下北沢通信

中西理の下北沢通信

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嘘をついているという現象自体を、嘘の中身と同等に扱う 青年団若手自主企画vol.88 宮崎企画「東京の一日」(2回目)@アトリエ春風舎

青年団若手自主企画vol.88 宮崎企画「東京の一日」(2回目)@アトリエ春風舎


「東京の一日」の当日パンフ掲載の文章で宮崎玲奈は「歪みの知覚についての覚え書き」という文章を書いている。これがなかなか興味深い。一種の演劇論で自らの方法論を語っているのだが、これがかなり明晰かつ確信犯でこれほど自覚的に自らの方法論を表現できる人は現代口語演劇について語った平田オリザ以来ではないかと衝撃を受けた。以下、一部を抜粋してみる。

「演劇において嘘をつくことは当然のように行われているけれど、嘘をついているという現象自体を、嘘の中身と同等に扱いたいと思っています。これまで、演劇の嘘のつけなさを『歪みの知覚』と言ってきました。
<歪みの知覚>
いないことがいることになり、ないことがあることになる、現前することで見られるそれらの嘘、『歪みの知覚』は俳優を主導にして、動作がはじまること、その場が規定されていくことで有機的に働くのではないか。『歪みの知覚』は逆説的に、嘘をつかない、ということにもつながっているのではないか。『歪み』とは、あくまでも、『ない』という前提の上でわたしたちはやっていますよ、ということなのだ。

初回観劇後の感想でこの作品には中心点がない、と書いたが二度目の観劇と上記の文章を読み直したことで、この作品の中に一種の特異点として存在しているある人物の存在に気が付いた。それは黒澤多生が演じている自主映画を撮ると称してビデオカメラを回し続けている男の存在である。
三カ所ほど挟み込まれた「これからわたしの人生の話をします」に始まるモノローグ以外は「東京の一日」は通常の会話体(現代口語)によって構成されている。つまり、そこには例えば「三月の5日間」のチェルフィッチュがそうであるように伝言の形式をとることでモノローグにダイアローグが混じりこんでくるようなことはなくて、平田オリザ流の群像会話劇の形式で進行していく。
一場固定であることが多い平田作品とは違い、この作品はロードムービーのように舞台が次々と移動していくうえに時間軸もシームレスに跳躍するためにいまの会話がいつどこであったのかが、分かりにくくなっている。これを補完するのが映画を撮る男で彼はそのセリフのなかで通常の周囲の人間との会話以外に「、、、木、、、コンビニ、、、トーキョー、、、チョウフ、、、杉の木子ども公園、土、水、、、骨になる人間、、、ちっぽけな存在、、、思考」などと場所の記憶などを独白していく。さらに自分の撮っている映画についてことかどうかよく分からないが「伊藤くんの映画は伊藤くんという架空の人物の視点、場所に関しての映画である」とも語る。脚本の注釈によればこれは大木裕之の「松前君の映画」シリーズからの引用のようでもあるのだが、ここに来てこの作品自体が「伊藤君の映画」という映像作品なのかとも思えてきて、物語上の虚実が反転して「伊藤君という人物は実在していたのか、あるいは映画に登場している架空の人物にすぎないのか」などがよく分からないということになってきてしまうのだ。

作・演出:宮崎玲奈


東京の一日。
住んでいる人、やってきた人、深夜のコンビニ、渋谷、部屋、それぞれの場所、若者たちに等しく訪れる朝と夜。数年でも数百年でも数億年でもある、一日の話。

2015年から2021年現在まで東京を生活圏にしています。15年以降触れてきたカルチャーの話を書きたいと思ったのが、この戯曲のきっかけでした。一日の話ですが、そこには過去も未来もあって、ごちゃまぜで、楽しいこともつらいことも現在形で進む。震災以降の東京に住む若者たちの話です、よろしくお願いします。

宮崎企画
劇作家・演出家の宮崎玲奈が作品を上演する団体。日常会話とそこからはみ出る意識の流れ、演劇における虚構とリアルとの境界を探りながら創作を行う。過去作に、『つかの間の道』(2020.1)、『忘れる滝の家』(2021.3)など。土地に着目した物語と、3場以上の空間を同時進行させる作劇が特徴。

出演

立蔵葉子(梨茄子)* 石渡愛* 黒澤多生* 南風盛もえ*  伊藤拓* 黒澤優美 藤家矢麻刀 渡邉結衣 宮崎玲奈 =青年団

スタッフ

舞台監督:黒澤多生*、蒼乃まを*
照明:緒方稔記(黒猿)
音響デザイン:SKANK/スカンク(Nibroll
衣装:坊薗初菜* 
空間設計:渡辺瑞帆* 
演出部:渡邉結衣 
制作:河野遥(ヌトミック)
宣伝美術:江原未来  
総合プロデューサー:平田オリザ 
技術協力:大池容子(アゴラ企画) 
制作協力:木元太郎(アゴラ企画)
(*)=青年団

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