下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

舞台『夜は短し歩けよ乙女』@配信

舞台『夜は短し歩けよ乙女』@配信

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黒髪の乙女役の久保史緒里(乃木坂46)がいい。劇場ではあまり細かな表情までは見えなかったが、それが分かる配信で再確認して確信を持った。女優として大化けするに違いない。乃木坂46の出身者はAKB48グループなどと比較しても卒業後、女優として活動する人が多いと感じるが、それは才能ある劇作家、演出家との出会いをコーディネイトする運営側の力量が大きいと考えている。ももクロが好きなのでスターダストプラネットのアイドルたちを応援しているのだが、正直言って演劇を経験させるのはいいけれど、その時にはその世界でトップ級の人のものでないと意味が薄いと演劇の専門家としてはどうしても考えてしまう。舞台参加が増えているだけにスタプラの運営はそこのところをもう少し考えた方がいいと思う*1

*1:SMAPがこの道を切り開いたと言っていいが、さすがにジャニーズの演劇ネットワークは凄い。そういえば「フォーティンブラス」もひさびさに再演するが、無名時代に舞台にたった井ノ原快彦のことを今でも思い出す。

佐々木彩夏ソロコンサート「AYAKA NATION 2021 in Yokohama Arena」@神奈川県・横浜アリーナ

佐々木彩夏ソロコンサート「AYAKA NATION 2021 in Yokohama Arena」@神奈川県・横浜アリーナ

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同じ会場(横浜アリーナ)のバレンタインイベントには来場しているものの、佐々木彩夏ソロコンサート「AYAKA NATION」は昨年はコロナ禍で中止を余儀なくされ、配信の「A-CHANNEL」*1となったので2年ぶりの参戦となった。佐々木彩夏演出によるソロコンは毎年ももクロライブの中でももっとも凝った演出が特徴だ。ストレートに楽曲を披露していくに留まらず毎年異なる世界観を打ち出し、会場全体を染め上げていく。
「A-RIN KINGDOM」(「あーりん王国」)なる新曲も配信されており、大好きだという映画「ローマの休日」のように王女様に扮するのかなというのが会場に来る前の予想だったが鮮やかに裏切られた。
テーマに選ばれたのは「あーりん美術館」。ももクロは「ミュゼ・ドゥ・ももクロ」という美術番組をテレ朝動画系で配信しており、もともと美術好きで展覧会などに好んでいくことが多かった佐々木はより一層美術への傾斜を深めてきた。それが背景にあるのは間違いないだろう。
冒頭の映像では例年ライブの世界観が提示されるのだが、今回は特にその部分に力が入っていた。映像はなんと本物の東京国立博物館をロケ地として、その内部で撮影されており、ドレスアップしてそこにやってきたあーりんが、壁に据え付けられた4つの額縁の前に立つ。しかし、額縁の中はまだ真っ白で絵は見えない。そこからパフォーマンスが展開され、それが終わり、再び絵の前に立つと額縁の中には絵画作品が忽然と現れる。それまでのパフォーマンスがその絵画をイメージしたものであったことが初めて分かるという仕掛けなのだ。
「美術大好き」というあーりんが自分の好きな絵画作品4つを選び、それぞれの作品からイメージされる衣装、楽曲、照明などを決定し、ステージ上に絵画を描くように展開していく。いかにもあーりんらしい主題ではあるが、それだけではないのではないか。ライブを美術展に準えたのはコロナでコールも禁じられ、静かに見ざるをえない観客に対し全員が黙って静かに作品を見ている美術の展覧会でも心の中では「凄い」とか「きれい」とか「いったい何を描いたものなのだろう」というような様々な心の声が渦巻いているように、こんな時だからこそ美術展のようにライブも楽しんでみてもいいのではないか。これが演出である佐々木彩夏の提案なのだろう。

あーりんが選んだのは次の4枚である*2

①モネ『散歩、日傘をさす女』*3
ゴッホ『ひまわり』*4
ミュシャ『連作≪四つの花-薔薇≫』
ルノワールムーランド・ラ・ギャレット(の舞踏会)』

最初の場面では日傘に青みがかかったストライプ模様のドレスで登場し、「Generade」「Early SUMMER!!!」とスロー、ミディアムテンポのソロ曲をたっぷりと歌いこんだ。さらにももクロのラップ曲「Sweet Wanderer」をソロで歌い、最後には「空でも虹でも星でもない」を客前では初めて披露し、昨今の歌唱力の向上ぶりを見せつけた。もちろん、まだその域にはないことを承知で言うのだが、毎年じりじりと浜崎あゆみ松田聖子らあーりんが憧れる歌姫たちのパフォーマンスに近づきつつある。そう思える今回の歌だった。
 次に展開されたのは「SPECIALIZER」「境界のペンデュラム」「サラバ、愛しき悲しみたちよ」「Bunny Gone Bad」とロック系の楽曲を集めたゾーン。アメフラっシ、B.O.L.T.からの4人を従えての5人フォーメーションの「サラバ、愛しき悲しみたちよ」をひさびさに見ることができたのはムネアツなことでもあった。聞かれても「そんなことは考えてなかった」と言いそうだが、ファンの隠された願望をさりげなく拾い上げてみせるのが佐々木彩夏演出の真骨頂なのだ。
ここで纏っているのが鮮やかな黄色の衣装で、あーりんに映えるというかとても魅力的なのだが、玉井詩織の担当カラーということもありももクロライブではけっして着ることはない色合い。衣装の一部にはひまわりがあしらってあり、ゴッホ『ひまわり』にちなんだ場面であったことが了解される。
楽曲の構成も例年とは違った。いつものようなカバー楽曲はなく、自らのソロ曲とももクロの楽曲のみで構成されていた。ももクロ本体もライブができずにファンがライブを待ち望んでいることなども勘案したもののようだ。そういう意味では一種のジュークボックスミュージカルのようなショーの構成といえると思う。
ソロコンサートのもうひとつの愉しみは恒例となった後輩グループの参加だ。今回は3つのグループ(アメフラっシ、B.O.L.T.、CROWN POP)を共演者として招き、一緒に場を表現していくダンサーに起用するなど、ショー仕立てで展開する楽しいライブとなった。演出家佐々木は最初のソロコンからプロのダンサーなどを使わず、後輩のアイドルを起用するなどのこだわりを見せてきたが、最初は年少の子供たちに大きな会場に立つ貴重な経験の場を与えるという趣旨が強かったと思う。しかし、彼女たちも成長、今回のライブではそれぞれのグループがその持ち味を発揮するなど、一緒に舞台を作り上げる仲間という表現がふさわしいまでに到達した。とはいえ、参加した後輩の全員がかつてEXILEのバックダンサーとしてこの会場に立った有安杏果がソロコンでこの会場に立ったように「いつか自分たちだけの力でここに立ちたい」との思いを新たにしたのではないだろうか。
3つ目のブロックは再びバラード中心だが、ここではあえてバックダンサーは使わず、歌姫的アイドルへの憧れを表現した。MCでは「桃色空」への思いを語り、「ピンクなんだから自分の歌みたいなものなのだが、その割には歌割りが少ないのが不満だった」のコメントに思わず笑ってしまった。
 最後はCROWN POP(クラポ)とのブロックでダンスを得意としいろんなタイプのダンスに対応ができるクラポの魅力を存分に引き出した。クラポ自身が行っているパフォーマンスではあまり見ることがないキュートなところを引き出しているのが、佐々木彩夏演出の卓越したところで、当日は席が遠くて十分には汲み取れなかった細部もアーカイブを見て堪能したいと考えた。

佐々木彩夏ソロコンサート『AYAKA NATION 2021 in Yokohama Arena』
2021年6月27日(日)
<セットリスト>
あーりんちゅあ
1.Grenade
2.Early SUMMER!!!
3.Sweet Wanderer
4.空で虹でも星でもない
5.SPECIALIZER
6.境界のペンデュラム
7.サラバ、愛しき悲しみたちよ
8.Bunny Gone Bad
9.月色Chainon
10.桃色空(ルビ:ピンクゾラ)
11.Memories, Stories
12.My Cherry Pie(小粋なチェリーパイ)
13.My Hamburger Boy(浮気なハンバーガーボーイ)
14.Girls Meeting
15.A-rin Kingdom
<ENCORE>
16.あーりんは反抗期!
17.仕事しろ
18.ハッピー♡スイート♡バースデー!
19.あーりんはあーりん♡
20.だって あーりんなんだもーん☆

※2021年7月1日(木)20:00 〜 2021年7月31日(土)23:59の期間でニコ生にて再配信を実施いたします
【再配信詳細】
佐々木彩夏コンサート「AYAKA NATION 2021」再配信
配信日時:7月1日(木)20時00分~
タイムシフト視聴期間:7月31日(土)23時59分まで
配信URL:https://live.nicovideo.jp/watch/lv332482783

出演:佐々木彩夏、アメフラっシ、B.O.L.T.、CROWN POP
2021年6月27日(日)
会場:神奈川県・横浜アリーナ

open.spotify.com

*1:

*2:ネット上などでは全部印象派で統一しないのはおかしいとか、なぜ系統の違うミュシャが入っているのなどの声も散見されたが、この作品は美術批評でもなんでもない。そんなことを指摘するのは野暮の極みではないか。

*3:casie.jp

*4:media.thisisgallery.com

アメフラっシ、いぎなり東北産、B.O.L.T 、ばってん少女隊らスタプラの精鋭が集結。しゅかしゅん、まなみのりさ、Task have Funら実力派アイドルと対決 GIG TAKAHASHI2@STUDIO COAST

GIG TAKAHASHI2@STUDIO COAST

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アイドルフェスとはどういうものなんだろうという探求(自分的にはフィールドワークと呼んでいる)のために最近いくつかのアイドルフェスを見て回っているのだが、そうした中ではGIG TAKAHASHIはかなり毛色の違う選択基準で出演アイドルを決めているのではないかと思った。
企画者がもともとももクロと多くの仕事を手掛けてきた人物*1でその関係でスターダストプラネットのアイドルが今回もB.O.L.T 、アメフラっシ、ばってん少女隊、いぎなり東北産と4組もブッキングされていて、準スタダフェスの様相を呈していたのに加えて、それ以外のグループも大阪☆春夏秋冬 、 九州女子翼 、Task have Fun、ゆるめるモ !、まなみのりさとただ可愛いとかきれいとかだけ以上にライブに強いと言われる実力派のグループが顔を揃えていたからだ。
 そういう意味ではこの日の各グループのパフォーマンスの盛り上げ方は参加したスタプラのグループにとっても非常に有益な学びの場になったのではないかと思った。
 そういう中でB.O.L.T はトップバッターに置かれていたということもあり、いつも通りのパフォーマンスで盛り上げ、場を温めるという意味でも重要なタスクを確実に遂行したと思う。ここのグループの一番のフックはどこの会場に行っても最年少であることが多い年少組のあやなのコンビ(青山菜花・白浜あや)の元気溢れるパフォーマンスだ。現時点のパフォーマンスに目が引き付けられるに加えて、継続的に何度か見ていると短期間での成長の度合いが凄まじい。完成度の高いパフォーマンスはもちろん魅力的だが、こういうのがアイドルならではの魅力なのは間違いない。
 とはいえ、この日見た中で抜群のステージングの見事さに舌を巻いたのが二丁目の魁カミングアウトである。ゲイアイドルと宣言した新奇さはもちろんあるし、女性アイドルばかりが集められたフェスに参加したことで注目を集めるということはあるが、歌やダンスの実力はもちろん前提だが、コロナ禍という困難な状況をものともせずに観客を巻き込み、盛り上げていくステージングのスキルの高さが素晴らしいと思った。ももクロなどは例外としても過去にライブをフェスで経験した中ではこれに近いレベルの観客の盛り上げ方を体験したのはゴールデンボンバーぐらいであろうか。メンバー全員が歌って踊れるというのはより優位な点があると、時代も彼らにとってフォローの風が吹いている。ヒット曲を出すことでもあれば一気に人気大爆発する可能性はあるのではないか。ただ、キャラが立ちそうなだけに単なる色物とされないためには周到な戦略は必要だと思う。
 九州女子翼は4人編成でボーカル力の高いメンバーを複数そろえているという意味でこの後にやることになっていたアメフラっシと共通点があり、それがちょっと気にかかっていたのだが「九州から呼んでくれたのでかならず爪痕を残す」とのメンバーの言葉通りの素晴らしいパフォーマンスを展開した。アメフラっシを応援してきた立場としてはこれまで見てきたアイドルフェスの中では彼女らに匹敵するようなスキルの高さを感じさせるグループはほとんどいなかったが、九州女子翼はいままでアメフラっシが体験した中では実力、気迫ともに最強の刺客といっても良かったかもしれない。

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 しかも、「さまざまな苦境を迎えても私たちは負けないで歌い続けるぞ」という最後の曲の「空への咆哮」のメッセージがアメフラっシの最近のライブで切り札としていた「Staring at You」と似ている部分もあり、下手をすれば二番煎じ感が出て九州女子翼の好パフォーマンスの前に飲み込まれてしまうんじゃないかと思わせれたからだ。
 だが、私はここから現在のアメフラっシの真の実力を目の当たりにすることになる。なんと1曲目はいつものようなロックチューンではなく、新曲「Sensitive」。STUDIO COASTは大箱のクラブとしても使われる音響のいい会場であるから、それを活用してタテのりで盛り上げるようなロック系の楽曲をあえて外して、「Bad Girl」「メタモルフォーズ」など高度にスキルフルな最近の洋楽的な楽曲、ダンスミュージックを続け、前のパフォーマンスの余韻を一瞬にして消し去ってみせた。
 もちろん、九州女子翼が披露したようなロック系の盛り上げ曲で対抗すればそれもできたとは思うが、場に合わせて様々な対応ができるだけの実力をすでにこのグループはそなえており、どうしたらそこに出られるかという問題はあるとはいえ、野外の大規模ロックフェスなどどこに出しても、あるいはどんなグループと対バンしても見劣りしないだけの実力を備えつつあるのではないだろうか。興味深かったのは前の座席にいた別のグループのものと思われるペンライトを持っている女子オタが次第にアメフラっシに惹かれていくのをリアルタイムで目撃したことだ。人垣から覗き見るように愛来をガン見していたほか、最後にはアメフラっシのトラのポーズを一緒にやっていた。こういう人が大勢いるようなところにターゲットを変えた方が新しいファンを獲得するのにはいいのではないか。
 そして、その次のゆるめるモ!が面白い。アメフラッっシが圧巻パフォーマンスを終えた後であり、正直場内は一息ついている観客も多く、アウエー状態であるのにそこからいつのまにかゆるいというか柔らかい自分たちのペースに持ち込んでいく。歌がうまいとか、ダンスのスキルがものすごく高いとかそういうことではないのに「これはなんなのだろう」と思う。そういえば当時は今とはメンバーがかなり違っているんじゃないかと思うのだが、ももクロの周回ライブで以前にもゆるめるモ!に同じような体験をさせられたことを思い出した。その時はメンバーが観客の中に駆けこんでいったのを思い出したが、今はコロナ感染予防もあってそれもできない。それでも自分のペースに持ち込んでしまう。これはもうお家芸というべきなのだろうか。不思議なグループだ。以前に聞いた時にも思ったがももクロ「走れ」へのアンサーソングのようにも思える「逃げろ!!」という曲はやはりいい曲だと思った。

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ばってん少女隊を生で見るのもずいぶんひさびさのこととなるが、とにかく元気がいいという以前の印象とは異なり、洗練されたパフォーマンスに驚かされた。新メンバー二人をライブで見るのももちろんはじめてだが、まだ身体はひとまわり小さいが完成されているという気がした。自然にそちらに目が行ってしまうような華もあり、逸材感が凄い。アメフラっシが「メタモルフォーズ」以前と以後ではまるで違うグループになったように有線放送でバズってばってん少女隊再浮上のきっかけとなった「OiSa」の影響力は大きいのではないか。最後に挨拶もせずに暗転のまま消えていく演出も印象的だった。

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Task have Funは先日MXIDOLFESTIVAL Vol.24@豊洲PITで見ていてけっこう魅力的だなと思っていたのだが、1人欠席で2人だったために次こそ3人揃った完全体としてのTaskが見たいと思い、この日も参加しているのを知り楽しみにして待っていた。ところがこの日もやはり二人で事情はよく分からないが、この欠席は何かの事情でこの日だけいなかったという類のものではなかったようだ*2
この日のもうひとつの収穫はまなみのりさがその健在ぶりを見せてくれたことだ。実は昨年オンラインで行われたGIG TAKAHASHIファイナルではライブの最後のラインナップはTask have Fun、まなみのりさあゆみくりかまき、大阪☆春夏秋冬 という陣容だった。実はこの日のライブでは客入れ時のBGMとして解散したあゆみくりかまきの「未来トレイル」が流れていたのだが、彼女たちの姿はきょうはなく、アイドルの儚さを感じるなかで、ダンスもコーラスも高度なスキルのまなみのりさの精緻なパフォーマンスは長年活動に頑張ってきたグループならではの成熟味を感じさせた。

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しゅかしゅんで知られる 大阪☆春夏秋冬も実力派アイドルだが、本格的なダンス&ボーカルユニットで、ツインボーカルにダンサー3人という構成だから、アイドル味というのはあまり感じない。もちろん、アイドルも何でもありになってきているので、グレーゾーンの領域についてあれこれ言っても本人たちがどう考えているかにしか、アイドルの根拠はないわけだが、活動の範囲を考えればアイドルということでいいのだろう。
 しゅかしゅんの武器はメインボーカルのMAINAの圧倒的な歌唱力だが、歌い方もソウルシンガーやロックシンガーを思わせるもので、ジャズやストリート系を思わせるダンスと組み合わせた時に醸し出されるダイナミズムには魅力があった。直前のまなみのりさとはいろんな意味で対極的なパフォーマンスなのだが、どちらも歌、ダンスのスキルを突き詰めて到達したものであることは間違いなく、そうした諸要素の高度な調和を目指すアメフラっシにはアイドルはここまでできるという意味では参考になったのではないかと思う。あるいは参考にしてほしい。
 この日のトリを務めたのはいぎなり東北産。スターダストの若手グループで勢いを感じるグループというとアイドルファン界隈では超ときめき宣伝部の名前を挙げる人が多いようだが、粗削りだが、ポテンシャルと勢いというだけならいぎなり東北産は超とき宣にも対抗できるだけのものをすでに持っているのではないかと思う。
いぎなり東北産のメンバーがアイドルとして高いポテンシャルを持つことは以前から知られてはいたが、これまではメンバーがまだ若くて大半が学生であること、さらにコロナ禍の現状では広域の活動が困難であることから、東京などに比べるとコロナの影響が比較的軽微である地元東北地区に絞り込んで活動を続けてきた。この間、中心メンバーでエース的存在である伊達花彩がテレビ東京系のドラマ「アイカツ」に抜擢されていぎなり東北産としての活動を一時的に休業するなどの期間もへて、戻ってきたのをキッカケにして、新アルバム「東京インヴェージョン」の発売など本格的な攻勢をかけはじめたところで、今回のGIG TAKAHASHI2参加もその一環であろう。
 アメフラっシ、ばってん少女隊ら先輩グループと比べるとよくも悪くも粗削りな部分はあるが、だからこその圧倒的なインパクトがあるし、伊達花彩、橘かれんら中心メンバーのポテンシャルは天井知らずと感じさせる。やはり注目のグループである。

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オープニングアクト
NELN / BmF(6/18 NEW)

<出演者>
アメフラっシ / ARCANA PROJECT / いぎなり東北産 / 大阪☆春夏秋冬 /
二丁目の魁カミングアウト(6/18 NEW) / ばってん少女隊 / PiXMiX / B.O.L.T / 九州女子翼 / Task have Fun/ meme tokyo. / ゆるめるモ !/ まなみのりさ

https://www.hipjpn.co.jp/wp-content/uploads/2021/05/9615ac3b495abde745d854dfb994ac24.pdf

*1:ももクロ界隈ではももクロライブに総工費5億円の巨大セットを勝手に作っちゃった人として有名。

*2:5月16日に体調不良のために当面休養と発表があって以来そのままになっているようだ。

ジブリ以降のアニメとも親和性。切ない幕切れの幻想譚で、このままアニメ化できそう。このしたやみ「猫を探す」@こまばアゴラ劇場

このしたやみ「猫を探す」@こまばアゴラ劇場

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このしたやみ「猫を探す」は広田ゆうみ、二口大学による二人芝居。どちらも関西を代表する俳優と言ってもいいと思うのだが、東京に来て舞台に出演するということはあまりないのでひさびさに見ることができた。この作品は広田ゆうみが演じる複数の人物のほかに小説で言う地の文のようなところの語りも担うような構成になっていて、彼女の声がとても魅力的だとあらためて思った。
広田の演技で今でも色濃く記憶に残っているのがマレビトの会「血の婚礼」(2008年5月、京都アトリエ劇研)*1での演技。その時の感想レビューには「舞台上で独特のフレージング(台詞回し)の技法を見せ、様式において安定感を感じさせるのは母親役の広田の演技なのだが、それはあくまで彼女の個人的なものであり、その演技がこの公演の規範となる演技という風にはなっていない」と当時のマレビトの会についての分析を書いたが、この「猫を探す」の最初のナレーション的な部分の語りのくだりを聴いただけで、10年以上の前のその時の記憶が鮮やかに蘇った。脚本は新作なのでどこまで広田に向けてあてがきしたものなのかは分からないのだが*2、結果的にはこの作品は広田にタイプの異なる複数の女性キャラを演じさせることで彼女の魅力を存分に引き出すことになっていたのではないかと思う。
一方で、二口大学は初老のさえない男の役柄をそのひとそのものと思えるほど自然に演じていて、この技巧をまったく感じさせないような朴訥な役作りはこの人の個性で、とても好感が持てた。山口浩章の演出はこの戯曲を演劇として立ち上げていくにあたって、オーソドックスだが的確で、職人的に確かな腕前を感じさせた。
ただ、やはりこの舞台を忘れがたいものにしているのは永山智行の戯曲だ。ちょっと一昔前の文学を思わせるようなところがあって、なんでこんな古風な味わいを現代の舞台にと思わなくもないが、50年前の男の日記を拾うという冒頭からはじまり、そこに書かれていた日記の主の愛猫の失踪。その日記に導かれるようにして、なぜか日記の男と同じように絶対いるはずのない存在しない猫を探し始める男。50年の時を隔てて、シンクロしていく孤独な二人の男という設定がとてもいい。そして、なぜか男の元に謎の女が現れて、男が昔親身になって相談に乗ったことがある洪水によって行方不明になった女性の母と名乗る。
その女の正体は突然消えてしまった後も分からないのだが、ただひとつ明らかなのはこの物語が「夕鶴」あるいは「鶴の恩返し」を下敷きにしていることだろう。そのことは食事の準備をしている時に「絶対覗いてはいけない」などと話すことから、明らかで、それが何らかの霊的な存在であることまでは推察されても男が探していた猫の化身なのか、それとも亡くなった少女への男の未練が生み出した架空の存在なのか、そこはあえてどうとでもとれるように意図的にぼかされている余韻もこの舞台の魅力となっている。
「ちょっと一昔前の文学を思わせるようなところがあって、なんでこんな古風な味わいを現代の舞台にと思わなくもない」と評したが、この作品の内容はジブリ以降のアニメーションとも親和性がある。切ない幕切れの幻想譚で、このままアニメ化できそうにも思えてきた。ただ古風というだけでなく、そういう意味での現代性はあるのかもしれない。

脚本:永山智行(劇団こふく劇場) 演出:山口浩章
ある男が火事の焼け跡から、日記を見つける。 それは50年ほど昔の、その家に住んでいた男の日記だった。
その日記の中で、50年前の男はいなくなった猫を必死に探している。
それを読んだ男は、50年前の男と同じように、電信柱にその猫を探すための張り紙をしてみる。そこからはじまる不思議な出来事。
50年前の猫は、見つかるのだろうか・・・
京都を拠点に国内外でこれまでチェーホフ岸田國士などの上演を行ってきた、このしたやみが、宮崎・こふく劇場 永山智行の書き下ろし作品を上演


このしたやみ

2007年、演出:山口浩章、俳優:広田ゆうみ・二口大学の3人により結成。チェーホフ「熊」、岸田國士紙風船」、三島由紀夫道成寺」、太宰治江戸川乱歩安部公房などの作品を上演。山口は2011年利賀演劇人コンクールにおいて「紙風船」で優秀演劇人賞を受賞、2013年から2015年までロシア・サンクトペテルブルク国立舞台芸術アカデミーに留学。上演は国内だけでなく、韓国・ロシアなどでも行っている。


出演
広田ゆうみ、二口大学

スタッフ
舞台監督:山中秀一(有限会社現場サイド)
照明:渡川知彦
音響:有限会社現場サイド
舞台美術:有限会社現場サイド
宣伝美術:橋本純司(橋本デザイン室)
企画・制作:油田晃(特定非営利活動法人パフォーミングアーツネットワークみえ)

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:語りの部分はどちらが担ってもいいような構造になっており、場合によっては演出の判断でこの構成にした可能性はある。

KARAS「読書 本を読む女」@東京・両国 シアターXカイ

KARAS「読書 本を読む女」@東京・両国 シアターXカイ

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あらかじめ録音された佐東利穂子による本の朗読のテキストを劇伴音楽のようにして勅使川原三郎、そして時には佐東利穂子も踊るダンス作品。「読書 本を読む女」の表題に相応しく、暗転から照明がソファを明るく照らすと黒い衣装でドレスアップした佐東が本を目の前で広げて読んでいる。そして、舞台には本を朗読する声が流れてくる。そこで読まれた本は当日パンフによればゲーテ「形態学論集・植物編」、泉鏡花「外科室」などとあるが、最初の何か哲学的な言葉を多用した論考のようなテキストがゲーテなのであろうか。これは実はあまりよく分からないのが正直なところだ。
ただ、次に読まれるのは小説の一部らしい文章で、外科室という言葉もそのまま何度か繰り返されて出てくるのでこれが泉鏡花の「外科室」であることは間違いない。
私の個人としての定義では身体所作(ムーブメント)が言語テクストと渉りあう関係そのものが「演劇」だと考えている。そういう意味ではこれは演劇だと言いたいところだが、「外科室」のテキストと並行して提示される勅使川原三郎の身体所作は言語テキストの内容そのものを反映しているわけではない。両者がどのような関係をなしているのかを説明するのは簡単」ではないが、少なくとも両者は互いに独立した存在としてそこにあり、身体所作(あるいはダンス)が直接テキストで語られることを説明する動きになっているわけではない。そのため小説の意味内容はそこに独立して存在し、独立してあるイメージを喚起することはあるが、ダンスはそのイメージを反映しているわけではない。だからこそ、これはダンスなのだと思わされたのである。夏目漱石夢十夜」、川端康成「片腕」と官能性を感じさせるテクストがダンサーの新しい魅力を引き出していた。

「読書 本を読む女」上演にあたって
              
              佐東利穂子

劇場にはその場所ごとに個性、特徴があるけれど、近頃はずっとアパラタスでの活動を続けていただけにシアターXの空間で公演をすることをとても楽しみにしていました。というのも、ここは創作に集中しやすい場所であるとともに、舞台と客席との距離が近く、そこを行き来することで作品の題材を...

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「読書 本を読む女」


密閉された本の頁を開く
暗闇だった紙面が明るくなり目が言葉に触れる
声が言葉を飲み込む 
落ちるように本の中に吸い込まれる女
無時間の文字空間に身体を失い浮遊 
動揺や謎をまとい 理解と無理解に遊ぶ

言葉と音調の密着と分離の繰り返し 
読書を止めると沈黙に身体は掴まれ

現実に放りされる

静寂に押しつぶされるが 再び本に戻る 
言葉の響きと透明の動きを重ね合わせて

自在に時間を伸縮変形させる
真空を呼吸しダンスする者



勅使川原三郎

ー 公演概要 ー



「読書 本を読む女」

構成・振付・演出・美術・照明・衣装 

勅使川原三郎

出演 佐東利穂子 勅使川原三郎



日時:2021年

6月24日(木) 19:30

6月25日(金) 19:30

6月26日(土) 16:00

6月27日(日) 16:00

客席開場は開演の15分前

客席はチケット記載の整理番号順にご案内します



劇場:東京・両国 シアターXカイ

〒130-0026 東京都墨田区両国2-10-14 両国シティコア1階



料金(全席自由・税込・入場整理番号付)

一般:前売5,000円、当日5,500円

 学生・シニア(65歳以上):前売3,500円 

*学生券・シニア券は各日各10枚ずつ限定、

NAPPOS PRODUCE『りぼん,うまれかわる』(脚本・演出:山崎彬)@六本木トリコロールシアター

NAPPOS PRODUCE『りぼん,うまれかわる』(脚本・演出:山崎彬)@六本木トリコロールシアター

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山崎彬(悪い芝居)*1が脚本・演出を務めた新作ということもあってNAPPOS PRODUCE『りぼん,うまれかわる』を観劇した。主演の深川麻衣*2を舞台で見たのは初めてだった。調べてみると乃木坂46の出身ということが分かり、先日「夜は短し歩けよ乙女」にやはり乃木坂46の久保史緒里が主演していて、乃木坂出身者の舞台での活動はかなり目立つなと考えたのだが、現役の久保史緒里は別として、深川の場合は乃木坂を卒業したのが2016年と5年も前で、卒業後はテレビ、映画、舞台とコンスタントに女優の仕事を続けているのだから、元アイドルという目で見るのはおかしいのかもしれない。それでも早見あかりでさえいまだに「元ももクロ」の肩書きが入るくらいだから、業界的にはこれはこれでそういうものなのかもしれない。
山崎彬は悪い芝居の前作「今日もしんでるあいしてる」では「いきること」「しぬこと」「あいすること」を描いたとしているが、この舞台のモチーフは「うまれかわり」。とはいえ、舞台を見終わって感じたのは前作で挙げられた3つの主題は作家、山崎彬にとってのメインモチーフであって、この「りぼん、うまれかわる」もそれは大きくは変わらないのかもしれない。
 プロデュースのNAPPOS PRODUCEは「本企画は、シリーズ化を想定した演劇作品を小劇場で創作し、物語を連鎖させながらロングラン化することを目指す。本作はエピソード1にあたる」としており、連作の第一作という限りにおいて「うまれかわり」ということが実際にある世界(しかも夢に見ることでそれが本人にも分かる)という基本設定は続くのであろう。作演出は毎回山崎彬が行うのか、それともNAPPOS PRODUCEで作演出を行ってきた成井豊ら複数の作家がリレー方式で受け継ぐのか、企画の詳細は現時点でも不明だが、基本的な世界観はプロデュース側が出して、それを第一弾を引き受けた山崎と詰めていったのではないかと思う。
 主演の深川はよかった。もちろん、本人の努力が大きいとは思うが、悪い芝居でも「NMB48」の石塚朱莉を起用したり、比較的舞台経験の多くはない女優をヒロインに起用し、その魅力を引き出すのは山崎の得意とするところなのかもしれない。
 深川演じるりぼんという少女は自分が見ている夢と同じ夢を見ている若い男(永嶋柊吾)に出会う。「うまれかわりがあるのかもしれない」あるいは「それを前提として生きている人がいる」という設定*3を入れた以外は割と王道のラブストーリーといってもいい。
 通常の悪い芝居の物語ならばここまでストレートに恋が語られることはないから、山崎彬ワールドの入門編としては最適かもしれない。しかし、その分悪い芝居のファンにとっては毒が薄まってしまったような物足りなさを感じてしまう部分もあるかもしれない。
 もっとも、山崎彬がこの連作を引き続き担当するという前提でここからは書くが、このちょっとした物足りなさこそがむしろ連作には向いているし、この続きを見たいという気にもなってくるのだ。
 

脚本・演出:山崎彬(悪い芝居)
出演:深川麻衣
永嶋柊吾
阿部丈二(キャラメルボックス
潮みか(悪い芝居)
清水由紀
中西柚貴(悪い芝居)
竹田洋平
粟根まこと劇団☆新感線

6/18~27◎六本木トリコロールシアター

株式会社ナッポスユナイテッドは、NAPPOS PRODUCE『りぼん,うまれかわる』を劇団悪い芝居と共催で上演する。

本企画は、シリーズ化を想定した演劇作品を小劇場で創作し、物語を連鎖させながらロングラン化することを目指す。本作はエピソード1にあたり、本年6月18日~27日、六本木トリコロールシアターにて上演する。

主人公・りぼんを演じるのは、今年1月に主演映画が公開され、大河ドラマ『青天を衝け』の出演が決まるなど、乃木坂46卒業後も女優として目覚ましい活躍を続ける深川麻衣。朗読以外の舞台は、初主演を務めたNAPPOS PRODUCE『SKIP』(原作:北村薫 脚本・演出:成井豊 サンシャイン劇場)以来、4年ぶりの出演となる。

すごーく地味ですごーくせまい世界をひっそりと生きてきた」と自他共に認めるりぼんは、ある日夢を見る。
そして夢から覚めた朝、人生で一番大きな声でつぶやいた。
「【悲報】今世は来世の前世…っ!!」

本作は、主人公「りぼん」」がうまれかわりの存在を知っていく物語。一見ファンタジックな自由を目の前に、そんな妄想じみたことなんか信じられなくなったものたちの悲喜こもごもの人間ドラマを中心に、もし人生がやり直せるなら、今の人生を捨てられるか」を描いていく。

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:
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*3:架空の設定ではあるがそういう思い込みをしている人はいないことはいないことはないからこれをSFあるいはファンタジーとみるかどうかは微妙なところだ。

ほろびて「あるこくはく [extra track]」@三鷹SCOOL

ほろびて「あるこくはく [extra track]」@三鷹SCOOL

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ほろびてという集団の公演を見るのは初めて。作・演出の細川洋平についてどこかで見たことがある名前だなと思い、公式サイトで調べてみると「1999年、早稲田大学演劇俱楽部を経て劇団「水性音楽」を結成。主宰・作・演出として2006年の解散まで全作品を手がけ、同時に2000年より劇団「猫ニャー(のちに演劇弁当猫ニャーと改名)」に俳優として2004年の解散まで参加ーーという細川洋平が2009年に立ち上げ、2010年より始動させたソロ・カンパニー。2015年より小さな舞台空間で時間/老い/認識といったテーマを軸にした作劇を続けている」とあり、猫ニャーに俳優として参加していた人なのかということが分かった。
そういう意味では若手劇団と書きかけたが、そんなに若いというわけではないかもしれない。ただ、最近よく見るより若い世代の演劇とも共通点は多く、そういう世代の演劇によくある俳優がある人物になりきって役を演じるというよりは俳優としてそこにいることで虚構を立ち上げていくという手法と猫ニャーが体現したようなナンセンスや不条理をブリッジで結んだようなところで作品を作っているように思われた。
それぞれ30分程度の短編演劇である「あるこくはく」と「 [extra track]」の2本立て。両者の間には石というつながりはあるのだけれど、物語設定上の直接的なつながりはなく、方法論も会話劇とモノローグ劇と様式がまったく違う。
最初の作品はドラマによくあるように娘が付き合っている相手を実家の父親のもとに連れてくるところから始まる。一見よくある話だが、彼がゴワゴワした変な帽子のようなものを被っていて「石です」と自己紹介するというナンセンスコメディというか不条理劇だ。
そもそも、石が自ら「石です」と名乗るシチュエーションがすでに意味不明というか、バカバカしいのだが、面白いのは最初に異常すぎる異常事態が提示されるのにそれ以後の展開が古典的な展開に終始して、どうして石が?という根本には触れないままに「そういう相手には娘はやれない」「別れなさい」などと通常通りの展開に終始するのだ。そのズレが笑いを呼んでいくのだが、一方で脳裏にはこれはどういう意味があるんだろうというのが、気になってくる。当初、在日外国人の隠喩なのかとも考えたが、そうだとすると当たり前すぎてそんなに面白くないし、やはり違うかと見ているうちに思えてきた。
それだけに最後になぜ関東大震災で石を投げつけられた朝鮮人のエピソードに落としこまれたのか?かなり、違和感の残る結末だったかもしれない。
一方で2本目は同じ出演者だが、まったく異なるスタイル。4人の俳優がリレーのようにつなぎながら、モノローグで自分の体験を語る。最初は演じる俳優には男女も混じっているから、
それぞれ別の話かと思って見ているが、よく、見ているとエピソードが微妙につながっており、ひとりの人物のひとつながりの回想みたいなものだというのが分かる。そして、それが何者なのかは最後の最後にやって明らかになるのだが、ラストの切れ味はなかなか鮮やかだ。
そして、同時に作者は現在のこの社会の状況に対して怒りを持っているんだというのも分かってくる。

作・演出 細川洋平

出演 鈴政ゲン、橋本つむぎ、藤代太一、吉増裕士(ナイロン100℃/リボルブ方式)
【スタッフ】
音響:nujonoto
衣裳・小道具:ほろびて
宣伝フライヤーデザイン:寺部智英
宣伝写真:細川洋平
制作:大橋さつき
企画・製作:ほろびて
協力:ダックスープ、舞夢プロ、ナイロン100℃、リボルブ方式

ももクロ高城れにとWACKの新鋭PARADISESが降臨。やついフェス2021 生中継【DAY2】@ニコニコ生放送

やついフェス2021 生中継【DAY2】@ニコニコ生放送

きょうはどこにも出かけることはなしに昼からパソコン前に待機。オンラインでやついフェスを鑑賞することにした。メインの目的は夜(18時40分~)の高城れにだが、その前に注目していたのが眉村ちあきのライブ。
これがとてつもなくよかった。歌がうまいということももちろんあるし、ほぼすべてがセルフプロデュースである楽曲もいいのだが、なによりも素晴らしいのが歌うことの楽しさに溢れていることだ。日本武道館での公演も実現し実力派アーティストして振舞うだけの実績はもう積んでいるのにいっさい偉ぶらないのがいいし、客前で歌うのも久々なのかもしれない。
初めてライブを見たのだが、この日の最大の発見はニガミ17才。ステージングには面白ろの要素も入っているが洗練された音楽性に驚かされた。

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WACKの新鋭グループPARADISES*1のライブもよかった。このグループは4月に新メンバーとしてキャ・ノン(元はつみつロケットの雨宮かのん)が加わり注目していたが、さすがにスターダストで何年かものアイドル経験があり、しかも3Bjunior、はつみつロケットと絶対的なセンターとして君臨し続けた人のアイドルとしてのオーラは凄まじいものがあるということを感じた。スタダでは歌唱、ダンスともに格別にうまい方ではなかったのにも関わらずはちロケのセンターはこの人でなくてはならなかったし、雨宮かのんの脱退後、はちロケが長くは存在できなかったのはこの人がいてのグループだったからではないかと思っている。

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少しづつ融け込んでおり、本人も楽しそうなのは嬉しく思っているのだが、実はこの人の本領は心に闇を抱えているんじゃないかと言われた自作曲*2の作詞にあるのではないかと思っている。そういう意味では本業と並行しての余技的な部分でしかそうした活動が生かされにくかったスタダと比べるとメンバーが作詞に参加することが通例化しているWACKではキャ・ノンの本来持つ才能が開花するチャンスは大きいのではないか。だから、それが今後出るアルバムであるのかどうかはまだ分からないが、一刻も早く彼女の手による新曲を聴いてみたい。*3
高城れにのライブは短縮版ではあるけれどそのままソロコンがどういう風にやられているか見せつける内容であった。
ソロ曲を順番に歌っていったのだが、この日の目玉はももクロの初期にカバー曲として歌っていた「最強パレパレード」のソロバージョン。この歌はももクロのダンス振付を担当してい石川ゆみが「涼宮ハルヒ」ライブなどの振付も担当していた縁で持ち曲の少なかったももクロがレパートリーとしていた楽曲。ももクロとしてはここしばらく披露していないのでいつが最後の披露だったかも定かでないほどのレア曲だが、高城れにがソロでやるのには適していたかもしれない。今となってみると伝説と言ってもいい場面だが、実はももクロはドイツの日本文化紹介イベントで初音ミクと共演してこの曲を披露したこともある*4高城れにはソロコンではももクロの中では一番、ボカロやアニソン、アイドル曲を披露する人*5で、ももクロではあまりやらなくなっていたこの曲をソロでやったのはいいアイデアだったのではないか。「Dancingれにちゃん」「じれったいな」*6「一緒に」「tail wind」とそのほかはほぼ自分のオリジナルソロ曲で、実はこの日の翌日の生誕祭生配信でソロアルバムの発売も発表された。ソロアルバムの発売ではあーりん(佐々木彩夏)に先を越された感があるが、よくも悪くもキャラクターソング満載のあーりんソロ曲と比べ、高城れにのソロ曲は曲として「いい曲」が多いと思う。

SENSUALITY(AKB48のユニット)
眉村ちあき
ナナランド(LINE LIVE
ニガミ17才
APPARE!(LINE LIVE
PARADISES
リルネード(LINE LIVE
やついフェス歌合戦
クマリデパート
高城れに

*1:paradises.jp

*2:雨宮かのん作詞、大森靖子作曲「chuchuプリン」。大森靖子によるセルフカバー。かのん(現キャ・ノン)の作詞の才能は大森をはじめとするミュージシャンに絶賛されていた。
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*3:PARADISESの楽曲聴いていて思いついたのだが、いろいろあって難しいかもしれないが、ぜひ今のうちにPARADISESとスタプラのアメフラっシの対バンライブがぜひ見てみたいという気分になってきた。WACKにおけるPARADISESとスタダにおけるアメフラっシの位置に同じようなものを感じ、今後継続的なライバル関係を築いていけそう。メジャーデビューしたらやりにくいがいまのうちなら現場の運営同士の調整でなんとかなるんじゃないか。楽曲的にもよいマッチングだと思う。

*4:
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*5:逆に言えば他のメンバーは個人ではそこまでそういうサブカル的なものには興味がないかもしれない。

*6:
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岡田利規×内橋和久 KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『未練の幽霊と怪物―「挫波」「敦賀」―』@KAAT

岡田利規×内橋和久  KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『未練の幽霊と怪物―「挫波」「敦賀」―』@KAAT

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チェルフィッチュ岡田利規維新派の音楽を手掛けてきた内橋和久を迎え製作した現代能だ。三島由紀夫による近代能、燐光群坂手洋二の現代能など能楽のテキストを現代劇に翻案した作品はこれまでもあったが、岡田のそれは内橋らの演奏を全編に配し、さらにコンテンポラリーダンスも取り入れて、能楽の音楽劇としての構造をそのまま現代に移行したことにある。そして、共同制作の相手として内橋和久は最適解であった。ダキソフォンを奏でる内橋らのトリオ(内橋和久、筒井響子、吉本裕美子)による演奏、能楽による謡を彷彿とさせるような七尾旅人の朗唱ととにかく、全編を彩る音楽が素晴らしいのだ。
内橋和久はダンスのアーティストをはじめ、これまでもさまざまな相手に音楽を提供してきたが、その中で圧倒的に優れており代表作といえるのが維新派の音楽だ。維新派の代表は演出家の松本雄吉であったが、ある時期以降の維新派音楽監督の内橋と松本が二人三脚で作り上げてきたもので、あの特異なスタイルは二人の出会いがなければ存在しないものだと思っている。松本が亡くなり、維新派での創作も終わったが、今回の「現代能」における岡田利規との出会いは内橋にとっても、岡田にとっても特別な出来事に今後なっていく可能性があるかもしれないと今回の舞台を見て思った。
終演後、会場で「未練の幽霊と怪物」のサウンドトラックを買って帰り、聴き直してみたのだが、音楽は維新派とはまったく違うものだが、アンビエントな中にそれを彷彿とさせるものも時折混じり、内橋の音楽の中でも特別なクオリティーに仕上がっている。これは維新派と同様内橋ひとりの手では生まれないと思われるのであり、「現代能」という様式と岡田利規という才能との出会いが生み出したものと思う。さらにいえば、内橋は音楽を生演奏によりおこないそこには即興の要素も入り込むから、森山未來片桐はいり、そして謡を担当する七尾旅人といった優れたパフォーマーとのセッションが現場で生み出すものも大きく、この作品が再演を重ねたり、さらなる新作が作られるということになればさらなる化学反応がそこで引き起こされるような予感も舞台からは感じたのである。
 そして、これはあくまで個人的な感想だが、維新派の舞台にかなり強力な方法論の縛りがあったように即興のダンスと即興の音楽のセッションのような形より、能の形式という約束事がしっかりとあった時の方が内橋の音楽家としてのクリエイティビティーはよい形で発揮されるのではないかという印象を受けた。
作品の構造は世阿弥らによる複式夢幻能の様式をほぼそのまま踏襲している。能楽協会の公式サイトによれば複式夢幻能とは以下のようなものだ。

夢幻能の構成
前場後場との二部構成になっている曲が多く、前場では旅人(ワキ=相手役)がどこかに訪れた際にその土地の人間(シテ=主役)と出会い、その土地の過去にあった話を聞いて、
「実は私はその幽霊だ」
と言って消えていきます。
後場ではその幽霊が再び登場し、当時について語り舞い、消えていきます。
この構成は夢幻能で多く見られる形ですので、夢幻能を鑑賞する際に頭の片隅に入れておくと、より物語を理解することができます。

この夢幻能の構成では、物語が霊の一人称視点で語られることになり、生前の心理描写などが生々しく感情移入しやすいため、鑑賞している聞き手は物語の中により没入していきます。
そして、各曲のストーリー性と幽玄の美しさがあいまって、現代でも受け継がれる能楽の魅力となっています。

ワキに当たるような旅人(「挫波」では太田信吾、「敦賀」では栗原類)がまず現れ、そこでその土地の人間(シテ=主役)と出会う。その土地の過去にあった話を語った後「実は私はその幽霊だ」と言って消えていき、その後後段ではその人物は幽霊として現れ、謡の音楽に合わせて舞を舞う。こうした形式は踏襲しながらいかにも現代的な主題として、「挫波」では新国立劇場の国際設計競技を勝ち取りながら、理不尽な理由によりそのデザインを白紙にされたまま亡くなったザハ・ハディド、「敦賀」では未来のエネルギーの夢を託されて登場しながら、石もて追われるように廃炉にされた高速増殖炉もんじゅ」。霊的な存在として描かれる対象としては一見突飛なものと見えるが、恨みを残してこの世を去ったものが亡霊としてこの世に再び示現するという夢幻能の形式にはふさわしい存在とも考えることができ、岡田をそれを選んだことには説得力があるといえる。
テキスト自体は本来昨年上演されるはずで、一昨年作られたものだが、その後繰り返された東京五輪を巡る様々な理不尽な出来事、そしてコロナ禍の中で国民の大多数の反対を押し切り、観客を入れての五輪を強行しようとしている現政府のやり方を見れば今となっては初期の段階で、それを思い起こすことは少なくなっているとしても、ザハ・ハディドは権力に圧殺されていくものたちの象徴的存在として再評価することがいまこそ必要であり、上演されることの意味合いは当初と変容したとしてもさらにふさわしいことになっているのではないかとさえ感じた。
そして、東京都ではなく、神奈川県にある公立劇場がこの作品を上演することの意味も考えさせられた。果たして新国立劇場東京芸術劇場でこの作品の上演ができただろうか?当然できるとの考えが常識であるとはいえ、ザハの排除を始めとする非常識に非常識を積み重ねてきた自民党政権には自分たちが気に食わない内容の舞台を中止に追い込む可能性がまったくないかどうかについて確信が持てないからだ。

作・演出:岡田利規

音楽監督・演奏:内橋和久

出演:森山未來片桐はいり栗原類石橋静河、太田信吾/七尾旅人(謡手)

演奏  内橋和久 筒井響子 吉本裕美子
【STAFF】
美術   :中山英之 (建築家)
照明   :横原由祐
音響   :佐藤日出夫
衣裳  :Tutia Schaad
衣裳助手 :藤谷香子(FAIFAI)
ヘアメイク:谷口ユリエ 
舞台監督 :横澤紅太郎

編集 :鈴木理映子

宣伝美術 :松本弦人  宣伝写真 :間部百合  
宣伝衣裳 :藤谷香子  宣伝ヘアメイク:廣瀬瑠美

2021年の上演にあたって 

幽霊は、現れるために、場所を必要とします。
そういうわけで、「未練の幽霊と怪物」の上演には舞台が、劇場が必要です。
わたしたちは去年の春、公演中止が決まったあとも、オンライン・リハーサルをやっていました。
延期して上演が行われることを見込んで、コンセプトや、このパフォーマンスに必要な感覚を共有するためのプロセスを踏んでいたのです。たいへん上首尾にいきました。
来る上演に向けて、あとは細部の精度にこだわっていくだけです。
準備は万端です。身体、音楽、空間、言葉。
観客のみなさんが幽霊の出現に立ち会うべく、劇場に来てくださるのを心よりお待ちしています。

岡田利規

お問合せ(神奈川公演):チケットかながわ 0570-015-415(10:00~18:00)

企画製作・主催(神奈川公演):KAAT神奈川芸術劇場

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