下北沢通信

中西理の下北沢通信

現代演劇やコンテンポラリーダンス、アイドル、ミステリなど様々な文化的事象を批評するサイト。ブログの読者募集中。上記についての原稿執筆引き受けます。転載依頼も大歓迎。simokita123@gmail.comに連絡お願いします。

「平成の舞台芸術回想録」に向けて・平成の舞台芸術30本   「東京ノート」「三月の5日間」「わが星」……

「平成の舞台芸術回想録」に向けて・平成の舞台芸術30本   「東京ノート」「三月の5日間」「わが星」……

f:id:simokitazawa:20190405091000j:plain
東京ノート
 
新型コロナ感染対策のために演劇公演が中止・延期となってはや二カ月近くが経過した*1。このサイトでは観劇してきた公演についての観劇レビューをコンテンツの柱としてきたが、観劇が困難な状況になり、それも難しくなってきている。そのため、これまでも過去30年間に私が体験してきた舞台について、回想録の形で取り上げる連載をスタート、青年団東京ノートダムタイプ「S/N」を掲載してきたが、今後しばらく月1ペースで行ってきた執筆のペースを速めていくことにした。
 近々に「平成の舞台芸術回想録(3)」としてチェルフィッチュ「三月の5日間」を取り上げ、掲載する準備をしていく予定だ。以下、ままごと「わが星」上海太郎舞踏公司ダーウィンのみた悪夢」木ノ下歌舞伎「東海道四谷怪談玉田企画「あの日々の話」劇団ホエイ「郷愁の丘ロマントピア」と続く予定。

平成の舞台芸術回想録 青年団東京ノート」(1)
simokitazawa.hatenablog.com
平成の舞台芸術回想録 ダムタイプ「S/N」(2)
simokitazawa.hatenablog.com
平成の舞台芸術回想録 チェルフィッチュ「三月の5日間」(3)
simokitazawa.hatenablog.com
平成の舞台芸術回想録 ままごと「わが星」(4)
simokitazawa.hatenablog.com
平成の舞台芸術回想録 上海太郎舞踏公司ダーウィンのみた悪夢」(5)
simokitazawa.hatenablog.com
平成の舞台芸術回想録 木ノ下歌舞伎「東海道四谷怪談」(6)
simokitazawa.hatenablog.com
平成の舞台芸術回想録 玉田企画「あの日々の話」(7)
simokitazawa.hatenablog.com
平成の舞台芸術回想録 劇団ホエイ「郷愁の丘 ロマントピア」(8)
simokitazawa.hatenablog.com
平成の舞台芸術回想録 維新派「呼吸機械」(9)
simokitazawa.hatenablog.com
平成の舞台芸術回想録 松田正隆青年団プロデュース)「月の岬」(10)
simokitazawa.hatenablog.com

新聞社の企画した「平成の30冊」*2が話題になっているようだ。新たな時代(令和)を迎える前の総括として舞台芸術でも「平成の舞台芸術30本」を試みた。ダムタイプ「S/N」をどうしても入れたいため、「演劇」ではなく「舞台芸術」というくくりにしたが、30本を選んでいった最後の方では選びきれないものが続出して思わず後悔した。選び終わった直後に惑星ピスタチオ「破壊ランナー」を入れ忘れているのに気がついた。こっそり何かを外して入れ替えようかと思ったが、それも忍びないので泣く泣く諦めた。まだまだ、入れ忘れているものがあるかもしれないが、それは容赦してほしい。

 順不同とは書いたが、最初の10本は何度選んでも動かないだろう。平成は1989年から始まるが、94年に上演された平田オリザ東京ノート岸田國士戯曲賞を受賞した平田の代表作。現代口語演劇の典型だが、類似の群像会話劇が相次ぎ登場したことで、野田秀樹鴻上尚史らの作った80年代演劇の流れを一変させた。

TOKYO NOTES
こうした群像会話劇を私は「関係性の演劇」*3と名づけた。リストの中では松田正隆「月の岬」長谷川孝治弘前劇場「家には高い木があった」、はせひろいち(ジャブジャブサーキット)「非常怪談」がこの系譜に入る。この他にも宮沢章夫岩松了土田英生らが重要だが、1本を選びにくかったなどの理由もあり、今回の「舞台芸術30本」では漏れてしまった。

公演ダイジェスト:「月の岬」 | SPIRAL MOON
 一方、90年代は大規模野外劇でダンスと音楽、演劇を総合させた維新派やダンスパントマイムによる群像劇を駆使して人類の進化や滅亡への予感など壮大な主題を描き出した上海太郎舞踏公司、マルチメディアパフォーマンスの嚆矢といえるダムタイプなど世界でも類のない独自性の高いパフォーマンスも生み出した。これらの集団は海外でも高い評価を受けた。この本拠地が京都、大阪といずれも関西であったのも特筆すべきことだろう。

Dumb Type - S/N


維新派 - ishinha - 『呼吸機械』 CMムービー

 ケラリーノ・サンドロヴィッチナイロン100℃松尾スズキ大人計画いのうえひでのり劇団☆新感線などエンターテインメント性と芸術性を高度な水準で融合させた劇団が登場してきたのも90年代のもうひとつの動きだ。ケラと松尾は選ぶべき水準に達した作品が数多くあり、どの作品を選ぶかは苦渋の選択だった。それぞれ「1979」「カメラ≠万年筆」、あるいは「愛の罰」「Heaven's Sign」「ふくすけ」なども優れた作品だが、個人的な思い入れも重視し「カラフルメリィでオハヨ」「ファンキー!」を選んだ。
 平田らが作った現代口語の群像劇の流れは90年代演劇の主流となっていき、2000年代(ゼロ年代
*4に入ってもポツドール「愛の渦」、渡辺源四郎商店「月と牛の耳」などの後継を呼んだが、こうした流れを切断し現代演劇の流れを大きく変えたのがチェルフィッチュ「三月の5日間」岡田利規)と東京デスロック「再生」だった。
 チェルフィッチュの「三月の5日間」は役と俳優の乖離、東京デスロックの「再生」は身体に負荷をかける演出の導入でともにポストゼロ年代演劇への道を開いた。

チェルフィッチュ「三月の5日間」

 そうした流れはミクニヤナイハラプロジェクト「3年2組」やついにはひとつの到達点として表れ、それ以降の演劇に大きな影響を与えたままごと「わが星」の登場へとつながっていく。

『わが星』オープニング

星の記憶 ~わが星 小豆島滞在記_予告編

2010年以降(ポストゼロ年代)の演劇については綾門優季(キュイ)、山本卓卓(範宙遊泳)、額田大志(ヌトミック)ら注目すべき才能が現れてはいるがいずれも「この1本」という決め手に欠けるきらいがある。そんななかでこの世代の代表として山田百次(劇団ホエイ)「郷愁の丘ロマントピア」玉田真也「あの日々の話」を選んでみた。

東京ノート 青年団
三月の5日間 チェルフィッチュ
呼吸機械 維新派
S/N ダムタイプ
ダーウィンのみた悪夢 上海太郎舞踏公司
月の岬 青年団プロデュース(松田正隆)
わが星 ままごと
3年2組 ミクニヤナイハラプロジェクト
家には高い木があった 弘前劇場
天守物語 ク・ナウカ


再生 東京デスロック
カラフルメリィでオハヨ ナイロン100℃
ファンキー! 大人計画
阿修羅城の瞳 劇団☆新感線
じゃばら 遊気舎
非常怪談 ジャブジャブサーキット
サマータイムマシン・ブルース ヨーロッパ企画
愛の渦 ポツドール
耳をすませば シベリア少女鉄道
It was written there 山下残


Finks レニ・バッソ(北村明子)
東海道四谷怪談 木ノ下歌舞伎
娘道成寺 きたまり(木ノ下歌舞伎)
フリル(ミニ) 珍しいキノコ舞踊団
夢+夜~ゆめたすよる~ 少年王者舘
あの日々の話 玉田企画
月と牛の耳 渡辺源四郎商店(弘前劇場)
郷愁の丘ロマントピア 劇団ホエイ
夕景殺伐メロウ デス電所
スチュワーデスデス クロムモリブデン

(順不同、同一作家は2本選ばず)

*1:コロナ前に最後に見た舞台は3月15日のゆうめいだった。

*2:book.asahi.com

*3:simokitazawa.hatenablog.com

*4:simokitazawa.hatenablog.com

ルース・レンデル「運命のチェスボード」(創元推理文庫)

ルース・レンデル「運命のチェスボード」(創元推理文庫

アンという女が殺された。犯人はジェフ・スミスだ―そんな匿名の手紙がキングズマーカム署に届いた。ウェクスフォード警部は調査を開始したが、死体さえ発見されない状況に困惑せざるを得ない。本当に殺人はあったのか?混迷する捜査陣の前に、やがて事件は意外な真相を明らかにする。

少し手間どっていたのだが、ようやく「運命のチェスボード」(1967年)を読了。
 冒頭近くでアン(アニタ・マーゴリス)という若い女性の失踪事件がウェクスフォード警部の元に伝えられ、それと並行して「アンという女が殺された。犯人はジェフ・スミスだ」という差出人不明の手紙が捜査陣に届くことから、一連の捜査が開始される。
 しかし、失踪前のアンの周辺から関係のありそうな男たちを探ってみても、謎の男ジェフ・スミスとは誰なのか、手紙を書いたのはだれなのかなど事件の解明は遅々として進まない。
 総ページ数311ページの長編なのだが、事件の被害者の死体が実際に発見されるのが、295ページという徹底ぶりである。
 事件の様相が捜査の過程で二転三転していくというのがこの作品の場合も起こってくる。これも典型的なルース・レンデル版のホワットダニットの系譜のプロットを持つ作品だと言っていいだろう。
 「運命のチェスボード」が新機軸というほどではないにしても趣向として面白いのは作品の冒頭から何か事件に巻き込まれたか、引き起こしたらしい「男と女」の描写から始まることだ。
 描写自体はけっこう具体的でありながら、地の文での叙述としてはこの二人の正体は伏せられていて「男は」「女は」としてのみ描写される。失踪事件だというだけなら、事件が実際に起こったかどうかは捜査陣の側から見れば疑わしい部分はあるはずだが、少なくとも読者の側からすればこの部分の描写があることで、事件そのものは起こったということを前提として読み進めることができる。それはこんな風に書かれている。

 ことがうまく運ばずにひどい結果になったとき、男は、なるべくしてこうなったのだという運命のようなものを感じた。おそかれはやかれ、いつかはこんなことになっていたに違いない。ふたりはやっとのことでコートを着た。男はあふれる血をスカーフで止めようとした。(「運命のチェスボード」から引用)

 この冒頭の事件が起こった際の様子を描いたと思われる描写はプロローグ的に8ページにわたって描かれる。冒頭で犯行の描写が描かれるのは一般には倒叙と呼ばれる。映像作品では「刑事コロンボ」シリーズや三谷幸喜の「古畑任三郎」シリーズのように冒頭部分で犯人の正体と犯行方法が明かされたうえで、探偵が「犯人がどこでミスをしたか」を探り出し、犯人を追い詰めていく過程が描かれていく。
 ただ、この「運命のチェスボード」の叙述はそういうものとは違って、事件は描かれるが、人物像は「男」「女」という仮名で呼ばれることで読者に伏せられている。それゆえ、ここでは事件の存在を明示しながら、その様相の叙述には技巧が凝らされてもいて、あくまで私見だがそこにはクリスティー作品にも通じるようなミステリ作品に対する問題意識があると感じられる。
ルース・レンデルがクリスティーに対して批判的であり、その後継者と周囲から見なされることを忌諱していたのはよく知られることだが、その批判は主として登場人物の造形についてのことだったようだ。それについて本書の巻末の解説に引用されているインタビューに「(クリスティーには)素晴らしいプロットや素敵なアイデアがたくさんあるけど、どうも登場人物を創るとき深く考えたようではありませんね」という言い方でクリスティーを批判する。この批判はさらに「彼女が描く登場人物の感情や人間関係は、現実に存在するものではありませんね」と続き、そうしたレンデルの考えはこの作品に登場する人物の描かれ方からも十分にうかがうことはできるだろう。
 ただ、それと同様に重要だと思われるのはそのように批判しながらも「彼女の考えだすプロットやどんでん返しが私にもできたらいいと思います」とクリスティーのプロットメイカーとしての優秀さは絶賛もしているし、自分もそういうものを実現したいと答えてもいるのだ。
 そういう意味ではレンデルの事件の様相がはっきりとはせず 捜査の進行にともない二転三転というプロットはクリスティー流のホワットダニットを継承するものと思われるし、同じ土壌から今度はよりトリッキーなコリン・デクスターが出てくる必然性があったのではないかと思うのだ*1。 

simokitazawa.hatenablog.com

*1:同じく失踪事件から始まる類似プロットを持つ小説として「キドリントンから消えた娘」との比較は意味があるのではないかと思う。

彩木咲良がたこ虹ハウスのテーマ曲 たこ虹の家にいるTV#24・26・28

たこ虹の家にいるTV#24・26・28


たこ虹の家にいるTV#24

 恒例のたこ虹の家にいるTV。この連休は21時からももクロが連日ライブをYoutube配信していたこともあり、その前の19時28分から21時までの間、たこやきレインボーが彼女らが共同生活をしているたこ虹ハウスから自炊している夕食の模様をライブ配信する「たこ虹の家にいるTV」を視聴するのが毎日の日課となりつつある。
 癒し系配信のリアリティー番組系の「たこ虹の家にいるTV」だが、時折サプライズのように驚くべきコンテンツが投入されるのも侮れないのである。この日は終了直前の時間になって、突然、メンバーの彩木咲良作詞作曲のオリジナルテーマ曲を皆で歌うという大きなサプライズが用意されていた。
 たこ虹はももクロと非常に似た部分があるグループではあるが、違いもあって、そのひとつがメンバーそれぞれのセルフプロデュース力の高さである。オリジナル曲を作詞作曲した彩木は音楽偏差値も高くて、この「家にいるTV」」でもいきなりディズニーミュージカルの楽曲を歌いだしたりするほか、自作曲にも力を入れていて、自らが作詞した楽曲がアルバムに入ったりしている。最近、たこ虹ハウスが広い家に引っ越した際に念願のひとり部屋を手に入れたようだが、これもひとりでギターを存分に練習できる環境を与えたという運営側の配慮があったと思う。今回、たこ虹ハウスのテーマ曲を披露したが、その中に「血はつながっていないが、私たちは家族」というような内容の歌詞が入っていて、彼女らの配信に対して「三密」だとクレームをつけた人がいたことに対し、歌の形で彼女らの想いを伝えたのだと思う。

たこ虹の家にいるTV#26
上記の日の最後には「たこ虹ハウスオリジナルソング」を巡って、もうひとつのサプライズが起こる。ユニコーン手島いさむ(Gt)ら、なにわンダーランドたこ虹バンドのメンバーがメンバーが配信した演奏に合わせてリモートで伴奏を付けてくれたのだ(1:24:40ぐらいから)。知らなかったメンバー(特に作者の彩木咲良)はそのことを知り、演奏を聴くと号泣。この日の配信の最後では送られてきた演奏に合わせて、咲良のギターとメンバーの歌で合奏。音楽を通じた熱い思いに思わず感嘆。

たこ虹ハウスオリジナルソング


たこ虹の家にいるTV#28

残念ながらアーカイブは残ってないようだが*1、たこ虹の家にいるTV#28ではたこ虹ハウステーマソングに竹上良成さん(なにわンダーランドたこ虹バンドでは竹神様)もフルート演奏でリモート参加。 そこに、さらにこの日はさきてぃもギターで参加。これはいよいよフォーク村での演奏も実現かな。
たこ虹の家にいるTV#28アーカイブ
www.youtube.com

*1:アーカイブは残す方向で準備中のようだ。

明治座『ももクロ一座特別公演』@YouTube(ももクロライブ連続配信)

明治座ももクロ一座特別公演』@YouTubeももクロライブ連続配信)


ももクロ、くノ一姿で圧巻の殺陣シーン!敵役には飯塚高史…!?『明治座 ももクロ一座特別公演』公開ゲネプロ

ももいろクローバーZももクロ)は女性アイドルグループではあるけれど、その目指している方向性は他の女性アイドルグループとは大きく違う。それは目指すべき姿としてずっと以前からSMAP、嵐、そしてザ・ドリフターズという3つの集団を目標に掲げてきたことから分かるのではないかと思う。そして、そのひとつの結実といってもいいのが明治座の『ももクロ一座特別公演』といえるだろう。
明治座といってもピンと来ない人もいるかもしれないが、明治座新橋演舞場などと並ぶ商業演劇のメッカだ。この劇場でどういう公演が行われているのかということを紹介してみると例えば8月公演として予定されていたのが、残念ながら中止になったが『志村けん一座 第15回公演 志村魂』。ももクロが目標としていたドリフターズの一員で先日コロナで亡くなった志村けんによる座長芝居である。
 その外には今年は6月に『梅沢富美男劇団特別公演 研ナオコ芸能生活50周年』、8月・9月に『氷川きよし特別公演』、10月に『芸道45周年細川たかし特別公演 ダチョウ倶楽部一座旗揚げ公演』なども予定されている。
 昨年上演され今回配信された『ももクロ一座特別公演』もそういう種類の公演につらなることをあえて意図した舞台であった。二部構成で一部がコメディー色が強い時代劇、二部が歌謡ショーという構成もそういう伝統に繋がることを意識してのものだった。
 明治座の後に行われた大型ライブ「ももいろクリスマス」では今度はクレイジー・キャッツなどを意識した音楽バラエティーのフォーマットを意識した演出を取り入れてみせたが、このグループは昭和以来日本に面々と続く、芸能界の伝統と受け継ぐことを自負するような部分がある。
 毎年年末にかつての全盛期の紅白歌合戦のフォーマットを引き継ぐような趣向で開催している「ももいろ歌合戦」もその一環と考えることができるだろう。
 芝居自体の感想については観劇の際などの感想にも書いたので、今回はあえて第二部のライブについて書くことにする。ここでのライブは作りこまれた舞台公演で公演期間中に同じ演目を繰り返し演じるということのよさが生かされていて、きわめて完成度の高いものに仕上がっていたのではないかと思う。通常ももクロの大規模ライブはリハーサルはもちろん行うとしても本番一度のみの出たとこ勝負であることが多く、ライブにはもちろん生の良さはあるとしても、コンセプトライブなど演出的な趣向の強いライブについても熟成までの時間があまり取れないことが多い。全都道府県を回る青春ツアーはセットリストを固定して、パフォーマンスの完成度をあげていこうという趣旨で始まったはずだが、有安杏果の卒業による離脱で意味合いが変わってしまった。
 明治座の舞台はそれまでにコロナ禍が一段落していれば来年に行われる予定となっており、詳細はいっさい発表になってはいないが内容は今回のものとは異なる趣向のものに変化するとしても公演のフォーマット自体は前回の明治座公演を踏襲するのではないかと思う。そういう意味では次回は単なる歌謡ショーではない宝塚風レビューなど何らかのコンセプトのあるライブを取り込むというのも考えられるのではないかと思う。
simokitazawa.hatenablog.com
simokitazawa.hatenablog.com

『アガサ・クリスティー ミス・マープル=ヒクソン版 牧師館の殺人』@AXNミステリー

アガサ・クリスティー ミス・マープル=ヒクソン版 牧師館の殺人 』@AXNミステリー

 実は「牧師館の殺人」は以前ジェラルディン・マキューアン・ジュリア・マッケンジー版でも見ていて、同じ原作の両者を比べてみることでそれぞれの版の演出的に力を入れている部分の違いがうかがわれて面白かった。被害者となった大佐がいかに嫌な人間であったかを大佐の行動により被害を受けたそれぞれの人物(それはそのまま容疑者ともなっていく)の心情に寄り添うような演出を重視していたのがマキューアン、マッケンジー版。それに対して、ヒクソン版では起こった出来事をもう少し淡々と描いている。劇的な効果は確かにマキューアン、マッケンジー版の方があるのだけれど、行動の裏にはクリスティーが仕掛けた叙述の罠があるのだとすればヒクソン版の登場人物それぞれの心情には寄り添い過ぎない客観描写の方が原作の味わいをより伝えているともいえそうではある。ただ「牧師館の殺人」のようにプロットが比較的単純でともすれば単調とも感じられる物語においては見ていて少し退屈と感じてしまうきらいもあるかもしれない。
 「牧師館の殺人」自体は犯人の設定ひとつとっても複数の登場人物がそれぞれの思惑で動くために全体として誰もが怪しげな行動をとるように見え、犯人の巧緻な犯行計画が逆に目立たなくなるというパターンを踏んでいる。きわめてクリスティーらしい筋立ての作品。ただ、やはり巧みな技巧を駆使した中期以降の作品と比べると物足りないとも感じた。

牧師館の殺人1

牧師館の殺人1

  • メディア: Prime Video
牧師館の殺人2

牧師館の殺人2

  • 発売日: 2019/06/14
  • メディア: Prime Video

『アガサ・クリスティー ミス・マープル=ヒクソン版 スリーピング・マーダー 』@AXNミステリー

アガサ・クリスティー ミス・マープル=ヒクソン版 スリーピング・マーダー 』@AXNミステリー

新婚のグエンダ・リードは、新居を求めて夫ジャイルズより一足先にニュージーランドからイングランドを訪れる。そしてディルマスで見つけたヴィクトリア朝風の家、ヒルサイド荘を一目で気に入ったグエンダは、早速その家を購入し改装を始める。しかし、初めての家のはずなのに、石段、居間から食堂へ通じるドアなど、なぜか隅々まで知りつくしているような思いにとらわれ不安を感じ始める。さらに、古い戸棚の中からは彼女がまさに思い描いた模様の壁紙が現れた。

恐怖を感じたグエンダは、ロンドンに住むジャイルズのいとこのレイモンド・ウェスト夫妻からの招待に応じ、レイモンドの伯母のミス・マープルたちと芝居の観劇に行く。ところが「女の顔をおおえ、目がくらむ、彼女は若くして死んだ」という台詞を聞いたとたん、グエンダは悲鳴をあげて劇場を飛び出してしまう。気が狂ったのではないかと思い悩むグエンダは、マープルにこれまでのすべてを打ち明ける。さらに彼女は、芝居の台詞を聞いた瞬間、ヒルサイド荘で殺された女を思い描いたことを話す。マープルは、彼女の告白の中に「回想の殺人」を見出す。

 私が「過去」タイプのホワットダニットと名付けた類型プロットの典型。ポワロの「カーテン」同様に中期にすでに書かれ死後に出版される予定だったが、こちらは生前にミス・マープル最後の作品として発表された。「スリーピング・マーダー」とは直訳すれば寝ている殺人ということだが、もう少し分かりやすく解釈すれば眠ったまま存在さえ曖昧になっている殺人事件を寝た子を起こすように掘り起こすということだろう。「寝た子を起こすな」という諺もあるがミス・マープルの「寝た子を起こすな」というアドバイスを振り切り、過去に起こった義母の失踪事件の真相を探ることに邁進するグエンダ・リードは知らずにすんでいた父親の死の衝撃の真相のパンドラの箱を開け放ってしまう羽目になってしまう。
 この作品のきもは本当は父の病の判明から娘である自分も同じ病に蝕まれているのではないかと自己に対する疑いを引き起こすところにあるのではないかと思われるが、このヒクソン版ではそのあたりは意外とあっさりとスルーされている。劇的効果としてはこのあたりをもう少しきめ細かくフォローした方が物語の流れとしてはよくなるのではないかとも思った。

"Sleeping Murder"
11 January; 18 January 1987
John Moulder-Brown, Jean Anderson, Terrence Hardiman, Frederick Treves, John Bennett, Geraldine Newman, Jack Watson, Jean Heywood, Amanda Boxer, John Ringham, David McAlister, Kenneth Cope, Gary Watson, Donald Burton, Sheila Raynor
[8]
A young wife, Gwenda, believes her house is haunted. With Miss Marple's guidance, she comes to realize she witnessed the murder of her stepmother there 20 years ago, as a child. Despite Miss Marple's advice to let sleeping murder lie, the newlyweds decide to investigate the crime, putting Gwenda's own life at risk by stirring a sleeping murderer in the process.

ももいろクローバーZ 10th Anniversary The Diamond Four -in 桃響導夢DAY1 10年丸わかりDay ~120曲を1日で聴かせます!@東京ドーム=Youtube配信

ももいろクローバーZ 10th Anniversary The Diamond Four -in 桃響導夢DAY1 10年丸わかりDay ~120曲を1日で聴かせます!@東京ドーム=Youtube配信

 「ももいろクローバーZ 10th Anniversary The Diamond Four -in 桃響導夢 」は2日間ともに現地参加はしていたのだが、私はその存在自体が許容できないほどある球団*1が嫌いなため、それがらみのコラボがあったというだけでこの日の記憶は脳裏から消し去っていたのであった。 そのため、32曲メドレーが2回あったというような朧げな記憶しか残っていなかったのだが、今回配信で改めてパフォーマンスを見直してみると、気合いの入りかたも半端ではなく、素晴らしいものだったと思う。

[DAY1] 2018年5月22日(火)<THANK YOU SOLD OUT!>
open 16:00 / start 18:30 / (21:00終演予定)
※当日の公演内容によって終演時間が前後する場合がございます

simokitazawa.hatenablog.com

*1:アンチだなんだと具体的に球団名を口にすること自体嫌なのである

EVIL LINE RECORDSの5周年記念フェス『EVIL A LIVE 2019』@YoutubeGW期間限定配信

『アガサ・クリスティー ミス・マープル 青いゼラニウム 』@AXNミステリー

アガサ・クリスティー ミス・マープル 青いゼラニウム 』@AXNミステリー

ミス・マープルものの短編集「火曜クラブ」収録の短編「青いゼラニウム 」の基づいて制作。ほぼ原作に忠実だが、ミステリ小説の映像化の場合、短編を原作にした方が筋立てをそのまま生かしながら、ディティールに肉付けが可能だから単発のドラマにしやすいのではないかと思った。
 原作の「火曜クラブ」は「作家である甥のレイモンド・ウェストらによって作られた“火曜クラブ”(訳によっては“火曜ナイトクラブ”)にて、家を会合の場所として貸すこととなり、当初は村以外のことは何も知らない老婆と見られて、参加者から軽んじられていたが、参加者が話す迷宮入り事件を完璧に解き、探偵としての才能を認知される」という内容であるから、ある種安楽椅子探偵のようなスタイルとなっているはずだが、昔なじみの牧師に招かれて滞在した先の集落で起こった連続殺人事件をマープルが解決するという体裁になっている。

2010年12月29日(英国)
2010年6月27日



ドナルド・シンデン(英語版)(サー・ヘンリー・クリザリング)
シャロン・スモール(英語版)(メアリー・プリチャード)
クローディー・ブレイクリー(英語版)(フィリッパ・プリチャード)
デヴィッド・コールダー(英語版)(ダーモット)
トビー・スティーブンス(ジョージ・プリチャード)
ポール・リス(英語版)(ルイス・プリチャード)
パトリック・バラディ(英語版)(ジョナサン・フレイン医師)
クレア・ラッシュブルック(キャロライン・コプリング)
ジョアンナ・ペイジ(英語版)(ヘスター)
キャロライン・キャッツ(英語版)(ヘイゼル・インストウ)
ケヴィン・マクナリー(サマーセット警部)
ジェイソン・デュール(英語版)(エディ・スワード)
ヒュー・ロス(カーマイケル判事)
デレク・ハッチンソン(コンシェルジュ
レベッカ・マニング(スーザン・カーステア)
イアン・イースト(庭師のジョン)
リチャード・ベッツ(法廷の書記)
ベンジャミン・ハーコート(ピーター・プリチャード)
トーマス・ハーコート(マイケル・プリチャード)
モリー・ハーコート(スーザン・プリチャード)

シーズン5
放送日
サブタイトル
視聴者数
(100万人)
2010年
8月30日
蒼ざめた馬
5.11
2010年12月27日
チムニーズ館の秘密
5.06
2010年12月29日
青いゼラニウム
5.96
2011年
1月
2日
鏡は横にひび割れて
4.93

1932年:火曜クラブ(訳題は米版The Tuesday Club Murdersに由来。収録作品の「火曜クラブ」とはタイトルが異なる。)
火曜クラブ - The Tuesday Night Club(1927年)
アスタルテの祠 - The Idol House of Astarte(1928年)
金塊事件 - Ingots of Gold(1928年)
舗道の血痕 - The Bloodstained Pavement (1928年)
動機対機会 - Motive v. Opportunity (1928年)
聖ペテロの指のあと - The Thumb Mark of St. Peter (1928年)
青いゼラニウム - The Blue Geranium (1929年)
二人の老嬢 - The Companion (1930年)
四人の容疑者 - The Four Suspects (1930年)
クリスマスの悲劇 - A Christmas Tragedy (1930年)
毒草 - The Herb of Death (1930年)
バンガロー事件 - The Affair at the Bungalow (1930年)
溺死 - Death by Drowning (1931年)
1939年:レガッタ・デーの事件(早川書房版は黄色いアイリス)
ミス・マープルの思い出話 - Miss Marple Tells a Story (1935年)
1950年:三匹の盲目のねずみ(早川書房版は愛の探偵たち)
奇妙な冗談 - Strange Jest (1944年)
昔ながらの殺人事件 - Tape-Measure Murder (1942年)
申し分のないメイド - The Case of the Perfect Maid (1942年)
管理人事件 - The Case of the Caretaker (1941年)
1960年:クリスマス・プディングの冒険
グリーンショウ氏の阿房宮 - Greenshaw's Folly (1960年)
1961年:二重の罪(早川書房版は教会で死んだ男に収録)
教会で死んだ男 - Sanctuary (1954年)

『アガサ・クリスティー ミス・マープル  ポケットにライ麦を 』@AXNミステリー

アガサ・クリスティー ミス・マープル ポケットにライ麦を 』@AXNミステリー

CSのAXNミステリーチャンネルによるアガサ・クリスティーミス・マープルシリーズ一挙放映。コロナ感染対策で外に出られないこともあり、そして京都大学推理小説研究会時代に書いたクリスティー論を最近40年ぶりに公開*1したこともあり、クリスティーのドラマをまとめて見てみようと思った。
 ミス・マープルのテレビドラマといえばBBCが制作したジョーン・ヒクソン版の知名度が高いが、こちらは独立系のITVの制作である。シリーズ途中でマープル役がジェラルディン・マキューアンからジュリア・マッケンジーに交代しているがこの「ポケットにライ麦を」はジュリア・マッケンジーがマープル役を演じている。
 実は「ポケットにライ麦を」は英語の勉強のためとも思って、初読を原書版で読んだ記憶があり、そのせいもあってか「24羽の黒ツグミ」というマザー・グースの童謡に基づいた「見立て殺人」だという記憶ぐらいしか印象がなかったが、同じく童謡の「見立て殺人」である「そして誰もいなくなった」に比べてしまうと、インパクトは薄く、見劣りしてしまうことは否めない。実はこのテレビシリーズは「無実はさいなむ」「ゼロ時間へ」などシリーズ外のクリスティー作品を探偵役をミス・マープルに差し替えたりしているものもあるのだが、この「ポケットにライ麦を」は原作に忠実である。全部で12本あるミス・マープルもののオリジナル長編のうち「魔術の殺人 - They Do It with Mirrors」とこの「ポケットにライ麦を - A Pocket Full of Rye」が第4シーズンとなったのはプロットなどに他の傑作群と比べてやや弱さを制作陣が感じたせいかもしれないと見ていて考えた。
 原作を読み返してみないと確かなことは分からないのだが、少なくともこのドラマでは「ポケットにライ麦を」の歌が何度も繰り返されるような強調した作中演出はなく*2、そういうこともそう感じるひとつの理由といえるかもしれない。英国のミステリドラマは金田一耕助シリーズなどに代表されるような過剰といえるような演出はほとんどなくて、リアリズムに徹するようなものが多く、それは効果的なことも多いのだけれど、探偵役がポワロならば本人のキャラクターが突飛で芝居心に満ちているから、演出的には派手でなくとも、十分に魅力的になるのだが、ミス・マープルにはそういう大向うを狙うようなところはないので、下手をすると流れて終わるというようにもなりがちだ。もっとも、それは作品次第ということにもなるのだろう。


2009年9月6日(英国)

マシュー・マクファディン(ニール警部)
ヘレン・バクセンデイル(英語版)(メアリー・ダブ)
ルーシー・コウ(英語版)(パトリシア・フォーテスキュー)
プルネラ・スケイルズ(英語版)(ミセス・マッケンジー
ルパート・グレイブス(ランス・フォーテスキュー)
ラルフ・リトル(英語版)(ピックフォード巡査部長)
ウェンディ・リチャード(クランプ夫人)
ベン・マイルズ(英語版)(パーシバル・フォーテスキュー)
リズ・ホワイト(英語版)(ジェニファー・フォーテスキュー)
アンナ・マデリー(英語版)(アデル・フォーテスキュー)
ジョセフ・ビーティー(英語版)(ビビアン・デュボワ)
ケネス・クラナム(レックス・フォーテスキュー)
ハティ・モラハン(英語版)(エレイン・フォーテスキュー)
ローラ・ハドック(ミス・グロヴナー)
ケン・キャンベル(英語版)(クランプ)
エドワード・チューダー=ポール(英語版)(バーンズドーフ教授)
ポール・ブルック(英語版)(ビリングスリー)
クリス・ラーキン(英語版)(ジェラルド・ライト)
レイチェル・アトキンス(サナトリウムのシスター)
ローズ・ヘイニー(グラディス・マーティン)
ティア・コリングス(ティリー)

ジェラルディン・マキューアン版・ジュリア・マッケンジー
2004年、ジョーン・ヒクソン版に次ぐ2度目のTVドラマシリーズ『アガサ・クリスティー ミス・マープル』が、独立系のITV
*3において製作された。マープル役にはジェラルディン・マクイーワン(英語版)を起用。日本では2006年12月にNHK-BS2にて放送され、ミス・マープルの吹き替えは岸田今日子が担当した。2008年6月に放送された第2シーズンではマープルの吹き替えは草笛光子に交替した。シーズン4以降、マープル役がジュリア・マッケンジーに交代、日本語吹替えも藤田弓子に変更された。LaLa TVでシーズン1が放映。第2シーズン以降は『親指のうずき』(トミーとタペンスシリーズ)、『なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?』、『ゼロ時間へ』、『殺人は容易だ』、『蒼ざめた馬』など別シリーズやノンシリーズ作品の事件をミス・マープルが解決する設定に脚色し、製作している。なお、時代設定は1950年代で統一されているが、イラク戦争後の世相を反映し、第二次世界大戦の痕跡が強調されている。

アガサ・クリスティー ミス・マープル - Wikipedia

1930年:牧師館の殺人 - The Murder at the Vicarage
1942年:書斎の死体 - The Body in the Library
1943年:動く指 - The Moving Finger
1950年:予告殺人 - A Murder is Announced
1952年:魔術の殺人 - They Do It with Mirrors
1953年:ポケットにライ麦を - A Pocket Full of Rye
1957年:パディントン発4時50分 - 4.50 from Paddington
1962年:鏡は横にひび割れて - The Mirror Crack'd from Side to Side
1964年:カリブ海の秘密 - A Caribbean Mystery
1965年:バートラム・ホテルにて - At Bertram's Hotel
1971年:復讐の女神 - Nemesis
1976年:スリーピング・マーダー - Sleeping Murder

*1:simokitazawa.hatenablog.com

*2:ヒクソン版では冒頭で挿入曲として歌が流れた

*3:ja.wikipedia.org