 制作助手/幡野萌 制作/坂本もも

 この映像の最初の方に出てくるのが宇宙人らしい霧島空と主人公の六なわけですが、ギターをさして「その、君が背負っているそれは何? 世界?」などというセリフなどは意味ははっきりとはわからないのだけれど、どこかぐっとくるところがあります。もうひとつは一見子供たちの会話劇風の展開からはじまったりはしますが、この舞台全体が三浦が考えるアニメ的なリアリズムの演劇への導入であること。これはつまり、青年団などと比べてみればはっきり分かりますが、大人が小学生を演じるということからして目指しているのが「演劇的リアリズム」じゃないことは明らかです。興味深いのはロロの場合は(小劇場演劇の場合は大人が小学生を演じる際の約束事としてこれまで蓄積されてきたノウハウのようなものもあるのだけれど)そういうものをなんらかの技術によって提示しようともしていない。そこに特徴があるかもしれません。


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脚本・演出:三浦直之


『いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校』はロロ旗揚げ一年目に書いた作品です。僕が10代のころに読んだり観たりしてきた漫画、アニメ、ライトノベルへの愛情を目一杯詰め込んで書いたボーイミーツガールの物語で、これまで何度も再演を重ねてきました。「独白」と「対話」の間にある「告白」について考えるきっかけになった作品でもあります。でも、現在の僕はこの物語をかつてのように肯定することができません。当時の僕と今の僕とでは恋についての考え方が随分ちがっていて、ここで描かれる男性や女性の姿にどうしても違和感を抱いてしまいます。今回の上演で、その違和感にとことん向き合ってみようとおもいます。かつての自分が書いた言葉に今の自分はどんな風に応答できるのか。オーディションを通して新たに出会った俳優たちとじっくりと考えてみます。三浦直之

ロロ

劇作家・演出家の三浦直之が主宰を務める劇団。2009年結成。古今東西ポップカルチャーをサンプリングしながら既存の関係性から外れた異質な存在のボーイ・ミーツ・ガール=出会いを描き続ける作品が老若男女から支持されている。15年に始まった『いつ高』シリーズでは高校演劇活性化のための作品制作を行うなど、演劇の射程を広げるべく活動中。『ハンサムな大悟』で第60回岸田國士戯曲賞ノミネート。代表作に『はなればなれたち』『四角い2つのさみしい窓』などがある。





出演

朝倉千恵子 大中喜裕 門田宗大 金井美樹 関彩葉 高野栞

スタッフ

脚本・演出:三浦直之
音楽:NRQ
美術:伊藤鈴蘭
照明:松田桂一
音響:池田野歩
衣裳:藤谷香子
演出助手:中村未希 神保治暉
舞台監督:黒澤多生 
イラスト:一乗ひかる
デザイン:中西洋子
制作助手:黒澤たける
制作:奥山三代都 坂本もも

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アメフラっシ参加ライブ観戦 ガラフェス〜グリーンフェスティバル〜@上野恩賜公園野外ステージ(上野水上音楽 野外ステージ).

ガラフェス〜グリーンフェスティバル〜@上野恩賜公園野外ステージ(上野水上音楽 野外ステージ)

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仮面女子候補生の最後の曲の途中で入場。その次のONE-Xは男性6人のダンス&ボーカルグループで最前列にファンらしき女子が4人、スタンディングで観戦。
開花は女性5人組のアイドルグループだが、こと歌という面では相当な実力派で少し驚かされた。オリジナル曲中心の構成だが、既存曲をアカペラでカバーしてアルバムも出しているようで、この日は絢香の「三日月」をアカペラで歌った。

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 その後、東京女子プロレスの試合やアップアップガール(プロレス)のライブを見ながらこういう感じは何か懐かしいと思って考えて分かった。
このゆるい感じや音響などの環境の悪さがアメフラっシも参加していたももクロの大規模ライブの周回ライブに近い雰囲気なのだ。というか、周回ライブにはスタプラのアイドルのほか、もっとメジャーなアイドルも参加していたのだが、プロレス団体が参加しているのでそう感じたのかもしれない。
 それではこの日の目的だったアメフラっシはどうだったのか。パフォーマンス自体は音響などがよくない状況で悪くはなかった。ただ、こういう状況での新規の観客の巻き込み方などを見ているとやはりそれができるグループとの間にまだまだ差を感じた。Zepp Hanedaのライブは素晴らしかったのだが、ライブでの経験値はまだまだ必要かもしれない。ファンでない人を巻き込んでいくときのももクロの波及力の凄まじさは挙げるまでもないが、そこまで行かなくても周回ライブで見たあゆみくりかまきの新規の観客も乗せていくステージングは素晴らしくて、彼女らが解散するのは残念なのだが、現在のアメフラっシはコロナ禍という状況の不利はあるにしてもまだまだだなと感じてしまったのも確かなのだ。
 パフォーマンスの前にクラップや振付の勘所を教えるのはいいのだけれど今回見ていると例えば「Staring at You」で「三本の指を上げて」とか「皆で星を作る」というのは説明していなくて、そういう細かい部分にはまだまだ工夫の余地もあったのではないか。逆に言えばそんな細かいステージングをどうこうしなくても圧倒的な熱量を見せられるももクロに近づけるような目標を持ってほしい。ここまで厳しいことも書いたが、アメフラっシのパフォーマンスが以前周回ライブで見た時とはまるで別物とも感じたのも確か。もうひとつ言えばこのフェスの性格上なのか、見ていた観客がほとんどアメフラっシ以外のファンというアウェー状態ではなかったことも巻き込みを感じなかった理由のひとつかもしれない。
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 こちらは前の週に開催されたライブの映像だが、こういう音響、映像が駆使できるような良好な状況でのライブではアメフラっシは高い実力を発揮できるようになった。Zepp Hanedaのライブでもよかったし、ライブハウスだけではなく、音響のよいホールならば例えば中野サンプラザや極端に言えば横浜アリーナでも動員さえクリアーできれば白熱したライブにできるだけの力を備えつつあると思う。
 しかし、野外や自分たちのファンがほとんどいないようなアウエー状況で観客を巻きこんでいくような力はまだないし、野外でのステージングもまだまだだとも感じた。そういう意味ではコロナ禍で厳しいけれど運営にはこういうアイドルフェス的なイベントではなく、対バン形式のライブに参加してほしいと思う。そしてできたら次の目標のひとつにかつてTEAM SHACHIもたこやきレインボーも通ってきた日比谷野音を期待したい気分になった。さらに言えばそれがバンドを背負ってのものになるならさらに最高である*1
 

セットリスト
1.グロウアップ・マイ・ハート
2.メタモルフォーズ
3.MICHI
4.Staring at You

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*1:その場合、アメフラにはメンバー4人中二人はギターが弾けて弾き語りもできるという武器も生きてくるはずだ

私立恵比寿中学「エビ中新メンバーオーディション合宿」3泊4日生中継@ニコニコ生放送

私立恵比寿中学エビ中新メンバーオーディション合宿」3泊4日生中継@ニコニコ生放送

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私立恵比寿中学の新メンバー募集オーディションの生中継なのだが、見終わって感じたのはこれ自体が新生「私立恵比寿中学」の最高のプロモーションになっているのではないかということだ(累計とはいえすでに30万人が視聴。タイムシフトで5月25日まで視聴可能のため連休中、緊急事態宣言で家にいる人はぜひ)。最終候補に残った候補者は7000人の中から選ばれた9人でいずれも逸材。それだけに、いずれもどのオーディションに参加しても合格する可能性があるような有望株だといっていい。その彼女たちが3泊4日のオーディションという試練を通じて、喜びも挫折も感じながら成長していく。不思議なのは初めて見る子たちなのに見ているうちに次第にその魅力に惹かれて、ひとりでだけではなく何人もを応援したくなる自分がいたことだ。
 あくまで個人的な推測にすぎないが、この合宿は新メンバーになる数人(2~3人)を選ぶというものではなく、ここまでの選考で選んだ9人の候補の私立恵比寿中学新メンバーとしての適性を確認するものではないかとさえ思った。そして冒頭にも書いたように同時に新メンバーの加わる新生エビ中のプロモ―ションとしての役割も果たしているのではないか。映画も撮るからというWACK的な仕掛けが一種のカモフラージュになっていたけれども、最後の海でのラストシーンはそのまま新生エビ中としての最初の楽曲のMVのための撮影ではないか。つまり、私は現在エビ中は現メンバーの6人+新メンバー9人の15人で行くのではないか、あるいは行けばいいと思っている。
 そのように考えたことに理由は一応ある。加入した新メンバーが現メンバーの刺激になることは間違いないが、エビ中の場合はメンバーがこれまで積み上げてきたものの技術的なスキルが高すぎて、今回の合宿での参加者のパフォーマンスを見てみても、スタダの場合、すべて生歌であることを考えても数多くの楽曲を短期間で覚えてフォーメーションに加わるのは負担が大きすぎて事実上不可能である。そのため、現メンバーへの負担を勘案しても最初のいくつかのライブでは全員での新曲を除けば合わせて全体のレベルを上げていくのは時間がかかる。
 それに加えてしばらくは復帰に時間がかかる、あるいは復帰した時にフルパフォーマンスが困難な安本彩花いたポジションを新メンバーが加わり埋めて、歌とダンスのレベルのキャッチアップをはかるのが現実的ではないか。
 その間それぞれの楽曲に応じて一部のメンバーを参加させながら、徐々に全員でパフォーマンスできる楽曲を増やしていくのがいいのではないかと考える。そのため試験的に、今回3つのチームを作って競わせるということもしたのではないか。そして試して分かったのは将来性は有望だけれどこのままでは即戦力としては難しい候補者(典型的なのはリナ)、ダンスは得意だが歌がまだまだな候補者(ココナ)などメンバーにはそれぞれ一長一短があるということだ。この特性を見ながらそれぞれ鍛え上げていくのがいいのではないか。ニコ生のコメントでエビ中と一緒にやれるレベルにないというのもあったがそんなの当たり前だ。アイドルの卵である彼女たちと10年選手もいる現メンバーが同じ土俵で比べられるはずがない。
 とはいえ最後のあいさつでのリナやココナを見ていれば、本人も自分の現在の状況を自覚しており、今回できなかったことへの悔しさも感じていることも分かる。
 ダンス、歌ともに如才なくこなすメイでさえも現メンバーと一緒に何十曲もパフォーマンスできるのかというと疑問だ(歌詞を覚えるのが苦手という思わぬ弱点も露呈した)。ただ、「アイドルは可能性と伸びしろ」という見方もある意味正しい。ファンも今回のオーディションを通じてそれぞれの応援のしどころをつかんだ気もする。さらにいえばアイドル本人による配信が増えて重要さが増している昨今においてニコニコ動画のコメントを非常にうまく拾ってファンとのやりとりで楽しませてくれる才能や仲間と非常にうまくコミュニケーションを取りながら、雰囲気を良くして集団を盛り上げていく才能など直接ライブパフォーマンスには直結しないけれど、アイドルとしてきわめて有能な才能を発揮する候補もいた。そうしたところでもいろいろ楽しみで、こうしたいろんな可能性を現段階で切り捨ててしまうのはあまりにもったいないと思ったのである。

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ダンス作戦会議『表現の場におけるLGBTQ勉強会』@SCOOL(配信)

ダンス作戦会議『表現の場におけるLGBTQ勉強会』@SCOOL(配信)

チケット料金がコンビニ支払いになっていたみたいで、直前につなごうとしたらキャンセルになっていたことに気が付いたがどうにもならず。以前から一度内容を見てみたいと思っていただけに残念。またの機会があればいいのだが。

講師

和田華子

日時

4月24日(土) 14:00〜17:30(休憩あり)

参加費

会場参加 1,500円
オンライン配信 1,000円
★いずれも予約のみ

定員:
会場参加 25名
オンライン参加 50名(ZOOMでの配信を予定しています)


4.24 SAT 14:00
開場は20分前、途中入場不可



誰もがその人らしく生きやすい社会を目指して、多様性について考える機会が増えてきました。ダンス作戦会議では、知っているようで実は曖昧に受けとめているLGBTQについて、和田華子さん(青年団)をお招きして勉強会を開催致します。正しい知識がないために、誰かを不用意に傷つけるようなことを少しでも減らせたらと考えます。どなたでも参加可能です。当日オンライン配信もあります。この機会にぜひご参加ください。
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★会場参加、オンライン参加のいずれも途中入場できません。
★オンライン配信では参加者が写り込まないよう配慮いたします。
アーカイブの配信はありません。 <講師によるコメント>
はじめまして。俳優の和田華子と申します。普段は演劇・映像に携わる方たちに向けて『俳優・劇作家・演出家・制作者に向けたLGBTQ勉強会』というものを開いております。LGBTQに関する基礎的な知識、日本におけるLGBTQの現状、表現に携わる仕事をする上で知っておいた方が良さそうな事、どんな現場・仕事場にも当事者は存在している事などをお話しさせて頂いております。今回の『表現の場におけるLGBTQ勉強会』も内容は同じですが、演劇や映像以外の分野の方にも、お役に立てる内容だと感じております。ぜひ、気軽にご参加頂ければ幸いです。どうぞよろしくお願い致します。

ご予約方法:
※3月20日10:00から予約受付開始
※会場参加とオンライン参加でご予約方法が異なります。ご注意ください。
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会場参加:件名に「『LGBTQ勉強会』予約」、本文に「お名前」「メールアドレス」「電話番号」「人数」を明記の上、
dance.kaigi@gmail.com にメールをご送信ください。
・複数名でご予約の場合、全ての方のお名前とご連絡先をお願い致します。
・こちらからの返信をもってご予約完了となります。定員に達し次第、受付を締め切ります。
・予約キャンセルの場合は、お手数おかけしますが、 必ず事前にご一報ください。
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オンライン参加:ダンス作戦会議のSTORES https://dancekaigi.stores.jp にてご購入いただきます。
(決済終了後、当日リンク先の記載された電子チケットをダウンロードしていただきます。)
・ZOOMでの配信を予定しています。ZOOMを初めてご利用の方は販売ページ内の説明をご覧ください。
・お申し込みの際、備考欄にZOOMのログイン名を必ずご記入ください。ZOOM入室の際のご本人確認のため必要になります。
当日は、開催会場での模様をオンラインで配信します。STORESページでは、オンライン配信のご予約のみの受付になります。

お問い合わせ:
dance.kaigi@gmail.com
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協力:SCOOL
主催:ダンス作戦会議

発達障害もいる労働現場 丁寧な筆致で描き出す 青年団リンク やしゃご「てくてくと」(2回目)@こまばアゴラ劇場

青年団リンク やしゃご「てくてくと」(2回目)@こまばアゴラ劇場

てくてくと


 隠された関係性が登場人物の演技の微妙なトーンや発話によって明らかになっていくのが平田オリザ岩松了松田正隆長谷川孝治らが生み出した「関係性の演劇」*1と言っていいが、伊藤毅もそこに連なる作家のひとりと言っていいだろう。こうした手法をとる作家の作品は一度だけ見たのでは「あれは何だったんだろう」と見逃してしまった部分の描写が再度の観劇により明らかになってくることだ。関係性の解像度が複数回の観劇により上がってくるのだと言ってもいいだろう。
 二度目の観劇では障害をかかえる社員の上司で時折部下と軋轢を引き起こしている男(中藤奨)が周囲にはそういう困ったところのある人と思われているようなのが、実は一般採用で雇用されている発達障害を持つ人だったのが彼が部下である女性(石原朋香)を相手にする中で漏らす「クローズ」という一言から分かってくるところだ。
 「クローズ(就労)」とは、障害を持つ人が自身の障害を開示しないまま、企業に就職することだ。反対に、企業に自身の障害を開示して就職することを「オープン(就労)」という。オープンには、障害者枠で就職することに加え、障害を有することを開示し、一般枠で就職することも含まれる。「クローズ」は一般枠で応募し、他の障害を持たない人と同じ条件で仕事をする。障害を有することを開示しないということだ。
 健常者が障害者を差別するという単純な差別構造にとどまらず、クローズやグレーゾーンというカテゴリーの人も劇中に登場させることでクローズの男は自分が努力してきたという自負があるがゆえにグレーゾーンの女性やオープンの人を理解して協力するというよりは厳しく当たってしまい、そこに本人が認識している以上の軋轢を生んでいるということ。グレーゾーンの女性は人間関係から生まれるつらさに守られている発達障害の認定者(オープン)に嫉妬心を起こす。こういう複雑な関係性を伊藤は描き出す。
 平田オリザは「ソウル市民」の中で戦前の漢城に暮らす日本人の一家を描き出すことで日本人としては比較的開明的かつリベラルな考えを持つ一家に潜む朝鮮人への隠蔽された差別感情を描き出したが、伊藤は「てくてくと」は現代人に潜む障害者に対する隠蔽されたあるいは無意識の差別感情を抉り出す。もうひとつの主題は一種のコミュニケーション不全である発達障害には一般人との間に本質的な差異はなくて、両者を線引きするのは現代医学が設けたしきい値のようなものでしかないのではないかということを提示していることだ。それはいわゆる「グレーゾーン」の人から、医学の見地からは問題がなくても性格的にかなり鈍感なところがあり、自らが行っていたいじめ行為に気が付かないような人まで様々なコミュニケーションおける齟齬をはらみながら社会生活は営まれているということ。伊藤はそれをまるで細密描写のように演劇の筆で描き出しているように思われた。

作・演出:伊藤毅

仕事場、私生活。ちっとも上手くいかない。私は他の人と何かが違う。
病院で検査を受けたら、ただの性格の問題と診断された。
僕は/私はどうやら『普通』らしい。
ここからどこに向かえばいいのか。

平田オリザ主宰の劇団、青年団に所属する俳優、伊藤毅による演劇ユニット。
現実で見落としがちである(敢えて目を向けない)シーンを演劇化し、『社会の中層階級の中の下』の人々の生活の中にある、宙ぶらりんな喜びと悲しみを忠実に描くことを目的に、
登場人物の誰も悪くないにも関わらず起きてしまう答えの出ない問題をテーマにする。
団体名の「やしゃご」は、ひ孫の子供くらいになると皆きっと可愛がってくれると思って。

出演

木崎友紀子 井上みなみ 緑川史絵 佐藤 滋 中藤 奨(以上、青年団
石原朋香 岡野康弘(Mrs.fictions) 辻 響平(かわいいコンビニ店員飯田さん)
とみやまあゆみ 藤尾勘太郎 赤刎千久子(ホエイ)

スタッフ
作・演出:伊藤 毅
照明:伊藤泰行
音響:泉田雄太
舞台美術:谷佳那香
チラシ装画:赤刎千久子
宣伝美術:藤尾勘太郎
制作:河野 遥(ヌトミック)
当日運営:高本彩恵(劇団あはひ)
舞台監督:中西隆雄

コロナで中止 渡辺源四郎商店『コーラないんですけど』@下北沢ザ・スズナリ

渡辺源四郎商店『コーラないんですけど』@下北沢ザ・スズナリ

作・演出:工藤千夏
出演:桂憲一(花組芝居)  大井靖彦(花組芝居)  西川浩幸(演劇集団キャラメルボックス)※4月27日~30日出演
植本純米(花組芝居)※5月1日のみ出演

ごあいさつ
  稽古を重ねて、チケットを売り出して、劇場入りして仕込んで、お客様をお迎えして上演する。そんなの、当たり前のことだと 思っていた、昨年までは。
  公演ができないとわかった瞬間、頭の中でガーン!ガーン!と、鐘が鳴り響き、動悸息切れ貧血が一挙に襲ってきた。更年期障害ではない。緊急事態宣言だ。その前日に「本当にダメってなるまで、やります!」と、俳優たちに宣言したばかりだった。なすすべもなく、あっけなく本当にダメになった。そこからGWまでの期間は、キャストもスタッフも、それぞれのお家で自粛。ああ、本当だったら、桂さん、大井さん、西川さん、植本さんと『コーラ』を創っているはずなのに……どうしても、このメンバーで芝居を創りたい!その思いが、留守電ひとり芝居オーディオドラマ『居酒屋じぱんぐ〜みーちゃんの行方〜』を一挙に書かせた。慣れないズームで稽古をして、一人ずつスマホで録音した音源を、盟友・藤平美保子が対面ドラマのように仕上げたその作品を、ザ・スズナリに通うはずだったスケジュールで、毎日、1話ずつ公開していった。あれから、もう、一年近くたつのか。
  人類はまだマスクをしているけれど、万全の感染症対策で、公演を打てるところまで帰ってきた。稽古を重ねて、チケットを売り出して、劇場入りして仕込んで、お客様をお迎えして上演する、そんな当たり前のことをやります。復活の瞬間をザ・スズナリで目撃してください。ザ・スズナリからお届けする空気を感じてください。今、一年越しの思いが熟成する。

工藤千夏(うさぎ庵主宰/渡辺源四郎商店ドラマターグ)

映画「ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒」@丸の内ピカデリー(DolbyCinema)

映画「ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒」@丸の内ピカデリー(DolbyCinema)


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ガメラを憎みイリスを育てる少女・比良坂 綾奈(前田愛)をはじめ前作、前々作にも登場する生物学者中山忍)、ガメラとコミュニケートできた女性・草薙浅黄(藤谷文子)ら女性陣が魅力的だ。

後期クイーン論に向けた序章として(番外編3)  エラリー・クイーン「Zの悲劇」(角川文庫)

後期クイーン論に向けた序章として(番外編3)  エラリー・クイーン「Zの悲劇」(角川文庫)

 クイーンの作品を最初に読んだのが実は「Zの悲劇」だった。というのはマニア傾向のあるミステリファンにはよくありがちなことではあるが、その時点でネタ晴らしの解説本で「Xの悲劇」「Yの悲劇」の犯人像およびあらかたの内容を知ってしまっていたからだ。そして、そのこともあってミステリにもっとものめりこんでいたある時期この作品は私のベスト・オブ・ベストの1冊となっていたのだ。
 「Zの悲劇」の最大の魅力は名探偵ドルリー・レーンのライバル的存在として、もうひとりの名探偵ペイシェンス・サムを登場させたことであろう。このペイシェンスのキャラ設定がなんとも面白い。バーナビー・ロス名義の作品ではブルース地方検事とのコンビで捜査の陣頭指揮をとるペイシャンス警視はエラリー・クイーンにおけるクイーン警視と同じような役割。だとすれば優れた推理力を持つ名探偵ペイシェンス・サムは探偵エラリー・クイーンの女性版といってもいい存在だ。最初に読んだ時にはまだアニメの萌キャラもラノベも出てくる前だったが、時代をへていま改めて読んでみると現代日本なら確実に浜辺美波が演じるであろうようなキャラクターである。典型的美少女キャラであって、その先駆として魅力を感じたのかもしれないと考えている*1

*1:もちろん、ここで指摘するまでもないが、ここでペイシェンス・サムが出てこなければならなかった必然性は「レーン最後の事件」において明確に判明する。役割を担うべき存在が必要だったのだ。

ロロ「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校」@アトリエ春風舎

ロロ「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校」@アトリエ春風舎

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 私が最初に見たロロ(三浦直之)の作品が「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校」(2010年、京都アトリエ劇研)であった。下記は舞台の劇評ではなく、公演からしばらくして大阪で開催したレクチャー「セミネール」*1からの抜粋だ。

『いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校』(2010)

出演:亀島一徳(六) 篠崎大悟(八) 望月綾乃(トビ) 北川麗(露島空) 小橋れな(先生) 崎浜純(蜻蛉) 多賀麻美(クリーム) 三浦直之(みうらこぞう)
脚本・演出/三浦直之 照明/板谷悠希子 音響/池田野歩 衣裳/藤谷香子(快快) 舞台監督/鳥養友美 宣伝美術/玉利樹貴 制作助手/幡野萌 制作/坂本もも

 この映像*2の最初の方に出てくるのが宇宙人らしい霧島空と主人公の六なわけですが、ギターをさして「その、君が背負っているそれは何? 世界?」などというセリフなどは意味ははっきりとはわからないのだけれど、どこかぐっとくるところがあります。もうひとつは一見子供たちの会話劇風の展開からはじまったりはしますが、この舞台全体が三浦が考えるアニメ的なリアリズムの演劇への導入であること。これはつまり、青年団などと比べてみればはっきり分かりますが、大人が小学生を演じるということからして目指しているのが「演劇的リアリズム」じゃないことは明らかです。興味深いのはロロの場合は(小劇場演劇の場合は大人が小学生を演じる際の約束事としてこれまで蓄積されてきたノウハウのようなものもあるのだけれど)そういうものをなんらかの技術によって提示しようともしていない。そこに特徴があるかもしれません。

 ここに書いたようにその後、私が「ポストゼロ年代演劇」と位置付けていった現代演劇における新たな潮流はこの作品を契機に広がっていったということもできるかもしれない。
 「わが星」で岸田戯曲賞を受賞し話題の柴幸男をはじめ、快快(篠田千明)、柿喰う客(中屋敷法仁)、悪い芝居(山崎彬)らポストゼロ年代の作家の台頭により、明らかに新しい傾向が現れるのが2010年以降のことだが、彼らには先行する世代にない共通する傾向があった。

ポストゼロ年代演劇の特徴
1)その劇団に固有の決まった演技・演出様式がなく作品ごとに変わる
2)作品に物語のほかにメタレベルで提供される遊戯的なルール(のようなもの)が課され、その遂行と作品の進行が同時進行する
3)感動させることを厭わない

 もちろん、こうした特徴のすべてが私が当時ポストゼロ年代演劇の作家と考えたすべての作家に当てはまるわけではない。三浦についてもその後ロロを中心に発表してきた作品群を勘案してみれば明らかに様式的な統一感はあり、上の特徴の「1)その劇団に固有の決まった演技・演出様式がなく作品ごとに変わる」というのが当てはまるのかどうかというのは微妙な部分もあるのだが、例えば高校を舞台にした連作青春劇的な色彩が強い「いつ高」シリーズとファンタジー色の強い本公演ではスタイルの違いがあるのも確かなのだ。
 ロロは公演ごとに演目に合わせて俳優を集めるプロデュースユニットの形式をとる劇団が多いこの世代において、日大芸術学部の出身者を主体に旗揚げのころからほぼ出演メンバーが固定した劇団らしい劇団である。それゆえこの「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校」についても初演以降も再演を繰り返してはいたが、初演時とほぼ同じキャストでの再演であった。今回は出演者を全員オーディションで選び、それに合わせて演出も練り直しての再演となった。
演技や演出、そして衣装や舞台美術などが醸し出す世界観はかなり違うのだが、この舞台を見ていると10年以上前にいまはなき京都アトリエ劇研で見た舞台の記憶がかなり鮮やかに蘇って脳内で再生される。それでいてこの作品はいまこれを演じている俳優たちと共にあり、それはそれで間違いない。
今回のようなことはキャストを変えながら、何年もの間上演を繰り返してきた作品では起こることはあるが、「いつだって~」は何年も前に一度だけ観劇した作品で、そうしたことが起きたのは舞台内でギターをかき鳴らしながら熱唱した亀島一徳ら以前の上演キャストがそれほど印象的なものだったということかもしれない。
 今回のキャストで注目していたのが映画版と舞台版の「幕が上がる」と舞台版「転校生」にも出演していた金井美樹。上記の舞台は「幕が上がる」主演のももいろクローバーZのメンバーはもちろん朝ドラ女優の芳根京子伊藤沙莉、吉岡美帆、青年団の井上みなみ、藤松祥子ら逸材が多かったが、この作品に出演していたロロのオリジナルメンバーだった青年団の多賀麻美もその時の出演者のひとりであったという縁もあった。
金井美樹は謎の転校生で宇宙人である(らしい)露島空を演じている。美少女ぶりが際立っていて、非日常的な空気感を醸し出しており、強烈なインパクトを残したのではないか。前に見た時には篠崎大悟の八の望月綾乃のトビの印象が強く、自分が書いた台本を八に読ませるシーンなどが記憶に残ったが、今回は門田宗大と金井美樹のシーンが強く記憶に残り、金井演じる露島空にヒロイン感を感じた。最初から金井に注目していたがゆえの先入観もあるかもしれないが、そういう意味では同じ脚本ではあるがかなり異なる印象だったのも確かなのであった。
作者である三浦直之自身も「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校」は2009年が初演で、「漫画、アニメ、ライトノベルへの愛情を目一杯詰め込んで書いたボーイミーツガールの物語」と作者自身が語っている。特定の作品を下敷きにしたわけではないけれど発表時期から考えても「涼宮ハルヒの憂鬱」など「涼宮ハルヒ」シリーズにかなり強いインスパイアを受けたことは間違いないだろう。転校生、露島空には謎の転校生、宇宙人、一緒にいるエンプティーという謎の存在などの道具立てひとつをとってみても「涼宮ハルヒ」を彷彿とさせる*3。昨年来、「涼宮ハルヒ」シリーズの新作「涼宮ハルヒの直観」が9年半ぶりの新刊として発売されたり、今年は「シン・エヴァンゲリオン劇場版」の公開などゼロ年代を代表するようなオタク系コンテンツの相次ぐリバイバル・リニューアルがある。三浦自身も新海誠のアニメ作品「秒速5センチメートル」(2007年)を朗読劇として蘇らせプロデュース公演として上演するなど上記の動きに力を注いでいる。舞台を見ながら、今回の上演にはそういう意味合いも感じたのである。


脚本・演出:三浦直之

『いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三小学校』はロロ旗揚げ一年目に書いた作品です。僕が10代のころに読んだり観たりしてきた漫画、アニメ、ライトノベルへの愛情を目一杯詰め込んで書いたボーイミーツガールの物語で、これまで何度も再演を重ねてきました。「独白」と「対話」の間にある「告白」について考えるきっかけになった作品でもあります。でも、現在の僕はこの物語をかつてのように肯定することができません。当時の僕と今の僕とでは恋についての考え方が随分ちがっていて、ここで描かれる男性や女性の姿にどうしても違和感を抱いてしまいます。今回の上演で、その違和感にとことん向き合ってみようとおもいます。かつての自分が書いた言葉に今の自分はどんな風に応答できるのか。オーディションを通して新たに出会った俳優たちとじっくりと考えてみます。三浦直之

ロロ

劇作家・演出家の三浦直之が主宰を務める劇団。2009年結成。古今東西ポップカルチャーをサンプリングしながら既存の関係性から外れた異質な存在のボーイ・ミーツ・ガール=出会いを描き続ける作品が老若男女から支持されている。15年に始まった『いつ高』シリーズでは高校演劇活性化のための作品制作を行うなど、演劇の射程を広げるべく活動中。『ハンサムな大悟』で第60回岸田國士戯曲賞ノミネート。代表作に『はなればなれたち』『四角い2つのさみしい窓』などがある。


出演

朝倉千恵子 大中喜裕 門田宗大 金井美樹 関彩葉 高野栞

スタッフ

脚本・演出:三浦直之
音楽:NRQ
美術:伊藤鈴蘭
照明:松田桂一
音響:池田野歩
衣裳:藤谷香子
演出助手:中村未希 神保治暉
舞台監督:黒澤多生 
イラスト:一乗ひかる
デザイン:中西洋子
制作助手:黒澤たける
制作:奥山三代都 坂本もも


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*3:ハルヒ」のことを例示したが、金井美樹が演じる霧島空がUFOに対して出撃する戦闘美少女なのだと考えれば「エヴァ」の綾波唯や「イリアの空、UFOの夏」(秋山瑞人)のイリアが思い起こされるかもしれない。

青年団リンク やしゃご「てくてくと」@こまばアゴラ劇場

青年団リンク やしゃご「てくてくと」@こまばアゴラ劇場

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てくてくと

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伊藤毅による青年団リンク やしゃごは群像会話劇の形式でこれまでも社会に潜むさまざまな問題を描き出してきた。これまでも知的障がいなど演劇が扱うとステレオタイプになりがちな対象を丁寧に描いてきたが、今回の青年団リンク やしゃご「てくてくと」発達障害の人が一般の人と一緒に働く職場(お菓子工場)を舞台にそこで引きおこされる様々な軋轢を描写した。
 発達障害と一言でまとめられても実際にはそこには多様な症例*1が含まれている。この舞台では藤尾勘太郎と井上みなみの2人がその役柄を演じているが、はっきりとどの症例とは明示されていないもののこの2人はタイプの違う発達障害であり、単に類型化されたそういう人物を登場させるだけでなく、おそらくそうした症例の実際例への参照を行ったのではないかと思われるような作りこまれた役作りがやしゃごの特徴だ。そしてそれは青年団で培った繊細な演技・演出能力があって初めて可能になるものであると思われた。
実はそういうことは発達障害の人物の演技にだけ当てはまることではなくて、それぞれの人物の関係性のありようの細密な描写にも該当する。平田オリザはそうした技法で「ソウル市民」で日本人の無意識な差別意識を抉り出すように描いてみせたが、同様に伊藤は障害雇用の制度がある企業における障害者とそうでない人間との間での隠蔽された差別意識を浮かび上がらせたり、そうした関係性は障害者以外の人々にもある関係性のゆがみの一部であり、普遍的に存在するのだということも併せて提示して見せる。そういう意味で青年団所属の演出家・劇作家の中でももっとも現代の問題に対してアップ・トゥ・デイトした形で平田の方法論を洗練させたのが伊藤毅だと言ってもいいかもしれない。
 「てくてくと」が面白いのは単純に発達障害の人VSそうではない一般の人という二項対立を描くのではなく、仕事や他人との関係性の構築に悩む女性、八幡久美(石原朋香)を登場させたことである。
 彼女は与えられたパソコン入力の仕事がうまく出来ずに悩み、仕事場にいる発達障害の社員らの相談役の役割も果たしているジョブコーチ、猿手有紀(とみやまあゆみ)の勧めで専門医の診断を受けるが、発達障害とは診断されない。それでここで障害者雇用で働いている人たちは守られ、優遇されていると怒りを感じてしまう。
 一方で彼女の上司として彼女を一方的に叱りつけて、追い込んでしまう綿引慎也(中藤奨)のことも問題性癖を持つ人物なのだということをあぶり出してみせる。新人同期の小湊絵里(赤刎千久子)も仕事は有能ではあるが、能力が劣る同僚を同情心なく切り捨てるような側面も持っていることを浮かび上がらせる。工場で働く山下直樹(辻響平)は八幡の幼馴染だが、学生時代に八幡を彼女が嫌がっているニックネームで呼ぶことでいじめに加担していた。それに気が付かないほど鈍感な部分があるうえに指摘されても認めない頑なさもあることも八幡との関係で明らかになる。八幡は周辺の人物のゆがみを浮かび上がらせるリトマス試験紙のような存在でもあるのだ。
 伊藤はそれぞれの人物に対して、ある意味冷静で突き放したような筆致でもって、この企業で起こっている出来事を描写していく。平田オリザはサル学研究の研究室で起こる出来事をまるで動物園で動物を観察するように人間の関係性を観察した演劇に自ら「バルカン動物園」の表題を付けたが、「てくてくと」も障害者と一般人が一緒に働く会社の仕事の現場を動物園で動物を観察するように提示した演劇といえるかもしれない。

作・演出:伊藤毅

仕事場、私生活。ちっとも上手くいかない。私は他の人と何かが違う。
病院で検査を受けたら、ただの性格の問題と診断された。
僕は/私はどうやら『普通』らしい。
ここからどこに向かえばいいのか。

平田オリザ主宰の劇団、青年団に所属する俳優、伊藤毅による演劇ユニット。
現実で見落としがちである(敢えて目を向けない)シーンを演劇化し、『社会の中層階級の中の下』の人々の生活の中にある、宙ぶらりんな喜びと悲しみを忠実に描くことを目的に、
登場人物の誰も悪くないにも関わらず起きてしまう答えの出ない問題をテーマにする。
団体名の「やしゃご」は、ひ孫の子供くらいになると皆きっと可愛がってくれると思って。


出演

木崎友紀子 井上みなみ 緑川史絵 佐藤 滋 中藤 奨(以上、青年団
石原朋香 岡野康弘(Mrs.fictions) 辻 響平(かわいいコンビニ店員飯田さん)
とみやまあゆみ 藤尾勘太郎 赤刎千久子(ホエイ)

スタッフ
作・演出:伊藤 毅
照明:伊藤泰行
音響:泉田雄太
舞台美術:谷佳那香
チラシ装画:赤刎千久子
宣伝美術:藤尾勘太郎
制作:河野 遥(ヌトミック)
当日運営:高本彩恵(劇団あはひ)
舞台監督:中西隆雄

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*1:発達障害は行動や認知の特徴(「特性」)によって、様々な個別の障害に分類される。主なものとしては、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)の3つがある。