下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

70年代末の大学生の青春描く音楽劇 同時代生きた懐かしさとせつなさ 音楽劇『ミルクマンの朝は早い』@新宿スペースゼロ

音楽劇『ミルクマンの朝は早い』@新宿スペースゼロ

f:id:simokitazawa:20211207132132j:plain
 「造反有利 清秋大民主青年同盟」「東洋思想研究会」「テニスサークル LEMON」「落語研究会 清秋亭」「ブリティッシュロック研究会」「スキーサークル ホワイトナイト」……。舞台の客席側には当時大学に置かれていた立て看板が舞台狭しと置かれている。最近はどうなのかは分からないが、この舞台の時代設定である1978年にちょうど私も京都大学に入学していたので、懐かしいことこのうえない気分となった。
 作品の舞台は東京の架空の私立大学(清秋大学)となっている。脚本・演出を手掛ける堤泰之(プラチナ・ペーパーズ)は舞台の設定と同じ1978年に東京大学に入学している(中退)ので、駒場小劇場時代の夢の遊民社を実際にその目で見ている可能性が高い。演劇活動についてのくだりでは自伝的な要素もかなり盛り込んであるようで、演劇をやっている学生たちがつかこうへい→唐十郎野田秀樹と影響を受けていくあたりはかなり戯画化はされているようには思うけれども、当時の学生演劇の雰囲気を反映している部分もありそうだ。
 同じ年に京都大学に入った私は当時はまだ現在ほど有名ではなかった京大推理小説研究会*1に入部し、犯人当て*2などの創作活動や批評活動*3に真剣に力を尽くしていた。私は演劇やダンスなどを対象に批評的活動を続けているが、その原点はミステリ作品に対する批評にあった。
 演劇に関して言えば当時京都大学では辰巳琢郎つみつくろう)率いる劇団そとばこまちが学生演劇として人気を誇り、生瀬勝久、山西惇らその当時の俳優陣は現在もその顔をテレビで見ることができるほか、上海太郎舞踏公司を設立した上海太郎蒔田光治(安田光堂)、小松純也らテレビディレクター・プロデューサー、脚本家などとして活躍した人材がそれほど石を投げたら当たるほど集まっていた人材の宝庫であった。この舞台にも登場するつかこうへい、唐十郎野田秀樹もそうだが小劇場劇団あるいはその母体となる学生劇団というのはひとりのカリスマ的な才能によるところが大きいのだが、劇団そとばこまちはそうではなかったのがユニークなところで、「つかからシェイクスピアまで」という当時のキャッチフレーズからして、今風に言えば総合エンターテイメントを標榜していた。私は当時実際に「夏の夜の夢」(同志社大新町学館)を見ているが、ダンスシーンは上海太郎がこの場面は川下大洋が中心になってなどとひとりの演出家によってではなく、ごった煮のようにいろんなアイデアが盛り込まれたそれこそなんでもありの楽しい舞台であったという記憶が残っている。
 1980年代の大学で部活動をしている学生たちを描いた群像劇はケラリーノ・サンドロヴィッチが「ライフ・アフター・パンクロック」「カメラ≠万年筆」の連作で描いたことがあり、ディティールから立ち上げて時代の空気そのものを描き出すという意味でそれを「近過去劇」*4と呼んだ。この音楽劇『ミルクマンの朝は早い』@新宿スペースゼロもコンセプトとしてはそれに近い部分がないではないが、ディティールの再現という意味では物語の中心を演劇サークルに持ってきたせいか作者の視点は時代へのオマージュというよりは少しノスタルジーに傾いて「時代の空気感の再現」という意味ではそこまで徹底していなくて、そこのところが惜しまれた。ただ、ケラとナイロン100℃の場合とは違い若いキャストにとってはもはや歴史の一コマでしかないのも確かなのであろうし、実際にその時代の空気感を知っている私からすると「そうそう」と思うこともあるけれど、キャンディーズの解散にしたって、ポスターが部屋に貼ってあったけれど楽曲は流れなかったし、当時の音楽やカルチャーも名前出しただけでは伝わらないだろうと思うこともないではない。
 音楽劇ということでオリジナルの楽曲(音楽・吉田さとる)を出演俳優が歌うという構成になっていることもあってか、劇中に当時の音楽が流れるようなこともあまりない。映画じゃないのでそういうのは難しいのかもしれないが、細部を積み上げての一環としてはオリジナルの楽曲だけでなく、もう少し当時の楽曲を取り入れるようなことはできないかと思った。イッツフォーリーズというミュージカル劇団を主体に作られているため、キャストの歌がうまいことには感心させられたが、その分作り物感は増して、時代のリアリティーは後退してしまったかもしれないのが悩ましいところである。
 この作品は演劇やロック、学生運動など様々なことに熱中する若者たちの青春を描いていくけれど、中心でそれを見ているはずの主人公だけは何もしていない。そして、最後にそれがいたたまれなくなった主人公は就職するのを先延ばしして、立て看板に標語のようなメッセージを書くということをはじめる、というところで終わるのだが、申し訳ないがどうにもピンとはこない。ただ、マスコミに就職したけれど結局後輩のように作家になることもできず、そとばこまちの人たちのように有名人になることもなかった。自分の身に引き付けて見てしまうと苦さも感じるエンディングでちょっとせつないのだった。

◆あらすじ◆

1978年、僕は大学に入学するため上京した。
無気力・無関心・無責任、オマケに無感動・無作法の五無主義上等!
どうせ僕らは“しらけ世代“。

1970年代、学生時代を謳歌する若者たちの青春群像コメディ!

キャスト
神澤直也★(イッツフォーリーズ
芹沢尚哉★
金子大介
仁木祥太郎(テアトル・エコー
大本泰駕★
宮田龍平★

神野紗瑛子★(イッツフォーリーズ
春山 椋
水島麻理奈
櫻井しおり★
藤白レイミ

岩城風羽(イッツフォーリーズ
加藤 梓(イッツフォーリーズ
吉田美緒(イッツフォーリーズ

熊谷 嶺
吉田 雄(イッツフォーリーズ

田上ひろし(SET)

★=育成対象者(芸歴10年以下の次代を担う新進芸術家)

脚本:堤泰之(プラチナ・ペーパーズ)
演出
堤泰之(プラチナ・ペーパーズ)
スタッフ
音楽/吉田さとる
美術/本江義治
振付/明羽美姫(イッツフォーリーズ
照明/倉本泰史(エアーパワーサプライ)
音響/返町吉保(キャンビット)
衣裳/武藤銀糸
歌唱指導/藤森裕美(イッツフォーリーズ
舞台監督/岩戸堅一(アートシーン)
プロデューサー/土屋友紀子(※「土」 の字の右上に「、」)松本崚汰(以上、オールスタッフ)
日 時
2022年1月26日(水)~1月30日(日)

2022年
1月26日 (水)19:00
1月27日 (木)14:00/19:00
1月28日 (金)14:00
1月29日 (土)14:00/19:00
1月30日 (日)14:00

会場は開演の45分前
会 場
スペース・ゼロ
東京都渋谷区代々木2-12-10 こくみん共済 coop 会館(全労済会館)
JR新宿駅南口 徒歩5分
京王線新線/都営大江戸線/都営新宿線新宿駅6番出口 徒歩1分
主 催
文化庁
公益社団法人日本劇団協議会
入場料
全席指定/税込

前売 5,000円
当日 5,500円
U25 3,500円(25歳以下、要当日年齢証明)
HC割 3,500円(障害者手帳をお持ちの方と介助の方1名)

※未就学児のご入場はご遠慮ください
※U25はカンフェティ、オールスタッフのみ取り扱い
※HC割はオールスタッフ事前電話受付のみ。
チケット取扱い
発売中!

オールスタッフ WEB予約  03−5823−1055(平日11:00〜18:00)
ぴあ 0570−02−9999 ( ぴあ電話受付は2021年の12月31日まで)
イープラス
カンフェティチケットセンター  
スペース・ゼロ チケットデスク
協力
イッツフォーリーズ、ウイントアーツ、M・Tプロジェクト、太田プロダクション、ギフト、サンズエンタテインメントスーパーエキセントリックシアター、スペースクラフト・エージェンシー、Spacenoid Company、テアトル・エコー、TRUSTAR
お客様へのお願い
マスク着用や咳エチケット等、基本的な感染症対策にご協力いただく他
今後の状況に応じて、ご来場頂く皆様が、安心してご観劇いただけるよう、
感染症対策に努めます。
何卒、ご理解ご協力の程よろしくお願い申し上げます。

最新情報は当ホームページをご確認ください。
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ
ガイドライン

東京都「感染防止策チェックリスト」を掲載いたします
東京都イベント開催時チェックリスト
お問い合わせ
オールスタッフ 03-5823-1055(平日11:00-18:00) 
日本劇団協議会 03-5909-4600(平日10:00-18:00)

*1:その後、後輩から綾辻行人法月綸太郎我孫子武丸麻耶雄嵩らが相次いでミステリ作家としてデビューした。

*2:simokitazawa.hatenablog.com

*3:simokitazawa.hatenablog.com

*4:simokitazawa.hatenablog.com