下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

異世界の奇妙な生物連想させる不思議ダンス 関かおり PUNCTUMUN『こもこも けなもと』@吉祥寺シアター

関かおり PUNCTUMUN『こもこも けなもと』@吉祥寺シアター

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www.youtube.com
 関かおりの作品を見るのはかなりひさしぶりだったが、今はこんな風になっているのかと『こもこも けなもと』に少し驚かされた。コンテンポラリーダンスといっても最近はバレエやストリートダンス、舞踏など既存のダンスのテクニックを活用したものが多い*1なかで、ちょっと位置づけに当惑するような独自性を持つダンスといっていいだろう。見ていると人間ではない、何か異世界に棲む奇妙な生物の生態系を演じている*2ようにも感じるが、動きのどこを切り取っても具体的に何かの動物の形態を真似るマイムでもないし、かといってほとんどの場面で伴奏の音楽はなく、そこに同期するわけでもない。
 「こうではない」ということはいえても「こうである」ということを的確に言い表すことが難しいのは、私の語彙の貧しさもあるが、それ以上にかつて見たどのダンスとも似ているところがないという特性を表しているかもしれない。
 前回見た「ひうぉむぐ」の時には「個々の身体が顕わに晒されるような内容になっているため、この作品を踊るに耐える身体的な訓練をされたダンサーしか踊れない作品といっていい」としており、個々のダンサーの個別の身体表出に焦点が合うように見ていたが、『こもこも けなもと』はまったく違う。ダンサー(というかもはやパフォーマーと呼んだ方がいいのかもしれないが)の個々が例えばある種の舞踏表現のように緩やかな動きのなかで身体の様相の変化を見せていくということさえ、すでになくて、むしろ、どの人をとって見ても、そこに人間ではない何かの生き物がいるという風にしか見えなくて、例えば舞踏の踊り手が何か人間以外の生き物を演じる時のような身体の表出は排除されていて、むしろ、動きの種類としては中腰になって手足をゆっくりと動かしながら少しづつ前進するとか、それをひとりだけでなく、ふたりの演者が組み合わさってやるとか、組体操のような集団での演技とかがあるが、その動きや身体表出が凄いというよりは、そういう部分で特筆すべきところがないことが空の器のように作用して、観客を刺激し、そこから何かを想像するためのトリガーとして働く。実際にそこで想像されているものは人によってまったく異なるのかもしれないと思った。
 作品後半には少しだけ音楽が使われていて、特に「瀕死の白鳥」が使用された部分は今回の作品の身体的語彙を生かしたままで、それを演じて見せるようなところもあり、一種の諧謔味が生み出されて、全体的にはフラットな構造の作品の中ではアクセントになっていた。

【こもこも】:多くのものが入り混じっているさま。互いに入れ替わって。

【けなも】毛なもの、おとなしい

【kena】喉の渇きをいやした、欲望を満たした、疲労した

【け】気、日々

【な】:大地、触れたものの表面

【もと】:元、最初に返る

【と】:処、たくさん


形がないものに触れるような、 目に見えないものを数えるような、
切れ目のないまま続いていくような「人間」と「私たちのいる世界」

これまで欧州数都市、モントリオール、釜山、NYで上演を行い、
国内外で活躍する振付家・ダンサーの関かおり率いる
"関かおりPUNCTUMUN(プンクトゥムン)"が、吉祥寺シアター初登場。

ヒトやその他の動植物の生態や感覚機能に興味を持ち、
嗅覚から得る刺激を含めた作品に取り組む関かおりの最新作を上演します。

[関かおり]
5歳よりクラシックバレエを学び、18歳よりモダンダンス、コンテンポラリーダンスを始めると同時に創作活動を開始。2003年より作品を発表し、13年関かおりPUNCTUMUN(プンクトゥムン)設立。近年はヒトや動植物の生態や感覚機能に興味を持ち、嗅覚から得る感覚などを作品要素に取り入れた作品を国内外で上演。12年岩渕貞太との共作により横浜ダンスコレクション若手振付家のための在日フランス大使館賞、トヨタコレオグラフィーアワード2012次代を担う振付家賞、13年エルスール財団新人賞、17年日本ダンスフォーラム(JaDaFo)賞2016受賞。公益財団法人セゾン文化財団14~17年度ジュニアフェロー。主な作品:『むくめく む』(2020)、「うとぅ り」(2017)、「を こ」(2016)、「ミロエデトゥト」(2014)、「アミグレクタ」(2013)、「マアモント」(2010)。

[関かおりPUNCTUMUN / Kaori Seki Co. PUNCTUMUN]
PUNCTUMUN(プンクトゥムン)は、ラテン語のPunctum「小さな点、点紋、刺し傷」とフランス語のun「1つの」からの造語。1つの中に小さな無数の点があつまることを意味する。2017年以降、モントリオール(カナダ)、香港など海外からの招聘も多数。2019年、8月、イタリア、ドイツから招聘され、「WO CO(を こ)」を上演。2021年10月京都エクスペリメントにて「むくめく む」上演。

[振付・演出] 関 かおり

[出演] 内海正考 大迫健司 北村思綺 後藤ゆう
佐々木実紀 清水 駿 髙宮 梢 真壁 遥

[振付助手] 後藤ゆう [舞台監督] 湯山千景
[照明] 髙田政義(株式会社RYU) [サウンドデザイン] 安藤誠英 [衣装] 萩野 緑
[香りの演出協力]吉武利文(香りのデザイン研究所)
[宣伝美術] 殿岡 渉(あしか図案)

主催・企画・制作:団体せきかおり
提携:公益財団法人 武蔵野文化事業団
助成:芸術文化振興基金 アーツカウンシル東京 公益財団法人セゾン文化財

simokitazawa.hatenablog.com

*1:既存のテクニックを否定しているわけではなく、ファーサイスがバレエのテクニックを脱構築したようにそういうもののなかにも優れた表現は数多くある。

*2:最初に連想したのはスタニスワフ・レム「エデン」や「シュテュンプケ氏の鼻行類」だが具体的な類似があるものが出てくるわけではない。